レポート
2023.10.10

鎌田紗綾さんが第2次に進出!ショパン・ピリオド楽器コンクール第1次予選レポート

第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクールの第1次予選が10月6日から3日間にわたり開催されました。出場者の国籍中もっとも多い日本から第2次予選に進んだのは、鎌田紗綾さんの1名のみという衝撃の結果に。第1次予選の中から、とくに注目された演奏をピックアップしてお届けします。

取材・文
青柳いづみこ
取材・文
青柳いづみこ ピアニスト・文筆家

安川加壽子、ピエール・バルビゼの各氏に師事。フランス国立マルセイユ音楽院首席卒業、東京藝術大学大学院博士課程修了。武満徹・矢代秋雄・八村義夫作品を集めた『残酷なやさし...

メインビジュアル:第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクールの第1次予選で演奏する鎌田紗綾さん(ワルシャワ、フィルハーモニー室内楽ホール)

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作品にふさわしい楽器の選定も審査対象

2023年10月6日から3日間、ワルシャワのフィルハーモニーの室内楽ホールで第1次予選が始まった。

モダン楽器のコンクールでは、ひとつのラウンドで弾くのは5台の中から選定した1台だけだが、ピリオド楽器は6台あり、2台以上3台までの楽器で演奏し、そのうちウィーン式のアクションの楽器を1台以上入れることが義務づけられている。 

プレイエルは1842年製と1830年製(2009年複製)、エラールは1838年製、グラーフは1835年製、ブロードウッドは1846年製、ブッフホルツは1925年製(2017年複製)。

第1次予選の課題曲はバッハの平均律から1曲、モーツァルト《幻想曲 ニ短調》か《ロンド イ短調》、ショパンの若い頃のポロネーズと、周辺の作曲家のポロネーズ、そして《舟唄》かバラード4曲。それぞれの作品にふさわしい楽器を選定することも審査の対象になる。

演奏スタイルも、モダンのコンクールとは異なっている。モダンの場合は楽譜の範囲内での解釈が求められるが、ピリオドの場合は、たとえば楽曲の前や間に任意のパッセージを加える、繰返しの後でヴァリアンテ(装飾)を加える、といったことが可能になる。

モダンの専門家とフォルテピアノの専門家からなる審査員がその辺りをどのように評価するか、注目が集まった。

モダンでは得られない世界を描き出したコンテスタントたち

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最初に登場したアメリカのデレク・ワンは、バッハの「平均律クラヴィーア曲集第1巻」より「嬰ハ短調」で、プレリュードの前に前奏をつけて夢見るように弾き、フーガからショパン《バラード第4番》の間も即興的走句でつないでいた。

デレク・ワン(アメリカ合衆国)

中国のZhongも、モーツァルト《幻想曲 ニ短調》で繰り返しごとに装飾を変え、続くクルピンスキのポロネーズやバッハの平均律でも、遊び心たっぷりに装飾を工夫して聴きてを楽しませた。

Yonghuan Zhong (中国)

今回の演奏楽器に選ばれているグラーフとブッフホルツには4本のペダルが付き、組み合わせ次第でさまざまな効果が得られる。また、高音と低音では違う楽器かと思うほど音色が変わる。

カナダのエリック・グオは2021年の第18回ショパン・コンクールでも本大会に出場した実力者。モダンピアノも見事に弾きこなすのだが、ここではグラーフのペダル効果を巧みに使い、バッハの前奏曲ではつぶやくような語り口、フーガでは各声部を立体的に歌い、モーツァルトの《幻想曲 ニ短調》でも、ペダルを駆使して天国的なピアニシッシモを作り、モダンでは得られない世界を描き出していた。

エリック・グオ(カナダ)

フォルテピアノ奏者に必要なスキルとモダンピアノ奏者に必要な演奏能力を兼ね備えていたのが、最後に登場した中国系ドイツ人のTruong。手すさびのような美しい序奏からオギンスキのポロネーズに入り、ヴァリアンテを入れるたびに空気が心地よく動く。かと思うと、ショパン《バラード第2番》は、シングルアクションでは弾きにくいはずのコーダを1842年製プレイエルで見事に弾ききった。

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