レポート
2020.07.09
「Bunkamuraチャレンジ」スタート

「第九」はどうなる? Bunkamuraが演奏様式を模索する動画を公開

コロナ後の上演形態を模索するさまざまな試みが行なわれているなか、東京・渋谷のBunkamuraも本格的に動き出した。
去る6月20日には、Bunkamuraオーチャードホールにて、沼尻竜典指揮・東京フィル、新国立劇場合唱団の12名による、ソーシャル・ディスタンスを保ちながらのさまざまな編成による試演が行なわれた。

取材・文
林田直樹
取材・文
林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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合唱付きオーケストラの公演は果たして大丈夫なのか?

これは多くの音楽家や音楽関係者、そして音楽ファンがもっとも気にしていることだろう。

早い話、年末の「第九」は可能なのだろうか?

6月20日のBunkamuraオーチャードホールでの試演は、沼尻竜典(びわ湖ホールでの3月7、8日の「神々の黄昏」無観客ライブストリーミング以来)の指揮、東京フィルハーモニー交響楽団の演奏。

オーケストラの編成と並び方で響きを実験

まずは、ベートーヴェンの交響曲第5番(運命)の第1楽章を、各奏者が前後左右2メートルずつの距離をとって、第1ヴァイオリン4名、第2ヴァイオリン3名、ヴィオラ3名、チェロ2名、コントラバス1名と弦楽器を大幅に少なくした形(管楽器は通常の規模)で。

視覚的には風通しの良すぎるスカスカな並び方だったが、リハーサルを重ねるうちにみるみる良くなり、かなり厚みのある響きが得られるようになった。私は2階席での見学だったが、2150席のオーチャードホールでも、少人数のオーケストラは意外と立派に成立するものなのだと思った。

 

次は、同じ曲を従来通りのフル編成で。

ただし、奏者間の距離は前後が1.5メートル、左右は80センチ。弦楽器群と管楽器群との間には透明なシールドを設置し、金管群の前は2メートルの間隔を空け、金管奏者の前と左右にもシールドを設置。

しかしこれは遠目からは視覚的にほとんど普段と変わらず、いつものオーケストラ本来の、密度濃い、スケール感のある響きが楽しめた。

合唱団の歌声はマスクやフェイスシールドでどう変わる?

最後には、ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」の第4楽章の一部を、12名の新国立劇場合唱団のメンバーが、ソーシャル・ディスタンスを保ちながら、最初はマスクを着けて舞台上で、次にフェイスシールドを装着して左右の2階席から、歌った。

マスクの場合は、子音がどうしても聴き取りづらかったが、声の響き自体は思いのほか客席にも届くと感じた。しかし、フェイスシールドの場合は、女声はともかく男声はほとんど聴こえず、まだまだ課題があると感じられた。

それでも、久しぶりに生の声をコンサートホールで聴くことのできた感激は大きかった。器楽はもちろんのことだが、こんなにも声楽というものは、聴き手の心にダイレクトに響くものなのかと、震えるような気持ちを味わった。

やはり、どんなに小規模でもいいから、声楽の生演奏はぜひ復活してもらいたい。

マスクを着けて舞台上で第九を歌う、12名の新国立劇場合唱団のメンバー。
フェイスシールドを着用して客席2階で歌う。

演奏家は環境に合わせられる生き物

試演後、楽屋に沼尻竜典さんを訪ねた。

久しぶりの生オーケストラ指揮ということで、2階席から見ても、あのクールな沼尻さんが高揚していたのがよくわかったが、こんなコメントを残してくれた。

「以前は私も東京フィルの正指揮者でしたから、このオケの順応性の高さはよく知っています。やっていうるうちに、違和感はどんどんなくなりました。弾いているほうは大変だったかもしれませんけど……。

本来、我々演奏家は、ホールに、環境に合わせることのできる生き物なんですよ」

指揮者の沼尻竜典さん。

この最後の言葉は、頼もしかった。

コロナ後の状況は、生の音楽にさまざまな制約をもたらすかもしれない。しかし、そうした難しい環境であっても、演奏家はそれにも適応する本能を持っている。

「声楽に問題があるなら、この際、PAをかけたっていい」

とも沼尻さんはおっしゃっていた。私も、そう思う。音楽的にも自然で満足できる響きを得られるのなら、思い切った工夫を始めてもいい。演奏家も聴衆も、喉から手が出るほど欲しいのは、コロナ後も安心して継続的にライブを再開できる可能性と場所なのだから。

今回の試演の模様は、Bunkamura公式動画として無料公開されている。オーチャードホール芸術監督・熊川哲也の力強いメッセージ、そして試演に立ち会った脳科学者・茂木健一郎による親しみやすいガイドとともに、試演での響きの具合も確認できる。

「Bunkamura チャレンジ」Orchard Artists Opinion 第1回スペシャル

Bunkamuraでは、今後「オーチャード・アーティスツ・オピニオン」として、ライブとアートの魅力を、舞台から発信する動画コンテンツを作っていくという。そこには美術や映画など、Bunkamuraならではの多様な展開もあるというから楽しみだ。

なお、近日中には、Kバレエ・カンパニーの新作動画も公開される予定である。

2か月ぶりに稽古場に集ったK-BALLET COMPANYの5人のダンサーによる新作「運命」。振付はKバレエのプリンシパルの宮尾俊太郎(写真左)。総合演出は、BunkamuraオーチャードホールならびにK-BALLET COMPANYの芸術監督、熊川哲也。
映像ならではの照明やカット割りで、劇場の搬入口や屋上、客席、リハーサル室など、舞台とは異なる踊りの魅力を映像化する。7月下旬公開予定。
「Bunkamura チャレンジ」情報
Orchard Artists Opinion 第1回スペシャル

東京フィルハーモニー交響楽団

“新しい生活様式、オーケストラはどうなる?”

 

出演: 沼尻竜典(指揮)、東京フィルハーモニー交響楽団、新国立劇場合唱団、茂木健一郎(コメンテーター)

演奏曲:

ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調「運命」作品67 第1楽章より抜粋

ベートーヴェン:交響曲第9番 二短調「合唱付」作品125第4楽章より抜粋

収録会場: Bunkamuraオーチャードホール 2020年6月20日(土)収録

詳しくはこちら

取材・文
林田直樹
取材・文
林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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