METオケ初日レポ~ネゼ=セガンの熱演が聴き手を異次元へ。会場がオペラハウスと化す
13年ぶり、待望のMETオーケストラ来日公演が、いよいよ6月22日に兵庫からスタートしました。METで定期的に活躍する人気歌手3名も随行する豪華なプログラムで、明日25日からの3日間は、サントリーホールが華麗なるMETオペラの世界に染まります。注目の初日公演の模様を、音楽ジャーナリストの伊熊よし子さんが緊急レポート!
東京音楽大学卒業。レコード会社勤務、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経てフリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌に限らず、新聞、...
なんと緊迫感と集中力に富み、活力にあふれたオーケストラの響きだろうか。いまもっともエネギッシュでポジティヴな姿勢に満ちあふれている指揮者と称されるヤニック・ネゼ=セガンが、METオーケストラとともに来日し、兵庫県でその初日の幕を開けた。
プログラムはワーグナー「歌劇《さまよえるオランダ人》序曲」、ドビュッシー(ラインスドルフ編)「歌劇《ペレアスとメリザンド》組曲」、バルトーク「歌劇《青ひげ公の城》」(演奏会形式)。
ワーグナーとドビュッシーの序曲・組曲~華麗で深い表現力でオペラの内奥へと導く
冒頭から指揮者とオーケストラのエネルギーは全開。華麗で祝祭的な雰囲気が伝わってきたが、演奏はシリアスで深い表現力に満ち、聴き手を異次元の世界へと運ぶもの。
オペラの序曲・組曲はその作品への水先案内人だが、ワーグナーとドビュッシーの序曲・組曲がオペラの内奥へと強烈な力で導いていくようだ。
《さまよえるオランダ人》序曲は主要なモチーフをメドレーのようにつなぎ合わせた構成で、弦の美しいトレモロと管の力強い演奏が聴き手の心を一気に高揚させる。オランダ人の苦悩が暗い海のような弦のさざなみで広がり、その奥にイングリッシュホルンによるゼンタの救済の動機が天使のように奏でられる。とりわけ管楽器群の咆哮する様が存在感を示す。
一方、《ペレアスとメリザンド》組曲は詩的で繊細な音楽が心にひたひたと染み込んでくる。オーケストラは多様性と絵巻物のような色彩感を備えた作品を誇り高く奏で、その音色を全身に纏うと、えもいわれぬ幸せな気分に包まれる。これぞまさしく至福の時間である。
ネゼ=セガンは今回のプログラムに関し、事前のインタビューで「バルトークはワーグナーの影響を受けたと思います」と語っているが、ドビュッシーもバルトークに影響を与えている。ゆえにこの3作品は互いにリンクし、有機的なつながりを示唆することになる。
バルトーク《青ひげ公の城》~演奏会形式ながらオペラの舞台のようなリアリティ
後半の《青ひげ公の城》はバルトークが生涯に唯一残したオペラ。約1時間の1幕形式で、歌唱は青ひげ公と新妻ユディットだけ。それだけにふたりの存在が大きい。ユディット役のエリーナ・ガランチャと青ひげ公のクリスチャン・ヴァン・ホーンは、ともにネゼ=セガンとの共演が多く、今回は「圧巻の歌唱」を披露した。
ガランチャが青ひげ公の城の異様な雰囲気に気づき、次々に7つの扉を開けるよう青ひげ公に懇願する歌声が、息詰まる迫力。青ひげ公のヴァン・ホーンは堂々と凛とした歌唱でこれに応え、両者は演奏会形式ながらオペラの舞台のようなリアリティを発揮する。
ネゼ=セガンは全身全霊を傾けてオーケストラとともにバルトークの世界へと没入し、オーケストラは通常のスタイルに戻って歌手を支え、寄り添い、歌声と溶け合う。この瞬間、ホールがオペラハウスと化し、全員がバルトークのオペラを舞台で演じているように思わせてくれた。
演奏される機会の少ない《青ひげ公の城》の演奏は、貴重なオペラを知る知的欲求を促し、新たな世界へと聴き手をいざなった。ネゼ=セガンの才能に拍手喝采を贈りたい!!
日時:
6月25日(火)19:00開演【プログラムA】※完売=C席、E席 ※残席僅少=B席、D席
6月26日(水)19:00開演【プログラムB】※完売=B席、C席、D席、E席
6月27日(木)19:00開演【プログラムA】※完売=C席、E席 ※残席僅少=B席、D席
会場:サントリーホール 大ホール
問合せ:クラシック事務局 TEL:0570-012-666(平日12:00~17:00)
公演詳細はこちら
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