東京JAZZで“今”の音楽の多様性を実感!
昨年から渋谷の街全体で盛り上がるようになった都市型イベント「東京JAZZ」。今年も3日間開催され、ジャズをとっかかりに音楽の多様性と可能性を見せつけた。イベント内で、いい意味での異質さを見せるコーネリアスや超絶テクニック集合体・R+R=NOWなど、注目のアーティストを体感してきた。
8月31日(金)、9月1日(土)、9月2日(日)に行なわれた「17th TOKYO JAZZ FESTIVAL」。
2002年から開催されている「東京JAZZ」は、ビッグネームから新進気鋭のアーティストまで、ジャズという音楽の多様性を実感できる都市型の音楽フェスティバル。去年から丸の内から渋谷に会場が移され、NHKホール、ライブハウス、さらに渋谷センター街、代々木公園ケヤキ並木でもライブが行なわれるなど、まさに街ぐるみのイベントとなっている。今年は“ハービー・ハンコック and His Band”“マンハッタン・トランスファー”“渡辺貞夫オーケストラ”などの大御所をはじめ、Ovall、WONKなど国内の新鋭も出演。
本稿では、9/1(土)にNHKホールの“SOUNDSCAPE”に出演した“コーネリアス”そして“R+R=NOW”のステージをレポートしたい。
日本カルチャーの象徴・コーネリアス登場!
開演時間の12時30分に登場したのは、コーネリアス。小山田圭吾が1993年にスタートさせたコーネリアスは、ギターポップ、フリーソウル、ボサノヴァ、ソフトロック、ヘビィメタルなどの幅広い要素をサンプリング的なスタイルで融合させ、前衛的にしてポップな音楽を体現し続けてきた。近年は映像と生演奏をリンクさせたステージングで高い評価を集め、「Montreux Jazz Festival」「Moers Jazz Festival」といった有名ジャズフェスに出演するなど、海外での活動も多い。
昨年6月には約11年ぶりとなるニューアルバム『Mellow Waves』を発表し、国内の大型フェスに出演するなど、精力的な活動を続けている。
この日のステージは『Mellow Waves』の収録曲「いつか/どこか」でスタート。さらに9月19日にリリースされる新作『Ripple Waves』からの「Audio Architecture」や「Surfing on Mind Wave pt2」、代表曲「Point of View Point」「Star Fruits Surf Rider」なども披露され、コーネリアスの全キャリアをバランスよく堪能できる内容となった。
小山田(V/G)、堀江博久(Key/G)、あらきゆうこ(Dr)、大野由美子(B/Key)による抑制の効いたアンサンブルも印象的。まるでプログラミングされたかのような正確無比なサウンドと洗練された映像がひとつになったパフォーマンスは、まさにコーネリアスの真骨頂だ。楽曲によっては、現代音楽のひとつ、ミニマル・ミュージックの影響が感じられたことにも興味を引かれた。
コーネリアスの出演が発表されたときに筆者は「東京JAZZとコーネリアスの相性はどうなんだろう?」と少し疑問に思っていたのだが、それはまったくの杞憂だった。あらゆるジャンルを自由に横断するハイブリッド感、肉体性を丁寧に取り除いた無機質なアンサンブル、テクノロジーを駆使した演出を含め、(海外から見た)日本のカルチャーを象徴するコーネリアスの存在は、東京という名を冠したフェスにぴったりだったと思う。まるでモダンアートを美術館で鑑賞するように、じっくりと耳を傾けるオーディエンスの姿も心に残った。
超絶プレイヤーが一挙に終結! R+R=NOW
続く“R+R=NOW”(アール・プラス・アール・イコールズ・ナウ)のステージもまた、今年の東京JAZZを象徴するような素晴らしいものだった。R&B、ヒップホップとの融合を大きく前進させ、ジャズの在り方を一新した衝撃作「ブラック・レディオ」(2012年)で一躍ジャズ・シーンのスターとなったロバート・グラスパー。彼が同時代のトップ・ミュージシャンを集めて結成したのが“R+R=NOW”だ。
メンバーはテラス・マーティン(シンセサイザー/ヴォコーダー/サックス)、テイラー・マクファーリン(シンセサイザー/ビートボックス)、デリック・ホッジ(ベース)、ジャスティン・タイソン(ドラムス)そして、現代のジャズにおける最高のトランペット奏者の一人と称されるクリスチャン・スコット・アトゥンデ・アジュアー。全員が名うての演奏家であることはもちろん、テラス、テイラーはプロデューサーとしても活躍(特にテラスはケンドリック・ラマーのグラミー受賞作『To Pimp A Butterfly』を手がけるなど、ジャズとヒップホップをつなぐ最重要プロデューサーとして知られる)。
このグループについてグラスパーは「全員それぞれのサウンドはまったく異なるが、俺たちは皆、同じコンクリート・ガーデンからやってきた。とても誠実で、流動的なサウンドになる。ヒップホップ、EDM、ジャズ、時にはレゲエも聴こえるような。お互いをとてもリスペクトしているから、俺たちは常に相手にパスを出すことができるんだ」と語っているが、最初のアルバム『Collagically Speaking』、そして東京JAZZのステージで彼らは、際立った演奏技術、高い音楽センス、豊かなインタープレイに貫かれたパフォーマンスをしっかりと見せつけた。
ライブの冒頭はアルバム『Collagically Speaking』の収録曲「Respond」「Been on my mind」から。楽曲の骨格だけを残し、メンバー全員の即興的なソロ演奏をつないでいくスタイルは、ジャズの伝統を引き継ぎつつ、きわめて斬新なサウンドスケープを生み出していく。
起点になっているのはジャスティンのドラム。メトリック・モジュレーション(リズム、テンポを規則的に変化させる手法)を自然に取り入れながら、4ビート、アフロビート、ポリリズムを融合させた彼のスタイルは、“グラスパー以降”と称される現代のジャズの最大の特徴である、リズムの革新的な進化を端的に示している。さらに心地よいブラックネスをたたえたデリックのベースが絡むことで、音楽的な質の高さと濃密なグルーヴを併せ持ったリズムセクションへと結びついているのだ。
各メンバーのソロ演奏も秀逸。ヴォコーダーを使ったボーカルで美しく、抑制の効いたメロディを描き出すテラス、得意のボイス・パーカッションを交えながら、アナログ・シンセサイザーでアンビニエントな音響を作り出すテイラー、バンド全体をコントロールしつつ、エレピとシンセで即興的な旋律を描くグラスパー。
そしてなんといってもクリスチャン・スコットである。ルイ・アームストロング、マイルス・デイヴィスをはじめとするジャズ・トランペットの歴史を踏襲しながら、エクスペリメントな現代のジャズとも呼応する彼のプレイはまちがいなく、このバンドの“華”だった。全身ゴールドの和装というエキセントリックな格好もインパクト十分。音楽性、プレイ、ビジュアルを含め、きわめて現代的なソリストだと思う。
ソロ演奏を順番に披露するだけではなく、すべてのリズム、フレーズが緻密に絡み合い、その場で新しい楽曲が創造されるようなステージングもまた、R+R=NOWの魅力。メンバーのなかに一流のプロデューサーが存在していることで、演奏が近視眼的にならず、まるで壮大なストーリーのように楽曲が構築されていくのだ。
その特徴がもっとも強く表れていたのが、やはりアルバムの収録曲である「Resting Warrior」。ハイスペックなプレイが有機的に結びつき、静かな高揚感が広がるなか、最後はトランペットとサックスの主題へと戻る――その瞬間に感じられる解放感とカタルシスは、今年の東京JAZZにおけるもっとも大きなハイライトだったと思う。
約1時間半に及ぶライブが終わると、観客は立ち上がって拍手を送った。筆者の後ろに座っていたシルバーエイジの男性客が「すごい演奏だった。これがいまのジャズなんだね」と感じ入ったように話していたのも、強く印象に残った。
9月19日発売。
2400円(税別)。
発売中。
2700円(税込)。
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