名作2人芝居を劇場とVR配信で! リーディング・スタイルの演劇を音楽ライブのように楽しむ
コロナ禍から生まれた、ひとつの舞台を劇場と配信の2通りで楽しめる「STAGE GATE VRシアター」。その第1作となる『Defiled-ディファイルド-』は、2000年初演の2人芝居。今回は、演出家の鈴木勝秀が「音楽、現代音楽に近い」と語るリーディング・スタイルでの上演です。劇場とVR配信、どちらも観劇した高橋彩子さんが、内容はもちろん、それぞれ異なる楽しみかたもレポートします。
早稲田大学大学院文学研究科(演劇学 舞踊)修士課程修了。現代劇、伝統芸能、バレエ、ダンス、ミュージカル、オペラなどを中心に執筆。『The Japan Times』『E...
コロナ禍から生まれた新しい観劇スタイル「STAGE GATE VRシアター」
シーエイティプロデュースが、COVID-19によるニューノーマル時代に合わせた「STAGE GATE(ステージゲート)VRシアター」をスタートさせた。1つの舞台を劇場、そして配信プラットフォームで数日後に届けるVRと、2通りの観劇方法を選んでチケットを購入する形式で、1作品あたり約30公演、年間で4作品を上演するという。
記念すべきvol.1はアメリカの劇作家リー・カルチェイムが執筆した『Defiled-ディファイルド-』。図書館の目録カードが廃棄されデータベース化されることに抗議し、爆弾を持って図書館に立てこもった元図書館員ハリー・メンデルソンと、彼との交渉・説得を試みる刑事ブライアン・ディッキーの2人芝居だ。
2000年の世界初演では『ジェローム・ロビンズ・ブロードウェイ』でトニー賞主演男優賞を受賞しテレビシリーズ「となりのサインフェルド」でも知られるジェイソン・アレクサンダーがハリーを、「刑事コロンボ」シリーズで有名なピーター・フォークがブライアンを演じた。日本では、鈴木勝秀演出で、大沢たかおのハリー、長塚京三のブライアンで01年に初演。最近では17年、戸塚祥太のハリー、勝村政信のブライアンで再演された。
今回も演出は鈴木が手がけ、舞台上のディスタンスを確保したリーディング・スタイルで、上演時間も短縮し、全15組が日替わりで出演している。
一つの空間で共有する、生の舞台のリアリティ
まずは生で観劇した。ずらりと並ぶ本棚を抽象的に表したようなグレーの美術(原田愛)は17年にも使用されたものだ。今回はそこに2つの椅子が置かれ、上手にブライアン、下手にハリーが戯曲を片手に座り、どちらも客席側を向いて演じる。
この日のキャスト、成河(そんは)が演じるハリーは、余りにもピュアで繊細で、俗世に染まっていないがゆえに、狂気じみた行動に走ったように見える。一方、千葉哲也のブライアンには世慣れ感、くたびれ感があり、いかにも老練の刑事然としていて、それが余計にハリーを苛立たせるのかもしれないと思わされる。駆け引きをしつつも次第に心を通わせるハリーとブライアン。だが、やがてハリーは決定的な行動に出る——。
たかが目録のために犯罪を犯すハリーの行動は一般的には理解不能だ。しかし、誰にも大切なものはある。その価値を、合理性のみによって否定される悔しさは、舞台好きなら共感できるのではないだろうか。また、すべてが画一的なデータとして整理されがちな今、多様な世界の捉え方や場所や物の記憶の大切さも一層心に響く。
そうした事柄をシリアスに描く一方、戯曲にはコミカルな要素もあり、成河、千葉の演技からそれが十全に引き出されていたのも印象的。
開演前と終演後、すべてを包み込むように流れる「カッチーニのアヴェ・マリア」を聴きながら、劇場というひとつの空間で共有する生の舞台のリアリティを改めて感じる。
生とは違う臨場感。さまざまな角度から楽しめるVR
続いて、VRでの視聴を体験。こちらは劇場での上演の5日後に配信されるのだが、夜19時開演と決まっており、視聴は1回のみで、ライブの一回性を再現している。
Blinky!というアプリを使い、スマートホンかタブレットで見るのだが、視聴方法は3パターンある。
①スマートフォン画面に右目用の映像と左目用の映像が2つ表示され、VRグラスやVRゴーグルを使うことで立体的に見えるVRモード
②レンズが1つのVRゴーグル対応のVRモード
③VRグラスを利用せずにそのまま視聴する2Dモード
視点は客席最前列センター、舞台上手側、下手側の3アングル。①②は立体感があるが、かなり近くまでクローズアップできる③でも充分楽しめる。
ただし、VRで視聴するには一定以上の回線速度が必要で、通信環境によってはうまく見られない場合も。また、筆者のようにVRに慣れない人間には操作方法がわかりにくかった。チケットを買う前にアプリのテスト動画で動作を確認のうえ、視聴にあたっては、公式サイトの説明に加えて、以下のツイートも参考にしながらトライすることをお勧めしたい。
【VR】視点の切替えは配信中の画面をタップすると表示される左から2番目のアイコンを選択すると視点一覧が表示されるのでお好きな視点をお選び下さい。VRモードでは画面中央の白い丸をアイコンに一定時間重ねると視点一覧が表示されます。視点切替え時に遅延が生じることがありますのでご了承下さい。 pic.twitter.com/RMhcS5LoPo
— StageGate(シーエイティプロデュース公式) (@catproduce) July 14, 2020
筆者がVRで見たキャストは、ハリーに加藤和樹、ブライアンに鈴木綜馬。鋭利で真っ直ぐで、今にも暴発しそうな加藤のハリーと、大人の余裕と冷静さを見せる鈴木のブライアンが好対照だ。戯曲を読む横顔やページをめくる手、足元などが、通常の客席ではあり得ない角度から見られるので、生とはまた違う臨場感があった。
それぞれ異なる15組の演技を、劇場まで行って確かめるのは大変だが、VRならチケットが売り切れてしまうこともなく、家で手軽に楽しめるのも嬉しい。
なお、演出の鈴木はオフィシャルコメントで、リーディング公演を「音楽」と表現している。せっかくなので全文を紹介しよう。
僕にとって、リーディングは音楽、現代音楽に近いです。と言うより、僕はリーディングで音楽を作っていると考えています。中学生のころにビートルズの「レヴォリューションNo.9」を聞いて、ミュージック・コンクレートに興味を抱いたのが大きいかもしれません。僕は詩や台詞を音楽だと考えていて、リーディングではそこに焦点を当てています。ですから、朗読者はお互いを見合わず、ただひたすらテキストに向かって、なるべく音以外の情報を消しています。それでも朗読者からこぼれてくる様々な肉体的ニュアンスは、演奏時のミュージシャンと同様に、観る(聴く)側にとって重要なヒントになり、想像力が刺激されます。お客様には、音楽ライブに来てると思っていただければと思っています。
鈴木勝秀(suzukatz.)
配信は8月14日まで。ぜひ、音楽を聴くような感覚で味わおう。今後、VRならば、動き回る演技の場合も面白いだろうし、例えば円形の舞台なら360度の景色をさまざまに味わえそう……と、夢は広がる。9月には「STAGE GATE(ステージゲート)VRシアター」vol.2もスタート。そちらも楽しみにしたい。
作: LEE KALCHEIM
翻訳: 小田島恒志
演出: 鈴木勝秀
VR配信日程(本公演録画): 2020年7月5日(日)~8月14日(金)
VR視聴券料金: 3,500円(税込)
詳細・購入はこちらから
出演キャスト
猪塚健太、伊礼彼方、上口耕平、加藤和樹、岸 祐二、小西遼生、章平、鈴木壮麻、成河、千葉哲也、中村まこと、羽場裕一、東 啓介、前山剛久、松岡 充、三浦宏規、水田航生、宮崎秋人、矢田悠祐
各公演のキャスト組み合わせはこちら
ライブ配信特別公演
会場: 銀座 博品館劇場(東京都中央区銀座8-8-11)
日時・キャスト:
8月9日(日)13:00 猪塚健太(ハリー役)・上口耕平(ブライアン役)
8月9日(日)17:00 成河(ハリー役)・千葉哲也(ブライアン役)
8月10日(月・祝)12:00 伊礼彼方(ハリー役)・小西遼生(ブライアン役)
8月10日(月・祝)16:00 松岡充(ハリー役)・加藤和樹(ブライアン役)
特別公演チケット料金:8,800 円(全席指定・税込)
VR配信・オンデマンド配信料金: 3,900円(税込)
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