
ヴェネツィア・フェニーチェ劇場の新音楽監督にヴェネツィ 選任をめぐる騒動

取材・文=野田和哉
Text=Kazuya Noda
イタリアの10月の音楽シーンから、注目のオペラ公演やニュースを現地よりレポートします。

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
フェニーチェ劇場《ヴォツェック》初日がストでキャンセルに
『音楽の友』11月号(2025年)の海外レポートで紹介した、ヴェネツィアのフェニーチェ劇場の新音楽監督選任に関する騒動は、約1カ月経っても収まるどころか日を追うにつれてますます大きくなっている。
ことの発端は同劇場の新音楽監督としてベアトリーチェ・ヴェネツィが選ばれたとの発表を受け、オーケストラを中心とした組合がこの人選に反対する声明を出したことだ。
その声明では、反対の理由はあくまで芸術的観点であり、政治的なものではないとしていたが、多くのメディアでは彼女が現政権に近く本人もそれを明言していることから、政治色の濃い選択だという認識が強い。
そしてこの騒動を大きくしたのは、ミラノ・スカラ座をはじめ、ほかの劇場の組合からも相次いでフェニーチェの組合への支持を表明したことだ。
さらに、指揮者のファビオ・ルイージの「ジェスチュアが未熟」、ヴァイオリニストのウート・ウーギの「経験不足」などというコメントが騒ぎをますます大きくしていったのだった。もっともウーギはすぐあとに「彼女を中傷するつもりはなかった」として訂正している。
そしてフェニーチェ劇場ではアルバン・ベルクのオペラ《ヴォツェック》の10月17日の初日がこの件に関するストでキャンセルになるという事態にいたった。そしてその日、オーケストラは劇場近くの広場で無料コンサートを行い、彼らの立場に聴衆の支持を求めた。
ミラノ・スカラ座の組合は新たに「現在フェニーチェで起きていることは深刻な事態であり、すべての反対声明が政治的姿勢の表れととらえられてしまうことは、事実を歪曲するものだ」といった趣旨の声明を出した。さらにはどこからかヴェネツィがアルゼンチンのブエノスアイレスの劇場の指揮者として任命されるよう、イタリア大使館からの推薦状があったという話もでており、確認されてはいないものの、騒ぎを煽る結果になっている。
だが、この騒動についての彼女自身の声明やインタヴューなどは筆者の目に入ってくるメディアの記事では、見当たらない。唯一、「本人は辞退するつもりはまったくない」という文をオンラインで見ただけだ。
この原稿を書いている10月末の時点ではどういう形でこの騒動の決着がつくのか筆者には予想できない。ただ、どのような結果になるにせよ、あとにしこりを残すことは避けられないのではないか。
ピアチェンツァ市立劇場でヴェルディ「大衆三部作」
ヴェルディのオペラで大衆に最も人気のあるのは《リゴレット》、《イル・トロヴァトーレ》、《椿姫》の三つだろう。どれも有名なアリアや合唱曲をふくんでいて、そのどれかを聴けば大抵の人が、オペラ好きでなくとも一度は聴いたことがあると答えるはずだ。この3作品をまとめて、ヴェルディの「大衆三部作」と呼ぶことも多いが、これはヴェルディ自身がそう呼んだのではなく、誰かが勝手にそう呼び始めたのだ。10月末から10日間、ピアチェンツァ市立劇場ではこの3演目が立て続けに上演される。しかも出演するのはフランチェスコ・メーリが全3曲、ルカ・サルシが《リゴレット》のタイトル・ロールと《椿姫》のジェルモン役という豪華な配役である。またソプラノのマリア・ノヴェッラ・マルファッティがジルダ、レオノーラ、ヴィオレッタというそれぞれのオペラの主役を演じるという。よくこんな大胆な企画を立ち上げたなと思ってしまうが、この三人の歌手と劇場関係者の勇気にも脱帽するし、成功を祈るばかりだ。





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