人はいつからでもやり直せる~40歳超で音大入学した麻生泰氏が語る人生哲学と音楽
1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
去るゴールデンウィーク最終日の5月7日(日)、ONTOMO MOOK『音楽家のマリアージュな世界』の刊行記念イヴェントが東京・日本橋で行なわれた。場所は、2019年9月にグランドオープンした「コレド室町テラス」の2階にある「誠品生活日本橋」。「Books, and Everything in Between. (本とくらしの間に)」をコンセプトにオープンした、台湾のセレクトショップ「誠品生活」の日本1号店で、カフェや本以外のショップなども備えたおしゃれな店だ。店舗の奥まったところに広々としたスペースがあり、そこが会場となった。
イヴェントは、MOOKの監修者でもある音楽ジャーナリストの伊熊よし子氏が進行も兼ね、ゲストに東京美容外科の統括院長を務める麻生泰(とおる)氏を迎えた。まずこの二氏によるトークで進められ、最後にヴァイオリニストとしても活動する麻生氏と、演奏者が数名加わったアンサンブルで締めくくられた。
音楽家のさまざまな趣味に驚かされる新刊『音楽家のマリアージュな世界』
トークでは、最初に伊熊氏から「この本の内容をごらんになってどういう印象を持たれましたか」と聞かれた麻生氏、「すごくびっくりしたんですよね。音楽家のかたがたが、いろいろな趣味をお持ちで、音楽だけをやっているわけじゃない。料理であったり、ワインであったり、鉄道模型であったり、さまざまな趣味を持つなかで、音楽に取り組んでおられるのが印象的でした」。
続いて「先生はたくさんのご趣味がおありで、しかもそれを深めていくことに神経を注いでおられる。時間的にどのようにバランスをとっておられるのでしょう」と伊熊氏。「僕はマリンスポーツ、海が好きなのです。生まれが奈良で海を見たことがなかったんですね。中学1年生のときに淡路島に行って、初めて海を見て感動しました。それで海にはまってしまいました」と、『音楽家のマリアージュな世界』の取材記事でも取り上げられたマリンスポーツへの馴れ初めを披露した。昨年、なんとウェイクサーフィンのプロになったのだという。
音楽は人間だけに神様が与えてくれたプレゼント
音楽については「ヴァイオリンは小学校4年生まで習っていた」そうだが、「そのことを40年間も忘れていた」、「自分の記憶から消してしまっていた」のだそうだ。麻生氏といえば、40歳をすぎてから音楽大学に入ったことが知られているが、かつて「音楽は嫌いなんだ」と自分に言い聞かせていたのだそう。ところがあるとき、「音楽は人間だけに神様が与えてくれたプレゼントなんだよ」という言葉を聞き、それでなにか音楽を始めよう、と思ったという。
少しでも経験したもののほうが有利なのではないかと考え、ヴァイオリンを再開したのだそうだ。「人はいつからでも、どこからでもやり直せる」という自身の「座右の銘」を実践して示さなければとも思ったという。いざ再開してみると、いろいろな人が協力してくれて、楽しい音楽ライフを送れるようになったとのこと。
幼い頃の恩師が再びヴァイオリンを手にした感動的なエピソード
トークが終わり、締めくくりに麻生氏と音楽仲間の合わせて4人で演奏が行なわれた。この日の演奏には、麻生氏所有のストラディヴァリウス3台が使用され、電子ピアノも入れた四重奏で、エルガー《愛の挨拶》ほか3曲が演奏された。
ヴァイオリンは、麻生氏と彼の音大時代の師でもある奥田雅代氏、麻生氏のヴァイオリンを最初に指導したという小山好子氏、そしてピアノは余語遥香氏。その前のトークで、小山氏は病気でヴァイオリンを一時やめていたのだが、麻生氏の再開に勇気づけられて、彼女もヴァイオリンを再開したといった感動的なエピソードが語られていた。
イヴェント当日は、朝からあいにくの荒天で強い雨模様だったが、会場に集まった人たちはその演奏を聴き、勇気づけられ、足取りも軽く帰路についたに違いない。
(取材・文:『音楽の友』編集部・真田好白)
ONTOMO MOOK
伊熊よし子監修/音楽の友、Webマガジン「ONTOMO」編
音楽家は演奏会などが終わったあと、お酒や食事を楽しみながら、その緊張をほぐす人が多い。お酒にも詳しく、グルメも多い彼ら・彼女らのいわばオフショットを紹介し、その音楽性はもちろん、ふだんステージや現場で見せている顔とは違う一面を、マリアージュするお酒やお店とともに紹介。それらを通して音楽家の魅力あふれる人間性、彼らの音楽活動に取り組むエネルギーの源を伝える。
また、「食」以外では、「オーディオ」や「美容」、「楽器」など、さまざまな観点からアーティストのエネルギーの源泉となるものを取材。読者がそれぞれの源泉を感じ、至福なひとときを過ごしていただけるような1冊。
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