月を題材にしたジャズ曲プレイリスト〜フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーンだけじゃない!
ジャズの名曲には「月」がよく出てくる? エヴァンゲリオンのエンディングで知名度も高い「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」をはじめ、「月」を楽しみ尽くすプレイリストをジャズ・ベーシストの小美濃悠太さんがセレクト。あなたの十五夜に、月と団子とジャズを......。
1985年生まれ。千葉大学文学部卒業、一橋大学社会学研究科修士課程修了。 大学在学中より演奏活動を開始し、臼庭潤、南博、津上研太、音川英二など日本を代表する数々のジャ...
9月のイベントといえば、中秋の名月を愛でる「お月見」。より踏み込んで言えば、月見団子や月見うどん、月見そばといった月見フードを愛でるイベントでもある。
別に1年中いつ食べてもいいのだが、やはり「月を愛でる」という趣深い風習に、無理やりおいしいものを結びつけて楽しむことに意味がある。月見団子を通年食べています、という人には出会ったことがない。価値観や思想は多様化する時代だが、月見と月見フードへの想いは、依然としてすべての日本人の生活そして身体(主に胃腸)に組み込まれていると言ってもいい。
閑話休題。
9月と言えば月、月と言えばジャズ。月を題材にしたスタンダードナンバーは無数にあると言ってもいい。その代表格は言わずと知れた「Fly me to the moon/フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」だろう。ジャズをふだん聴かない方でも、何となく曲名に聞き覚えがあるのではないかと思う。
フランク・シナトラ「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」
あまりにもフライ・ミー・トゥー・ザ・ムーンの知名度が突出して高く、月にまつわる数多の名曲・名演が埋もれてしまっているところもある。そこで、ここでは月にまつわる曲を集めてご紹介していこう。
瞳の奥の魔法の月「オールド・デヴィル・ムーン」
フランク・シナトラなど数々のシンガーのレパートリーから「オールド・デヴィル・ムーン」。シナトラはゆったりとしたテンポでの録音を残しているが、どちらかといえばアップテンポで軽快に演奏されることが多い。
ここでは、ストリングスをバックにヴァース(スタンダードでよく使われる、サビ/コーラスに入る前の導入部分)を歌い、コーラスをスウィンギーに聴かせてくれるジェイミー・カラムの演奏をまずピックアップした。
同じ曲でも違う雰囲気を味わっていただこう、ということでテナーサックスプレイヤーのソニー・ロリンズの名演もあわせてご紹介したい。ニューヨークにある名門ジャズクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」でのライブ録音である。
ピアノやギターといった和音を弾く楽器が不在で、ベースとドラムが繰り出す強靭なリズムをバックにロリンズが豪快に吹きまくる痛快なトラック。ジャズにチャレンジしてみよう、というコントラバス奏者は必聴。ドラムとのコンビネーションでこんな推進力を生み出せたら、もうジャズやめられません。
月明かりがないほうが都合がいい「ノー・ムーン・アット・オール」
スタンダードナンバーをもう1曲、デヴィッド・マンの作曲による「ノー・ムーン・アット・オール」。月の見えない夜、犬だって吠えるのをためらうような静かな夜。月明かりがなくて真っ暗なのは好都合。車を止めて、何をするって……。
そんなオトナな歌は、ダイアナ・クラール(ヴォーカル/ピアノ)のベースとのデュオで。ピアノとベースでひと通り演奏したあとに、ザラっとした息遣いまで聴こえるボーカルは絶品。
ボーカリストが取り上げることが多く、インストゥルメンタル(楽器のみ)での録音はそれほど多くない。その中からキース・ジャレットの演奏をピックアップして、これもボーカルバージョンと並べてみよう。
こちらはスウィンギーな心地良さや歌詞のセクシーさより、手を触れると崩れてしまいそうなギリギリのバランスと緊張感を味わう演奏。ハッとするようなエンディングが、歌詞にはないストーリーの結末を感じさせる、ちょっと怖いような名演。
あなたがいない=夜空に月がない「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」
ONTOMOで楽曲を紹介するときは、スタンダードナンバーを積極的には紹介していない。スタンダードナンバー専門家みたいな人は全国各地にいて、それぞれ一家言をお持ちである。わたくしごとき若輩者がスタンダードナンバーを語るなんて百年早いとクレームが来そうな気がして夜も眠れなくなるからである。
それでも、「月」にまつわるプレイリストをつくるなら、スタンダードナンバーを取り上げずにはいられない。歌詞に「ムーン」が入っている曲だけでも相当な数があって、歌詞の内容が月にまつわるものまで含めると相当な数になる。
この曲もその代表曲。私のもとにあなたが来てくれれば、暗い夜も明るく輝く。あなたのいない夜は月のない夜と同じだ。そんなラブソングで、もともとは「ツー・フォー・ザ・ショウ」というミュージカルに登場する曲なのだそう。
こちらはジャズボーカルの金字塔、エラ・フィッツジェラルドの名演を聴いてほしい。はじめはミディアムテンポで歌い、ワンコーラスを終えたあとにドラムのフィルインを経て、速いテンポでもう一度軽快に聴かせてくれる。そこからのスキャットが絶品! ハウ・ハイ・ザ・ムーンのコード進行を借用して作られた(いわゆる替え歌)「オーニソロジー」も引用し、ジャズボーカルのカッコいいところをこれでもか! と披露してくれるのだ。
せっかくなので、その「オーニソロジー」もあわせて聴いてほしい。調は違うが、コード進行(和声の信仰のベーシックな部分)はハウ・ハイ・ザ・ムーンと同じ。ジャズでは、このように有名曲のコード進行を使って違うメロディをあて、別の曲に仕立てるということがしばしば行なわれる。ここではテナーサックスの巨匠、コールマン・ホーキンスの演奏でお楽しみいただこう。
日本の童謡がジャズに!「月の沙漠」
「月の沙漠」という童謡をご存知だろうか。加藤まさをの詩に、佐々木すぐるが曲をつけたものである。どういう経緯があったのかはわからないが、夭逝した天才トランペッターのリー・モーガンがジャズアレンジして自身のアルバムに収録している。日本の童謡をこのようにアレンジすることで、メロディのエキゾチックな魅力が際立つのが興味深い。
ゴリゴリのストレートなジャズに仕立ててあり、個人的にはテナーサックスのジョー・ヘンダーソンのソロはけだし名演。
「月の沙漠」じゃなくて「月と砂漠」です「ムーン・アンド・サンド」
「月の沙漠」と曲名が似ていて、曲の雰囲気もどこか似ている(そんなことない?)せいで、ときどき混同するのが「月と砂漠」、つまり「ムーン・アンド・サンド」。こちらも名曲である。
再びキース・ジャレットに登場してもらい、ピアノ・トリオでの演奏をご紹介しよう。筆者が個人的に好きな曲で、よく取り上げて演奏していた曲。ベースのゲイリー・ピーコックの自由に歌うソロが素晴らしいテイクだ。
「キース・ジャレットって名前は聴いたことあるけど、どのアルバムを聴いたらいいのかわからない」という方は、ぜひこのムーン・アンド・サンドが収録された『スタンダーズ vol.2』というアルバムを聴いてほしい。キースのアルバムの中では癖が控えめで、かつ演奏は素晴らしい。選曲も渋くてオススメである。
月の神秘が聴こえる「ビトウィーン・ムーンズ」
ガラにもなくスタンダードナンバーばかりを取り上げてきたので、最後に非スタンダード(という言葉はあるのだろうか)を一曲だけ。イギリス出身のピアニスト、ジョン・テイラーの作曲・演奏で「ビトウィーン・ムーンズ」。複雑で神秘的なハーモニーのセクションから、転調を繰り返してオープンなムードになり、また神秘的なハーモニーに戻っていく展開は、月の満ち欠けのよう。曲名の由来はわからないが、夜ごとに形を変える月の神秘を想起させるようなトラックだ。
月ジャズプレイリスト
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