クラシックピアノから鮮烈なジャズへ! 作曲でも開花するバティスト・トロティニョン
ジャズの世界ではすでに知る人ぞ知る存在、ピアニストのバティスト・トロティニョン。子ども時代からクラシック音楽でピアノを学んできた彼の、クラシックからインスピレーションを得た即興や作曲活動にフォーカス!
岡山市出身。京都市立堀川音楽高校卒業後渡仏。リヨン国立高等音楽院卒。長年日本とヨーロッパで演奏活動を行ない、現在は「音楽の友」「ムジカノーヴァ」等に定期的に寄稿。多く...
映画で出会ったジャズを独学で探求
フランスのジャズピアニスト、バティスト・トロティニョン(1974-)は、2000年のデビュー以来、スタイリッシュな疾走感と艶やかな抒情を兼ね備えたパフォーマンスで、不動の人気を誇っている。
彼の多彩なサウンドは、「クラシック分野で培われた超絶技巧」という括りを凌駕して余りあるものだ。「美しい音」「緻密なバランス」「楽譜への忠実」が必然的に求められるクラシックピアノを習いながら、独学でジャズの世界を探求し始めた思春期を、彼はこのように回想していて興味深い。
私はバッハ、シューベルト、ショパンなど、多くの作曲家の作品を通してピアノを学びました。今もこれらの作曲家を深く愛し、自分の一部だと思っています。ロシアの作曲家も大好きでした。特に、プロコフィエフの音楽に共存する“若々しい熱狂”と“ロマン性”に興奮し、それは思春期の私の心と響き合うものでした。同時期、アフロ・アメリカン音楽のさまざまな姿にも惹きつけられていきました。
ジャズに魅了されたきっかけは、クリント・イーストウッドの『バード』、ベルトラン・タヴェルニエの『ラウンド・ミッドナイト』という2本の映画(両作ともジャズサックス奏者がテーマとなっている)です。グルーヴ感と力強さの一方で、痛み、激しさ、荒々しさ、暗さ、同時に明るさもある……いわば、ブルースの魔法に魅了されたんです。
——仏「ジャズマガジン」2019年11月号より
ここでは彼のもうひとつの顔、近年注目されているクラシック界の音楽家とのコラボレーションや、作曲分野の活動にスポットをあててみたい。
作曲賞受賞作やクラシックをテーマに即興した曲を聴こう!
トロティニョン:ピアノ協奏曲《Different Spaces》
ボルドー・アキテーヌ国立管弦楽団の委嘱で、名手二コラ・アンゲリッシュのために書かれた「ピアノ協奏曲」は、2017年の「グランプリ・リセアン」(高校生を現代音楽に導く目的を掲げる作曲賞)受賞作。2014年のヴィクトワール・ド・ラ・ミュジックの作曲部門にもノミネートされ、彼の作曲家としての価値を広く知らしめる作品となった。
スティーヴ・ライヒの《Different Trains》を彷彿させるタイトルだが、透明感のあるテクスチャーに「協奏曲」という西洋音楽の形式や、ヨーロッパの音楽のさまざまな色彩感が追求されている。
アルバム『Different Spaces』の冒頭に収録した同名の作品
トロティニョン:〈2台ピアノのための3つの小品〉第3番「Moteur」
トロティニョンとアンゲリッシュの2台ピアノは、躍動感の境地。冒頭はベートーヴェンのソナタ《ワルトシュタイン》! 最先端の才能の交錯がまばゆい。
愛聴するCDの一枚は、鈴木雅明のバッハのカンタータ集だというトロティニョン。バッハのアレンジでも、その鮮烈なピアニズムが光る。
前述「グランプリ・リセアン」からの委嘱作《Hiatus et turbulences》は、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団に初演された。トロティニョンの作品はデュラン社より出版されている。
左手に繰り返される音階がリゲティの練習曲「ファンファーレ」を思わせる。ユーモアたっぷりでちょっと皮肉で刺激的な「Speed」(最新アルバム『You’ve changed』より)
クラシックからは逸れるが、最後に、筆者も中学生のころ繰り返し聴いたビートルズの名曲「Here, There and Everywhere」を。陰影に富んだハーモニーが魅力的だ。(アルバム『You’ve changed』収録曲)
ときには無邪気な子どものように、ときには傷ついた野獣のように、ときには瞑想する人のように、聴く者をその宇宙に引きずり込むトロティニョン。ジャズマンの彼を堪能されたい方はこちらから。
トロティニョンのトップトラック
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