子どもと音楽 No.4 座談会 第2回〈後編〉

子どもにコンサートを! 演奏の喜びを! そのために大人は何ができるのか、母たちのアイデア出し

レポート
2019.12.05

音楽業界で働く4人と、音楽之友社に務める4人の母たちによる「音楽と子育て」座談会。
第3回は「子どもとコンサート」という話題からどんどん飛び火(?)して、最後は「どうしたら大人にも子どもにもコンサートに足を運んでもらえるか」「どうやってクラシックを楽しんでもらうか」について、各自があの手この手のアイデアを出し合うところまで進みました。

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写真:編集部
司会・文
室田尚子 音楽ライター
室田尚子
司会・文
室田尚子 音楽ライター
東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

コンサートホールの中の子どもたち

ONTOMO編集部・和田 子どもが小さいうちは、なかなか長時間じっとしていられないですよね。それが怖くて、ホールに連れて行くのを躊躇してしまう親御さんは多いのではないでしょうか。

ミューザ川崎広報・前田 最近はだいぶ変わってきましたが、とはいえ、厳しいお客様というのはいらっしゃいます。相手が子ども、大人に関わらずクレームをいただくことは多いです。「隣の席の人がオペラグラスを覗く動作が気になるので止めさせてくれ」と言われたときには、さすがに驚きましたが……。

メゾソプラノ歌手・鳥木 あえて撮影OKや撮影コーナーのあるコンサートもしているのですが、趣旨が理解されにくかったみたいで「休憩中に、鳥木さんが舞台上から注意してくれ」と言われたこともあります。

一同 無理!(笑)

日本フィル広報・杉山 確かにマナーは大切ですが、そればかり強調するのもちょっと、と思うことがあります。最近「指揮棒が降りるまで拍手はご遠慮ください」というアナウンスが流れるホールもあるんですが、それを好まない指揮者もいます。

前田 子どもたちがクラシックを遠ざけてしまう原因のひとつに、コンサートがマナー教育の場になってしまっていることがあると思うんです。たぶん、クラシック音楽の鑑賞教室がスタートしたときに、学校現場の中で「これは子どもがマナーを学ぶための社会教育である」というふうに理由づけがされていたのではないでしょうか。でも、子どもにとっては、それじゃつまらない。

音楽ライター・室田 クラシックだけでなく、いろいろな音楽を聴く機会があるといいですよね。フランクに聴くものがあってもいいし、ここはきちっとおめかしをして行く場所なんだという経験もあっていい。

バンドジャーナル編集部・上林 小さい頃、親にコンサートに連れていかれたけれど全然好きになれなくて、中学校になってなんとなく吹奏楽部を選んだら、「あれ、俺、音楽好きだ」と気づいた、という子がいました。種まきは大事だと思います。

前田 「いろいろな音楽家が関わっている生の音楽って楽しいんだよ」っていうことを子どもたちには知ってほしい。

鳥木 「客席も音楽を作る一部になっている」ということを体験してほしいです。

演奏の喜びを知ってほしい!

室田 「聴く」ことと同時に、「演奏する」ことの楽しさ、というのも子どもには知ってほしいと思いませんか。

鳥木 息子の小学校では、朝の音楽会というのがあって、クラスで何か1曲演奏するんです。息子はそこでグロッケンを演奏して楽しそうでしたよ。

前田 川崎市では「かわさきジャズ」というイベントの一環で小学校を訪問しています。「ライブの楽しさを知ってほしい」という趣旨でラテン・ジャズ・バンドが行くんですが、「ボンゴやりたい人」「ドラムやりたい人」って子どもたちに聞くと、すぐに大勢の手が上がるんですね。そして、演奏の最後には全員スタンティングで熱狂して……。クラシックでも、そういう「演奏の喜び」を肌で感じるような場があるといいのにな、と思います

杉山 楽器の演奏って、スポーツと同じで必ず辛い時期があるじゃないですか。でも、それを乗り越えて到達する面白さがある。子どもたちには、そんな体験をどんどんしてほしいですよね。辛そうだな、と思ってその手前でとまってしまうのは本当にもったいない。

室田 うちの子を見ていると、失敗することを異様に恐れるんですね。集団からはみ出るのを恐れている。でも、失敗しないようなことだけを上手に選んでいると、努力した先に何かがあるという体験をしないまま大人になってしまう。

和田 子どもたちに自分から「努力したい」と思ってもらうには、どうしたらいいんでしょうか。

教科書編集部・茶畠 最初は「これ素敵!」「かっこいい!」というところからスタートしますよね。そのときの衝撃が大きければ大きいほど、壁にぶつかったときに頑張ろうと思えるんじゃないでしょうか。

鳥木 息子が5歳のときに、友人でバリトンの押川浩士さんと一緒に「多摩ジュニア・ミュージカル」という団体をスタートさせました。最初は息子の友だちを集めて指導していたんですが、ミュージカルはとても需要があって徐々に人数が増えてきて、今、5歳から中学校2年生までが所属しています。年1回発表会を開きますが、配役はオーディションで決定。親も出演しますし、衣裳もみんな手作りです。子どもたちは本当に楽しんでいるみたい。

上林 学校以外の場所に仲間がいる、というのは、とても大切ですね。

杉山 スイミングの「級」みたいにわかりやすいステップがあると、ひとつひとつクリアしていこうというモチベーションになりますよね。「あのとき大変だったけれど、できるようになった」という地道な成功体験は、そのあと続けて行くための原動力になるのではないでしょうか。 

和田 音楽の先生、ピアノの先生は「きちっとしたスカートを履いて、上品」な母とは違うタイプの女性が多いので、息子たちにとっては緊張もするし、「女の子がやるもの」という空気を感じてしまうようなんです。

鳥木 わかる! 指導者やピアニストがそういうタイプだと、殺伐とした雰囲気になっていくそうです(笑)。

和田 あらかじめ先生の敷いたレールがあって、素直にそれに乗れる子はいいのですが、やんちゃな息子たちはピアノの構造や動きとか楽譜の絵とか、いろいろ気になることが多すぎて、なかなか弾きはじめない……無理にレールに乗せようとすると脱落してしまう。「道」から外れてしまうと、先生も指導しづらいようですが、うまく乗せてもらえたらうれしいなと。

室田 茶道みたいに「ピアノ道」になると、決まり事が多すぎて特に男子は嫌になっちゃいますよね。

子ども/若者にコンサートに来てもらうには?

室田 みなさんがクラシックを好きになったきっかけって何ですか?

前田 小学校の鑑賞教室で、地元の消防隊が演奏してくれた「ウィリアム・テル」序曲です。

杉山 私は、母に連れて行かれたコンサートかなあ……。

前田 小学生・中学生は、親御さんが連れてくるというケースが多いですね。高校生になると、部活でまとまって来るという人たちもいます。

上林 吹奏楽部だと、熱心な先生は部員を連れてコンサートに行ったりします。みなさん、「いい音を聴くと、その後の練習の音が違います」とおっしゃいますね。

前田 いざ行こうと思っても、どのホールで何をやっているのか、チケットの買い方とか、入り口がわからないというのはよくいわれますね。

この間『グレの歌』を上演したときに、アンケートで「どこでこの演奏会のことを知ったのか」を尋ねたら、意外と反応があったのが、秋葉原駅と大宮駅の駅貼りポスターだったんです。普段はコンサート会場に来る方々を対象にした施策ばかり考えているので、お客様を呼ぶためのきっかけの作り方が下手だったのかもしれない、と反省しているところです。

茶畠 子どもだと特に、何から情報を得ているのかがわかりにくい。例えば、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番がカッコいい、と思った子がいたとして、そこからどうやって自分の興味を広げていくのかが、主催者の側には見えにくいんじゃないでしょうか。

前田 「次の一手」か……。

杉山 美容院とかレストランみたいに「1回演奏会に来たら、次は特別に1000円引き」とか、「定期演奏会10回来たら、次は席をランクアップする」とか。

前田 行ったら面白そうという気持ちにヒットする企画、つまり音楽に付随するサービスで引っ張ってくる、という方法ですね。

鳥木 みんな通販が大好きだから、クラシックのコンサートも通販みたいにして売れないかな?

前田 ワインの頒布会方式! ワインがわからない人にも、この月はフランスの赤、この月はイタリアの白が届きます、っていうのですね。知らなくて選べない人のために、毎月いろんな曲目をパッケージしてあげる。

杉山 それ、オケの定期演奏会!(笑)

鳥木 団体の壁を超えてできたらいいですよね。10月は藤原歌劇団のオペラ、11月は日フィルの交響曲演奏会、みたいな感じで。あ、そうだ! 結婚式の引き出物カタログにコンサートを載せる!(笑)

室田 子ども向け、親子向けとか、いろいろなパターンのパッケージを作る。子ども向けにはレクチャーもつけてあげたら、親も安心です。

ライブビューイング、ネット配信……新しい「聴き方」の時代

和田 ウィーン国立歌劇場では、夏は外でライブビューイングがあって人気らしいですね。日本でもああいうことができたら、オペラのお客さんが増える気がします。

室田 以前に、新国立劇場でライブビューイングやればいいのに、って話したことがあるんですが、日本では歌手の人があそこまでインタビューに答えてくれたりしないんじゃないか、って……。

鳥木 歌手は全然嫌じゃないです! むしろ喜んで話しますよ!! 

前田 こうでなければ、というのが作り手のほうに強すぎるのかも

杉山 配信をすると劇場に来るお客さんが減る、という人がいますね。

鳥木 いる! ゲネプロ公開すると本番にお客さんが来なくなる、とかいう人! 絶対にそんなことないのに。

室田 今、これだけみんなが配信で音楽を聴いたり動画を見たりする時代なんだから、やりようはいくらでもあると思いますよ。例えば24時間はタダで配信するけれど、そのあとはお金払ってね、とか。

前田 ウィーン国立歌劇場とか、ヨーロッパの劇場はどんどんネット配信していますよね。それで世界にファンを増やしている。日本もやっていかないと、世界的に見たらファンを減らしていくことになるのでは。

上林 音だけの配信だと若い人は退屈してしまうかもしれないので、映像と一緒に見せるのが大事かもしれません。楽器はこんなふうに弾いているとか、こんな音が出ているというのが視覚と一緒になると、もう少し興味を持ってくれるのではないでしょうか。

前田 ゲネプロや公開リハーサルで、指揮者が副音声で解説してくれるという企画を見たことがあるんですが、すごく面白くて大好評でした。

鳥木 劇場の座席にモニタがあって、チャットでそのときに解説の字幕が出てくる、というのも面白いのでは

前田 コンサートホールのあり方も変わって行くべきかもしれませんね。タブレットで調べながら聴きたい人のためにタブレット・エリアを設けるとか、座席のモニタでレクチャーを見られる席を作るとか。

杉山 1日目はレクチャー席で聴いて、2日目は通常席で聴いてみるという人も出てくるかも。

室田 もっと自由に、「クラシックは、コンサートはこうあるべき」というのを外すことができれば、いろいろな可能性が広がりますね。

鳥木 子どもにも大人にも音楽を楽しんでもらうために、いろいろなコンサート、いろいろなホール・劇場がある、という状況になっていけばいいなと思います。

座談会を終えて

世間的には特殊な仕事をしていると「ママ友」と悩みを打ち明け合うことができないし、逆に、同業者の中にはほとんど子育て中の女性がいなかったので、孤独な育児を続けてきました。今回、同じ業界の中で頑張っている母たちと語り合うことができて、本当に励まされました。これから子育てに臨む若い人たちへのエールになれば嬉しいです。(音楽ライター・室田尚子)

 

同じ音楽業界とはいえ、なかなかゆっくりお話できる機会のない(しかも母業でも忙しい)皆さまとの座談会。非常に刺激的でスカッとする時間でした。試行錯誤はまだまだ続きますが、音楽の面白さを「クラシック」と、ひと言では括れない歴史と多様性も含めて子どもたちに伝えていきたいです。それから……ついにPTA役員が回ってきました!(笑)(メゾソプラノ歌手・鳥木弥生)

 

普段ひとりで悶々としつつもほったらかしていることを、皆さんと共有することができてとても楽しかったです。ありがとうございました。何事においてもですが、ラッキーな「出会い」も大事なのかもしれないですね。音楽に限らず、子どもたちが、そしてもちろん大人も、心を豊かにしてくれる「何か」に、出会えますように。(日本フィル 広報・杉山綾子)

 

「母親」という共通項でここまで饒舌になれてしまうのか(笑)! 貴重な場に参加させていただきありがとうございます。問題意識を楽しい知恵に変え、子どもに限らず、さまざまな世代、ライフスタイル、教養などに音楽との接点を見つけて多彩な興味関心を広げる企画やコミュニケーションを作り出していきたいですね。(ミューザ川崎 広報・前田明子)

 

合唱コンその後:一度はクラスのテンションが下がりどうなることかと思いましたが、徐々にまとまりが出てきて、本番では想いのこもった演奏になっていました。1年生からは「来年はモルダウをやりたい」という声も多数聞かれたそうです。やはりクラシックの力!(音楽之友社 出版部楽譜課・山本美由紀)

 

クラシック音楽の業界で働いている(といってもお仕事はさまざま!)方々と“子ども”をテーマにお話できる貴重な機会となりました。いろいろな情報に、驚きや感動、課題などもありましたが、音楽が子どもとどんなふうに寄り添っていくと豊かな人生を歩んでいけるのかを、今後も模索していけたらと思います。(音楽之友社 バンドジャーナル編集部・上林千紗子)

 

子育てをしながら最前線で闘ってきた先輩方はとてもエネルギッシュで圧倒されてしまい、ひたすら聞くだけの場面もありました(笑)。今後も子どもと音楽を楽しめる場所にたくさん出かけつつ、自分の仕事にも生かして(我が子に限らず)子どもたちの音楽ライフをサポートしていきたいです。(音楽之友社 出版部教科書課・茶畠愛)

 

我が子たちにヒットするような音楽体験ってなんだろう? と半ば無理やり連れ出したり、自宅で流してみたりと機会を設け、晴れの日もどしゃぶりの日もありましたが、みなさんの試行錯誤する様子をお伺いして勇気づけられました! 子どもも大人も楽しめる音楽との多様な関わりを模索していきます!(音楽之友社 ONTOMO編集部・和田響子)

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