山田和樹がバーミンガム市交響楽団来日公演について語る「このオーケストラのポジティブさを世界に伝えたい」
2025年初夏にバーミンガム市交響楽団と来日公演を行なうにあたり、音楽監督を務める指揮者の山田和樹が記者会見に登壇し、オーケストラとの関係や公演への意気込み、またロームミュージックファンデーションにおける音楽家育成事業について語りました。第一声で「アニメ『パーマン』のようにコピーロボットがほしくなってきました(笑)」と多忙な様子を明かし、会場は笑いに包まれました。
ポジティブなバーミンガム市交響楽団と「世界一幸せな指揮者」
山田さんは2023年からバーミンガム市交響楽団の首席指揮者と音楽監督を務めていますが、ひじょうに良好な関係が続いていると話しました。
山田 オーケストラと指揮者は、僕も経験がありますが、家族のようなもので、長く過ごしていると、うまくいくときもあれば、そうでもないときもあり、波が発生するものです。しかしバーミンガムでは、うまくいかないことがあっても、それがうまくいかないっていう分類に入らないようなポジティブさが根底にあります。夢のような時間が未だに続いていて、こんなに幸せなことはないですね。
世界に素晴らしい指揮者はごまんといるけれど、世界でいちばん幸せな指揮者は僕っていうのは、本当の話なんですよ。演奏会をひとつひとつ重ねるごとに、それがまた深まっていると感じています。
2023年にはバーミンガム市が財政破綻し、現在は市からの資金援助が一切なくなっているそうですが、オーケストラは悲壮感がなく前向きな雰囲気なんだそう。
山田 市が財政破綻だろうが忙しかろうが、明るく音楽をしていく夢のようなオーケストラです。
アイデアを出し合っていろいろな取り組みを実施しているそうで、山田さんも路面電車のなかで電子ピアノを演奏したり、ショッピングモールでフルオーケストラのコンサートを開催したり、地元のお客さんの獲得に努めたそうです。
また、オーケストラの雰囲気がわかるおもしろいエピソードも。
山田 首席指揮者から音楽監督になった違いがわからないと言ったら団員にmore partyと言われました。もっとパーティーをしろということです(笑)。
ヘンリー・ウッド版《展覧会の絵》などのプログラムやソリスト
今回のプログラムでは、ショスタコーヴィチの《祝典序曲》で金管楽器のバンダがあるから、地元の学生さんたちと共演できるように調整しているとのこと。
また、イギリスものを演奏したいという想いから、ムソルグスキー《展覧会の絵》のヘンリー・ウッドによる管弦楽版をとりあげることにしたそうです。ヘンリー・ウッドはプロムスの創設者で、《展覧会の絵》はラヴェルによる編曲が有名ですが、それより以前に書かれた編曲。山田さんはラヴェル編曲版は指揮したことがないんだそうです。
共演する3人のソリストについても魅力を語りました。イム・ユンチャンは最近ニューヨーク市交響楽団で共演し、素晴らしい才能の持ち主であることを感じたそう。チェリストのシェク・カネー=メイソンは、音楽への集中力が高く、チェロで音楽を奏でる喜びにあふれる音はもちろん、素直な心に触れられるのも嬉しかったそうです。そして、河村尚子さんについてはユニークなエピソードを披露しました。
山田 2016年の初ツアーでの倉敷公演のときのこと、別々に昼食に行ったのに、同じお店で同じメニューを頼んでいたんです。たしか‟ネギ抜き“とかまで一緒で(笑)。すごいなと思いました。音楽家を越えて彼女とは今でいうソウルメイトかもしれません。
指揮者の仕事はアイデアが大事
質疑応答では、指揮者の仕事について、「舞台の上での仕事以上に、指揮台を降りてからの仕事がすごく多くなってきていると思いますが、今のこの時代を俯瞰して、改めて指揮者という仕事はどのような役割と考えているか」という質問がありました。
山田 小林研一郎先生とお話ししたとき、指揮者の仕事の8割はオーガナイズだという話になりました。音楽を演奏するのは2割くらいにしか過ぎず、まさしくそのようなバランスだと思います。2割音楽、8割オーガナイズだというのが、僕もようやくその意味がわかってきました。いろいろやらなければいけないこともあるし、 自分から新しく作っていかなければならないこともたくさんあるわけです。
アイデアだけになりすぎてもいけないと思いますが、とにかくアイデアがないことには先に進めない場面もとても多いです。100人という大所帯を率いるものとして。
ですから、このアイデアが枯渇しないように、 音楽に限らずいろんな分野に目を開いていくことが大事だと思います。
もちろん最高の音楽を届けるっていうのが至上命題ではありますが、それに付随することでは、演奏会は人が集うところなので、どんな人に集まってもらうか、考えなければならない。 今まではどうしても「演奏会を開きます、だから来てください」って待っている状態でしたが、待っているだけでは限界があるので、出ていかなければいけない。
あとはオリジナル性ですよね。バーミンガムだったらバーミンガムにしかできないことを考える。
来日公演ではポジティブさを伝えたい
最後に、今回の来日公演でいちばん伝えたいことについて、山田さんは次のように語りました。
山田 このオーケストラのポジティブさを世界に伝えたいです。音楽も含めてすべてが明るいから、この明るさを持っている人が集ったら、世界が平和になるんですよ。オーケストラは世界の縮図なので、みんなポジティブになれることを発信したいです。
もっとも楽しみにしているのは、盛大なパーティー じゃないですかね。もちろん演奏会で皆さんにお会いすることもだけど、とにかく彼らといる時間が楽しいから。パーティーを開催すると、出席率100パーセントなんですよ。本当に、1人もかけずに来る。これがもう楽しいじゃないですか。その楽しさを、日本の聴衆とぜひ分かち合えればと思っています。
今回の日本ツアーでは、「ローム ミュージック ファンデーション&山田和樹 グローバルプロジェクト」と称して、若手音楽家の育成にも力を入れています。学生にも良い音楽を届けられるよう、S席チケットを4000円で購入することができる「RMFシート」が用意されるほか、日本人の若手音楽家に成長の機会を提供するよう、ヴァイオリンの福田麻子がオーケストラのメンバーとして現地リハーサルから参加します。また新しい企画として、指揮セミナーも開催予定。自らの役割は「けしかけること」だという山田さんによるプロジェクトにも注目が集まります。
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