レポート
2020.12.29
「横浜WEBステージ」イベントレポート

無人のステージでオーケストラ体験を! 奏者をスピーカーで表現したバーチャル演奏会

バーチャルと聞いて、少し距離を感じる人もいるかもしれない。アコースティック楽器が主のクラシック音楽の世界では、「生演奏がいちばん」と言われ続けているが、生演奏では不可能な体験も提供しているのが、横浜みなとみらいホールが取り組む「横浜WEBステージ」だ。人ではできなかったコンサートのアイデアは、どんなものだったのだろうか。

取材・文
飯田有抄
取材・文
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

写真提供:横浜みなとみらいホール

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楽員一人につき1〜2本のマイクで収録し、再現

前代未聞、おそらく世界でも初!? 大ホールのステージ上に、奏者がだれも存在しないというオーケストラの公演が開かれた。名付けて「無人オーケストラコンサート」。でもサブタイトルにはこうある。「マルチ・スピーカーによる新しいオーケストラサウンド体験」。

これは、12月9日に横浜みなとみらいホール大ホールで開催された催しで、2020年9月からスタートしているバーチャルな芸術フェスティバル横浜WEBステージ」のプログラムの一つ。ステージ上に並べられた、およそ70台のスピーカーによるコンサートで、そこから流れる音楽は神奈川フィルハーモニー交響楽団による演奏。収録は事前に同ホールにて、オーケストラの楽員一人ひとりの前に1本ないし2本のマイクが立てられ、丁寧に行なわれた。

再生するスピーカーは、実際の奏者が座っていた位置に設置。楽器ごとの音色の特性が生きるような機種を選び、置き方(方向)にも配慮されている。そしてそれらを一斉に再生するという試みなのだ。

神奈川フィルの音が自然に響く

筆者はこのコンサートの司会進行役として携わらせてもらった。果たしてどのような響きがするのだろう。初の試みで、なおかつ多数の音響機器が扱われるプログラムだけに、数々の想定外のトラブルなども起こるのだろうか。ドキドキしながら前日にリハーサル中のホールに足を踏み入れると……

驚きを通り越して、拍子抜けするくらいに、自然なオーケストラの響きでホール全体が満たされていた!

まさに、そこに神奈川フィルが存在するかのように、指揮者の川瀬賢太郎さんの微かな息遣いまでも聴こえてくる。

本番直前までのスリリングなトラブル対応などを勝手にイメージしてごめんなさい(苦笑)。そのあまりに自然でリアルな響きはもちろんのこと、横浜みなとみらいホール館長・新井鷗子さん、横浜WEBステージ・クリエイティブ・ディレクターの田村吾郎さんをはじめ、スピーカーを設置したヤマハの奥村啓さんや音響ディレクター高坂茂樹さんらのプロフェッショナルなお仕事に、ただただ感動したのでした!

一般向けのイベントの前日、メディア向けに行なわれた発表会にて。右からヤマハの奥村啓さん、神奈川フィルハーモニー交響楽団の常任指揮者・川瀬賢太郎さん、横浜WEBステージ・クリエイティブ・ディレクターの田村吾郎さん、横浜みなとみらいホール館長・新井鷗子さん、司会の飯田有抄さん(筆者)。撮影:編集部

ステージも客席も自由に歩きながら鑑賞

そして迎えたコンサート。この日はなんと4回公演! 1日に4回も全力で演奏したら、どんなオーケストラでもかなり負担が大きいだろう。しかしこのバーチャル・オーケストラならそんな心配はない。毎回、すべてに同じ熱量で、何度でも素晴らしい演奏を繰り広げてくれるのだ。

コロナ対応につき各回の人数に限りはあるものの、毎回200名近くの申し込みがあり、地域の小学生たちや、神奈フィル・ファンや音楽ファン、オーディオに関心の高い人々で、会場は静かに熱を帯びた。

ステージに並ぶスピーカー。オーケストラ奏者が座る位置に、その楽器の音の特性に合わせたスピーカーが設置されている。ホルンの席に置かれたスピーカーは、ベルの向きと同じ後ろ向きであった。

曲目はジョン・ウィリアムズの映画『スターウォーズ』のメインテーマ、ベートーヴェンの交響曲第5番《運命》第1楽章、ビゼーのカルメン組曲から「前奏曲」。

途中で録音時のエピソードを紹介したり、楽器セクションごとの再生を聴いてもらったり、会場内を自由に歩きながら聴いてもらったり、ステージに上がって音圧も感じてもらったりと、演奏のみならず、その構成もまったく新しいコンサートとして行なわれた。

とくに地元の子どもたちが参加した会では、みんなスピーカーや響きに興味津々。2階席からステージを見下ろしたり、はたまた指揮台に上がってみたりと、オーケストラ・サウンドを自由にのびのびと楽しんでいる姿が印象的だった。

大人たちからも「楽しかった」という声が寄せられた。アマチュア・オーケストラに所属しているONTOMO編集部員Mさんが「ステージ上での音って、実際こう聴こえますよ」と教えてくれて、なるほど! と納得。客席で身動きもせずに聴く通常のオーケストラ・コンサートでは味わえない、新しい体感型のプログラムとしての可能性も広がりそうだ。

スピーカーと場所さえあれば、どこでもそこに横浜みなとみらいホールでの演奏が再現される。ホールは2022年10月まで改修工事により閉館期間入ってしまうが、あなたの街にも「横浜みなとみらいホール」がやってくるかもしれない。無人オーケストラのこれらの展望が楽しみだ。

横浜みなとみらいホールの残響も収録してあるので、他の場所で再現するときには残響を付加して響きを再現できるのだそうだ。
取材・文
飯田有抄
取材・文
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

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