レポート
2021.09.22
小さな街に多くのボランティアも集結

各国の伝統音楽を、次の世代へとつなぐギリシャの音楽祭「Cosmopolis Festival」

8月26日~8月30日(現地時間)にギリシャで行なわれた民族音楽のフェスティバル「Cosmopolis Festival」のCosmo Worldセクションに、ゲストスピーカーとして参加された、音楽プロデューサーの野崎洋子さん。フェスティバルの様子や、現地での音楽、さらには海外プロモーターによるレクチャーなどをレポートしていただきました。

フェスティバルのゲスト・スピーカー
野崎洋子
フェスティバルのゲスト・スピーカー
野崎洋子 音楽プロデューサー

1966年千葉県生まれ。日本大学文理学部出身。 メーカー勤務を経て96年よりケルト圏や北欧の伝統音楽を紹介する個人事務所THE MUSIC PLANTを設立。 コンサ...

(c) Cosmopolis Festival
ヤヌシュ・プルシノフスキ・コンパニャのコンサート

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欧州各国から人が集まる国際的なフェスティバル

コロナ禍で、海外への渡航がまだまだ不自由ななか、カヴァーラという町で行なわれたCosmopolis Festivalという音楽祭の招待を受け、ギリシャ最大というワールド・ミュージックのフェスティバルを体験してきた。カヴァーラは、アテネ方面とはかなり離れたマケドニアの文化圏で、その歴史は紀元前6世紀までさかのぼることができる。人口6万人ほどの小さな町で、この夏の酷暑で山火事が大騒ぎとなった灼熱のビーチと、世界遺産であるピリッポイの古代遺跡がここの主な観光資源だ。

話を聞けば、このフェスティバルの仕掛け人は、スイスからやってきたミュージシャンで、フェスティバルで働く多数のボランティアも、ヨーロッパ各地から集められたのだという。決してローカルなだけではない国際的なマインドを持ったフェスティバルなのだ。

実は、バルカン半島の音楽は、私が普段親しく接しているケルト音楽とも無縁ではない。60年代終わりにこの地を放浪し、この地方の音楽をアイルランドに持ち込んだのが、アイルランド音楽シーンにおけるもっとも革新的存在である伝統音楽家アンディ・アーヴァイン。彼によってもたらされたバルカン半島特有の変拍子は、のちにビル・ウィーランも公言しているとおり有名なアイリッシュ・ダンスをもとにした舞台「リバーダンス」となって、90年代の世界的なケルト音楽の盛り上がりを牽引することになったのだ。

アンディ・アーヴァインのファースト・ソロ・アルバム『Rainy Sundays… Windy Dreams』と、リバーダンスの音楽

マズルカの伝道師ヤヌシュ・プルシノフスキや、バスク地方のバンド、アメリカのギター・バンドが出演

それにしても、ヨーロッパにはこういった小さな街で、音楽を「ネタ」に街おこしを仕掛け、成功している例が本当に多い。ワールド・ミュージックは、それこそリスナーを選ばず、何も前情報がなくても無条件で楽しめる音楽なのだから、今後日本でもこういった動きがもっと出てこないものかと思う。音楽の背景にある異文化を生で見ることは、子どもたちの教育にもつながるし、街の人々にユニークな体験をもたらす。こういったイベントに対する市民の理解も高く、地方自治体が提供する文化助成金も豊富だ。

コロナ禍ということもあって、ステージのほとんどが屋外に設置されており、海外からの招聘が簡単ではない今年のフェスティバルは、地元のバンドによるステージがその多くを占めていた。

とはいえ、やはり注目は海外組で、日本にも来日経験があるポーランドのヤヌシュ・プルシノフスキ・コンパニャは美しくライトアップされた要塞と水道橋をバックに、ショパンの音楽の心ともいえるパワフルな農村マズルカを演奏し聴衆を熱狂させた。他にもスペイン、バスク地方のバンドEntavíaや、アメリカのギター・バンドCity of the sun、ギリシャのユニークな女性トリオSinafi Trioなどがラインアップに並ぶ。

ヤヌシュ・プルシノフスキ・コンパニャほか、出演者の音楽

コンサートに使われている水道橋とカヴァーラの町を見下ろす要塞
©Cosmopolis Festival

この状況下でなければ、コンサートだけではなく数々のアウトリーチ活動(学校や病院訪問など、コンサートに来られない人に音楽を届ける活動)や、それぞれの国の郷土料理のワークショップなども予定されていたものの、その多くがキャンセルとなってしまい、とても残念だったが、それでも太陽が輝くこの海辺の町は、フェスティバルを彩るポスターや横断幕で彩られ、真夏の活気をみせていた。

先代から預かった宝物を、次の世代へ

私が参加した海外のプロモーターによるレクチャーは、夕方の涼しい野外のスペースで行なわれ、スペイン、スウェーデンで活動されているプロデューサーたちも登壇し有意義な時間となった。どこの国においても、自国内だけではなく海外をツアーしたいと考える音楽家は多い。各国の担当者たちは、なるべくそんなミュージシャンの皆さんに具体的な方法を伝えようと、自国の音楽ビジネスをとりまく環境やメディアの状況を紹介し、熱心に耳を傾けるオーディエンスも多かった。

しかし、他の登壇者たちの話を聞いていて、もっとも心を動かされたのは、レクチャーの最後のトリを務めたヤヌシュ・プルシノフスキの「伝統音楽とは、先代から預かった宝物を、次の世代へとシェアしていくこと」という言葉だった。確かに、プロのミュージシャンとしては、どこの国へツアーに行ったとか、どこそこのメディアで紹介されたとか、そういったことは自分のプロフィールを形成する上でとても重要だ。しかし、伝統音楽家の最大の使命は、先代から預かった大事な宝物を、責任を持って次の世代に伝えていくこと。この大きな使命の前では、個人の成功など意味がないに等しい。

いわゆる「音楽ビジネス」はたかだかここ100年程度の話にすぎないが、伝統音楽は形を変え400年、500年と生き延びてきている。私たち伝統音楽関係者はこの大きな大きな流れの一部として、ここ数年たまたまこの宝物にかかわり機能しているにすぎない。そんなことを思い出させてくれたヤヌシュの力強い言葉であった。

同じことは、このギリシャの小さな街、カヴァーラにもいえる。随分前に村上春樹のエッセイ『遠い太鼓』(講談社)で読んだこの国の実情は、決して楽観的なものではなかったけれど、彼らから見たらここ数年の不況などはどこ吹く風。ここには何千年も人間がこの地に住んできたという弛まない自負、余裕とも言える自信がある。そして、この小さな街がこんなふうにありとあらゆる文化の音楽を紹介しようと、こんなにも頑張っている。そんな力強さを感じさせたのであった。

ここに集められた関係者たちは、来週にはハンガリーのまた小さな街で行なわれる別のフェスティバルに向かうのだという。ワクチンが比較的普及している安心感からか、ヨーロッパの音楽シーンは確実に活気を取り戻しつつある。一方、日本に帰る筆者は、自分の国に帰るのにPCRの検査を3度受け(すべて陰性)、帰国者専用の隔離ホテルに隔離されるなど痺れるような体験をした。まだまだ海外への出張も観光旅行もハードルが高いけれど、来年の今ごろには、無事に多くの来日公演や音楽フェスティバルが再開されるよう期待したい。

Cosmopolis Festival 公式プロモーションムービー

フェスティバルのゲスト・スピーカー
野崎洋子
フェスティバルのゲスト・スピーカー
野崎洋子 音楽プロデューサー

1966年千葉県生まれ。日本大学文理学部出身。 メーカー勤務を経て96年よりケルト圏や北欧の伝統音楽を紹介する個人事務所THE MUSIC PLANTを設立。 コンサ...

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