ピアノが今より、もっと楽しく弾けるようになる3つの体験

古楽器、リトミック、レッスン。さまざまな体験がピアノの“いい音”へのヒントに!――国立音楽大学ピアノフェスティバル

レポート
2019.08.01

国立音楽大学が学外に向けて開催し、今年で4回目を迎えた「いい音出そう!国立音楽大学ピアノフェスティバル」。小学生から一般の大人まで、ピアノ愛好家が多く集まり、さまざまなイベントを体験した。

これらのプログラムを体験する意味について、鍵盤楽器専修教授を務める三木香代先生に伺いつつ、実際に行なわれたレッスンや講座などに潜入したピアニストの長井進之介さんがレポートしてくれた。

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取材協力: 国立音楽大学
ナビゲーター
長井進之介 ピアニスト/音楽ライター
長井進之介
ナビゲーター
長井進之介 ピアニスト/音楽ライター
国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得満期退学。在学中、カールスルーエ...

良い演奏のためにはピアノだけ練習すればいいわけじゃない?

“ピアノを弾く”と一口に言っても、その作品をもっと深く知るには、その作曲家がどのような時代を生き、どんな人物なのか、そして何を考えて書いたのか……など、さまざまなことを考えなくてはならない。あらゆる“想像”や“体験”はあなたの音をもっと“いい音”にしてくれるはず。「国立音楽大学ピアノフェスティバル」は多くの気づきを与えてくれた。

「国立音楽大学ピアノフェスティバル」には小学1年生から大人まで、たくさんのピアノ愛好家が集まった。

「ただ一人でピアノに向かって練習するだけでは、本当のいい演奏はできません。作品の生まれた背景やその当時の楽器の音色、音楽を、五感で体験し、自分の中で総合していかなければと思っています。『ピアノフェスティバル』は、そのことを多くの方に、もっと気づいていただけるような機会を目指して開催しているものです」(三木香代教授)

そんな教授の思いがつまったイベントを3つの柱にわけて紹介していこう。

1. 作品が書かれた時代の楽器を知る、触れる、確かめる

「ある作品が生まれた当時の音色を聴いたり、弾いてその楽器のタッチを確かめてみることは非常に多くの発見を与えてくれます。

作曲家が生きていた時代の楽器を知ることは、作品はもちろん、作曲家についても想いを馳せる重要なきっかけとなります。いつもピアノで弾いているバッハの作品をチェンバロやオルガンで弾いてみると、まったく違う響きに驚くのはもちろんですが、ショパンの作品でさえ、現代と当時のピアノではタッチも音量も響きも違います」(三木教授)

この日は、加藤一郎教授によるショパンの演奏解釈を学ぶ講義「ショパンの魅力を極めよう!」や、大塚直哉講師による「オルガン・チェンバロに触ってみよう!」、歴史的楽器を解説とともに見学するツアーなど、さまざまな催しが行なわれていた。

「オルガン・チェンバロに触ってみよう!」ではチェンバロとピアノの発音の違い、強弱や音色の変化の出し方に加え、オルガンの発音の仕組みなども実演を交えて丁寧に解説。

鍵盤はピアノと同じでも、管楽器のような発音システムをもつオルガンに興味津々の受講生たち。

子どもたちは非常に興味深く楽器の中を覗き込み、試弾時間にはそれぞれバッハの曲を中心に演奏していた。普段演奏するピアノとは違って2段鍵盤であることや、強弱の変化は「カプラー」と呼ばれる装置を使用してつける……といった違いに戸惑いながらも、新鮮な響きに感動している様子が印象的であった。

ピアノとはまったく違う響きのチェンバロ。その音色に感動しながらバッハの作品などを演奏していた。

ショパンの時代に存在していたプレイエルやエラールといったピアノをはじめ、多くの貴重な楽器を詳細な解説つきで見学できる「楽器学資料館見学」。

楽器学資料館には、企画展示としてショパンの時代に使われていたピアノがズラリと展示されていた。いつも弾いている黒と白のピアノとはまったく違う雰囲気。
ピアノの前身の楽器、クラヴィコードやスピネットなどの楽器の構造についても丁寧な解説で、子どもも大人も納得。

2. 音楽を体で表現して、もっと自由になる

広いオーケストラスタジオで、小学生1年生から大人までが裸足になって受講した「ダルクローズ・リトミック体験」。担当した清水あずみ講師をはじめ、ダルクローズ・リトミックを専門的に学ぶ学生たちとともに、スイスの音楽教育家エミール・ジャック=ダルクローズが提唱した「動きを通じて音楽の概念を教える」理論に基づいたセッションを行なった。

「リズムや音を体で表現することは、ピアノの前に座って弾いているだけでは得られない体験ですよね。自宅の練習室や、ピアノのレッスン室とは違う環境で体験したこと、感じたことを通して、参加してくださる方の音楽の世界が広がってくだされば、こんなに嬉しいことはありません」(三木教授)

「自分の身体を楽器のように感じてもらい、音楽を表現する体験をしていただきたいです。そうすることでもっと音楽にも自由が生まれるはずです」と話してくれた清水先生。
先生たちが弾くピアノの音の雰囲気にあわせて、思い思いの形を体で表現する。
2人1組になって、音を感じながら、相手に触れないように形を作っていく。先生は決して強制せずに、子どもたちの表現の自由を尊重している様子が印象的だった。

3. 普段と違う環境から“気づき”を得る

このイベントの参加者の多くは、国立音大の講師陣による個人レッスン(ソロ・デュオ)を受講した。いつもと違う先生から指導を受けることは、同じ注意でも違った角度から説明してもらうことができたり、それまで意識していなかったことに気が付くきっかけにもなる。今回見学したレッスンは、それを改めて実感する機会となった。

三木教授は個人レッスンの参加者たちへの願いを次のように話す。

「ここでは普段の先生と違う観点からも指導を受けることがあると思いますが、すべては皆さんが目指す演奏に近づけるように願いを込めてお話していることです。ぜひ参加される皆さんにはレッスンを通して自信をもってほしいですし、何かしら“気づき”の機会を得ていただけたらと思っています。レッスンの最中、こちらがかけるちょっとした言葉で、皆さんの演奏がどんどん変わっていくのを見るのが毎回とても楽しみなんです」(三木教授)

奈良希愛准教授のレッスンを受講した栁澤悠衣さん(高校3年生)は、ベートーヴェンのピアノソナタ第16番をとてもしっかりとしたタッチで細部に気を配って演奏していたが、最初は緊張もあったためか身体が硬直し、音楽も硬くなっていた印象であった。

しかし奈良准教授が腕や肩の使い方、言葉や呼吸と音楽との関係を丁寧に解説すると、すぐに音色の幅が広がり、オーケストラの雄大さも感じさせる演奏に変化。最初とは別人のようになった。

「奈良先生のレッスンはとても具体的で、一つのアドバイスをさまざまな角度から教えてくださるのでとてもわかりやすかったです。普段のレッスンでも“脱力”については言われてきたのですが、実際に身体をどう使えばいいかがよくわかりませんでした。今回のレッスンを通して、自分のやりたい音楽がもっと自然にできるようになってきたと思います」(栁澤悠衣さん)

金子恵教授のレッスンを受講したのは岩井悠真さん(小学2年生)。バスティンの『海のプレリュード』など、たっぷりとした響きの音色でスケール大きく演奏をしていたが、メロディの流れが止まっていた。金子教授は岩井さんと楽曲に対するイメージを話し合い、それを音色として表すための身体の使い方を指導すると、やはり演奏が大きく変わり、自然なフレージングによるイメージ豊かな演奏を聴かせてくれた。

「金子先生のレッスンはとても楽しくて、自分の頭の中にあるイメージをどうやってピアノで表現すればいいか、魔法のように、すごくわかりやすく教えてもらうことができました。今日はこのあとホールでも弾くので、教えていただいたことができるように頑張りたいです」(岩井悠真さん)
レッスン後のコンサートでは、ホールで堂々とした演奏を披露した岩井さん。

大人も子どもも五感を研ぎ澄ませて、もっと“いい音”を探そう!

今回で4回目を迎えた「国立音楽大学ピアノフェスティバル」。参加者にはリピーターも多く、たくさんの人々が“いい音”に出会うきっかけとなっている。

「さまざまな出会いや経験が総合することで、皆さんの中に大きな“気づき”が生まれていることを強く感じます。そしてそれは音にも表れていると思います。五感を研ぎ澄ませて体験したことは、必ず花開くときが来るはずですから、このイベントが、参加される皆さんそれぞれの“いい音”を探し続けるきっかけになっていただければと願っています」(三木教授)

「国立音楽大学ピアノフェスティバル」は、個人レッスンは小学生から高校生までが対象だが、数多く開かれている講座の受講はピアノ指導者を含む、一般の参加も可能。今後も夏に開催される予定なので、ぜひ参加して自分の“いい音”を探すヒントにしてみてはいかがだろう。

そしてもちろん、今回ご紹介したことは、普段の練習やレッスンでも意識したり実践することが可能だ。ある楽曲に取り組む際、その作品の成立背景にはどんなことがあったのか、その時代の楽器の音色はどんなものだったのかを想像してみると、もっとその曲が好きになるはず。

また“弾きにくい”と思ったとき、ただやみくもに指を動かすのではなく、肩や腕など身体のさまざまな部位を意識し、自分の楽な弾き方を考えるのも上達へのステップにつながる。楽譜を開いて指を動かす前に、曲や自分の身体に向き合う時間をとってみることで、新しい世界が広がるかもしれない。

楽器学資料館は毎週水曜日を開館日として、誰でも見学することが可能。歴史的ピアノや、管楽器など貴重な展示物も多く、試奏のチャンスもあるそうだ。見学の際には事前にWebサイトで開館日程を確認の上、一度足を運んでみてほしい。
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