プレイリスト
2020.02.18
楽器から入るジャズ入門

ドラムで聴くジャズ3選~ジャズはドラムの違いがわかるともっと面白い!

ジャズを楽器で聴くプレイリスト、トランペッター、サクソフォニスト、ベーシストにつづき、今回はドラマーを紹介。ジャズ入門者には違いがわかりにくいドラムですが、実はもっとも個性が表れるパートでもあります。まったくタイプの違う3人のドラマーを、ジャズ・ベーシストの小美濃悠太さんに選んでいただきました。

リズム隊の人
小美濃悠太
リズム隊の人
小美濃悠太 ベーシスト

1985年生まれ。千葉大学文学部卒業、一橋大学社会学研究科修士課程修了。 大学在学中より演奏活動を開始し、臼庭潤、南博、津上研太、音川英二など日本を代表する数々のジャ...

メインビジュアル:© Hreinn Gudlaugsson

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ドラムの聴きどころって? もっとも個性が表れるパート

これまで、ONTOMO読者諸兄にオススメしたいトランペッター、サクソフォニスト、ベーシストをそれぞれ3人ずつ選んで紹介してきた。今回は「ドラムで聴くジャズ」と題して、ドラムの聴きどころを交えながら3人のドラマーについて語っていこうと思う。

他の楽器と比べて、ドラマーを3人だけに絞り込んで紹介するのは非常に難しい。何しろ、ジャズはドラムが楽しいのだ。管楽器やギター、ピアノが好きというのもわかるが、やはり良いドラマーのいる演奏が最高なのだ。良いドラマーが良い演奏をしていれば、他がダメでもたいてい楽しい(極論)。好きなベーシストが良いドラマーと演奏しているアルバムを見つけたら、ほかのメンバーが誰であってもまずは買うのが私のポリシーだ。だってリズム隊だけで最高だもん。

そんなわけで選定にはかなり苦しんだが、まったく違うスタイルの3人のドラマーを選び抜いてみた。かなり個人的な趣味が反映されているが、気にせず読み進めていただきたい。

現代ジャズドラムの参照点 ブライアン・ブレイド

90年代以降、ジャズドラム界にもっとも大きな変革をもたらした人物のひとりがブライアン・ブレイドだ。彼以降にも新しいスタイルを発見したドラマーは多いが、誰もが参照するという点において彼の功績は非常に大きい。

まずは1995年発売のこちらのアルバムを聴いていただこう。

ジャズの殿堂、ヴィレッジ・ヴァンガードでのライブ録音。2019年にもグラミー賞にノミネートされたジョシュア・レッドマンの初期の作品だ。

1曲目「Jig-A-Jug」から、ピアノとベースのユニゾンが即最高で瞬間的に土下座モンの名演である。0:10あたりで「イェー!」というジョシュアの声が聴こえるが、これは全リスナーの声を代弁している。

1:36からソロパートが始まる。ここまでで既にカッコよすぎて私は失禁しているが、気にせず聴き進めてほしい。シンバルに注目するとわかりやすいと思うのだが、はじめは「チンチキ、チンチキ……」という一定のパターンを演奏している。それが徐々に変形していき、定形のものではなくなっていることが聴き取れるはずだ。

視点を少し引いてドラムセット全体を聴くと、パターン化されたリズムを演奏しているのではないことがわかる。言葉を話すように、音程のないメロディを演奏しているように聴こえないだろうか。ドラムはリズム楽器というよりも、アドリブ・ソロを演奏している奏者に呼応する対旋律として聴くと味わい深い(リズムを提供するのは、むしろベースの仕事だ)。

ブライアン・ブレイド(1970年7月25日〜) アメリカ、ルイジアナ州出身のジャズ・ミュージシャン。
© Hreinn Gudlaugsson

続いて、2002年のウェイン・ショーターのライブ録音から。2曲目の「マスカレロ」を聴いてみよう。

高度に抽象化された演奏である。テキトーに演奏しているように聴こえるかもしれないが、ずっとインテンポの4拍子で演奏されている。抽象的すぎてなんかよくわかんねぇなぁ、という読者は6:00あたりから聴いてみるといい。怒涛の展開に圧倒されるはずだ。

ここでのブライアンのダイナミックな演奏の貢献はあまりにも大きい。大きなうねりを作り出すブライアンの……いいや、もうとにかく聴いてほしい。カルテットが宇宙まで突き抜けた後の7:15からのブライアンはもはや神。解説を放棄するほどの、ダメ押しハイライトが待っている。

極太の杭打つ4分音符と「常に何かやってる感じ」 ガルド・ニルセン(Gard Nilssen)

ザ・メジャー級であるところのブライアン・ブレイドを紹介したので、次は日本であまり知られていないドラマーを紹介しよう。

個人的な話だが、数年前にスウェーデンを訪れた。人気ジャズスポットであるグレンミラーカフェへの聖地巡礼は当然欠かさない。その日はコルテックス(Cortex)という知らないバンドがブッキングされており、店内はほぼ満席だった。

コルテックスは、トランペットとサックス、ベース、そしてドラムのカルテット。4人とも素晴らしいプレイヤーだったが、とりわけベースとドラムのリズム隊は、凄まじい演奏を繰り広げていた。極太の丸太を打ち込むかのような4分音符のグルーヴを聴いているだけで、体が勝手に揺れてしまう。さらに、ガルド・ニルセンのドラミングが、絶え間なく波状攻撃を仕掛けてくる。さすがにそれは過剰なのでは、というレベルの音数でずっと叩いているのだ。

ガルド・ニルセン(1983年6月24日〜) ノルウェー出身のジャズ・ミュージシャン。
© Harald Krichel

驚異なのが、それだけ叩きまくっても邪魔にならないこと。しかも音楽的なダイナミクスがはっきりあって、無闇に叩きまくっているわけではない。会話に例えるなら、こちらは普通に話しているのに、相手は首がもげそうな速さで休むことなく頷き続けているような感じ。それが不快でもなく、会話の邪魔にもならない。そういうプレイなのだ。

まずは彼がリーダーを務めるガルド・ニルセン・アコースティック・ユニティ(Gard Nilssen Acoustic Unity)の演奏を聴いてみよう。1曲目、「チェリー・マン(Cherry Man)」。

冒頭からずっと何かやってる。明らかにフロント楽器のサックスよりドラムが前にいる。凄まじい自己主張だが、許せてしまう。もっとやれ、くらいのことも言ってしまいそうである。絶えずバンドに刺激を与えて、24時間化学変化を起こし続けているようなマッチョな演奏だ。

曲の主題は0:35ぐらいまで。ここから先は即興パートになる。このパートに入った瞬間のベースとドラムの推進力がこの曲のハイライト。ベースとドラムの4分音符の発音の位置が顕微鏡レベルでピッタリ合っていて、それが音楽を強力に前進させている。例えるなら、つま先で地面を蹴るたびに足の裏がロケット噴射して推進力を与えてくれるようなものだ。例えが非現実的すぎて実感してもらえないだろうが、彼らのグルーヴも非現実的なレベルなのだ。

こんなに4分音符がぴったり合って、ずっとバンドに刺激を与えることができるドラマーと一緒に演奏できたら、ベーシストとしてはそれに勝る幸福はない(個人的な意見です)。

彼の録音作品はどれもこれも硬派すぎて、安心してお勧めできるものが少ないのが難しいところ。もう一歩彼の世界に踏み込んでみたいなら、こちらのアルバムを。

ポーランドのサックス奏者、マチェイ・オバラ(Maciej Obara)のカルテット。2曲目の「バラード」を聴いてみよう。曲名に偽りがありすぎる。バラード感は20%くらいしかない。

6:45あたりから危険な空気が流れ始め、8:00以降はすべてをなぎ倒す勢いで叩きまくる。しかしソロは邪魔していない。このバランス感覚が最高だ。

ついでに、3曲目のインダストリアルかつヘヴィなリズム隊も最高。メロディもハーモニーといった曲の主題はすっかり粉々にされている硬派な演奏だが、とにかくマグマのように溢れてくるエネルギーに身を委ねて聴くのが吉。

敢えてブラシで聴く、エルヴィン・ジョーンズ

紹介したいドラマーが多すぎて、最後のひとりは悩みに悩んだ。そこで、私がジャズを聴くようになったきっかけになった名盤でプレイしている、エルヴィン・ジョーンズ(Elvin Jones)をご紹介しよう。ジャズを普段聴かない方にも共感してもらえたら、と願っている。

その野性的なプレイ、力強いスウィング感、手足それぞれ違う拍子を演奏しているような複雑なリズム(ポリリズム)など、ジャズドラムのイノヴェーターとしてあまりにも大きい影響力を持っているエルヴィン。上半身から湯気が立って見えるパワフルな熱演のイメージが強いのだが、キャリア初期には小粋にスウィングする演奏も数多く録音が残っている。

そのうちの一つが、ピアニストであるトミー・フラナガン(Tommy Flanagan)の名盤、「オーバーシーズ(Overseas)」だ。

ここでは、エルヴィンはドラムスティックを使わず全編ブラシでプレイしている。ジャズを聴かない方には馴染みがないかもしれないが、ドラムをハケみたいなもので擦ったり叩いたりするブラシ奏法がジャズでは一般的だ。

さて、1曲目から非常に軽快で小粋だ。フラナガンのコロコロしたピアノのタッチが気持ちよく、ドシッと低音で支えるベースも言うことなし。しかしピアノよりもベースよりも最高なのが、エルヴィンのブラシのプレイなのだ。

ピアノがソロを弾いている裏では、「これぞスウィング」という心地よいリズムを提供しているエルヴィン。しかし1:58あたりから始まるドラムソロでは、「ビターン!」「バシーン!」「ビタビタビターン!!」とブラシを親の仇のように叩きつけている。ハケで太鼓を叩いてるのに、物凄い音圧。これを聴いて「ジャズってとんでもねぇ音楽だな……」と圧倒されたことがきっかけで、ジャズの沼に沈んでいったのが何を隠そうこの私である。

ふええ、すごい……なんて呆然としているうちに7曲目にたどり着くと、アップテンポな「Verdandi(ヴェルダンディ)」でとどめを刺される。「シパパパーン!」「ズドドン!」「ドバドバドバドドン!」カタカナにするとたいへん間抜けだなとは思うのだが、擬音で表現したくなるようなスゴい音でプレイしているのだ。スティックじゃなくてハケで。そんなわけで、トミー・フラナガンには申し訳ないが、このアルバムはドラムを聴く名盤だと思っている。

エルヴィン・ジョーンズ(1927年9月9日〜2004年5月18日) アメリカのジャズミュージシャン、ドラム奏者。© Brianmcmillen

かなり演奏スタイルは変貌しているが、マッコイ・タイナー(McCoy Tyner)の代表作である「ザ・リアル・マッコイ(The Real McCoy)」での演奏も最高だ。1曲目の「パッション・ダンス(Passion Dance)」のエネルギーが凄まじい。時々音圧がマイクの許容量をオーバーしていたり、エルヴィンのドラムソロがどこを演奏しているのか誰もわからなくなっていたり、規格外のエネルギーにこちらもテンションがブチ上がるというもの。

ジャズはドラムが聴けると100倍楽しい!

以上、まったくスタイルの違うドラマーを3人取り上げた。これはジャズドラムの世界のほんの一部であることは言うまでもない。演奏者の個性がもっともはっきり出るのはドラムで、その個性は星の数ほど存在する。きっと誰でもお気に入りのドラマーを一人は見つけられるはずだ。

お気に入りのドラマーが見つかれば、そのドラマーが参加している作品を辿ってみよう。楽しんで聴けるアルバムがたくさん見つかるし、ジャズを100倍楽しく聴けるようになることは間違いない。

リズム隊の人
小美濃悠太
リズム隊の人
小美濃悠太 ベーシスト

1985年生まれ。千葉大学文学部卒業、一橋大学社会学研究科修士課程修了。 大学在学中より演奏活動を開始し、臼庭潤、南博、津上研太、音川英二など日本を代表する数々のジャ...

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