レポート
2022.07.04

音楽の可能性を広げる 「ミューザの日」小学生プロデューサーのコンサート

ミューザ川崎シンフォニーホールの開館記念日と川崎市の市制記念日を祝う「ミューザの日(7月1日)」。2013年から川崎駅周辺で家族で楽しめるイベントを開催しており、今年で10周年を迎える。その目玉企画の1つがジュニア・プロデューサーの企画コンサートで、なんと小学生が自分たちでゼロからコンサートを作り上げるという。その完成形は、いわゆる「子どものためのコンサート」のイメージを覆すものだった――。

ONTOMO編集部
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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

出演者とジュニア・プロデューサーで記念撮影。公演を作り上げた充実の表情©有田周平

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夏休み一行日記のコンサート?!

前もって配られたチラシには、「笑顔満開!サマーコンサート」というタイトルと、東京交響楽団コンサートマスターの水谷晃が第1ヴァイオリンを務める弦楽四重奏団が出演とあり、この特別編成の弦楽四重奏団への期待を胸に出かけた。

会場で渡されたプログラムを開くと、「夏休み一行日記」とある。日付と天気と曲目が並んでおり、いったいどんなコンサート?と狐につままれたような気持ちでいると、弦楽四重奏団がさっそうと登場。モーツァルト《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》第1楽章でコンサートが始まった。

お馴染みのメロディーで会場が温まったところで、ジュニア・プロデューサー企画班がご挨拶、一行日記の朗読と演奏が交互に進んでいく。「コロナ禍で会えなかったおじいちゃん、おばあちゃんの家へ久しぶりに遊びに行った」~ドヴォルザーク「弦楽四重奏曲第12番《アメリカ》」より第1楽章。どこか懐かしく情感あふれるメロディーがぴったりだ。

チラシやプログラムは広報班が作成。事前にチラシを配ったり、プレスリリースも作って宣伝につとめ、見事チケットは完売に©有田周平

弦楽四重奏に合わせて手拍子が鳴り響く

続いて虫捕りにはディズニー映画の人気曲《ジッパ・ディー・ドゥー・ダー》、海へ行ったら《ヴォラーレ》(ジプシー・キングスのカバーで知られる。ザルの中で豆を転がす波の効果音入り)、海での淡い恋はエルガー《愛の挨拶》、いとこが家に遊びにきたら《茶色のこびん》。

舞台袖で手拍子する小学生たちに会場も加わって……こんな弦楽四重奏団のコンサート、そうそうないかも!

と、舞台は暗転。夏定番のお化け屋敷で、ストラヴィンスキー《3つの小品》より第3楽章が何とも不気味な雰囲気を醸し出す。

舞台が明転すると、ノリノリの吉松隆《アトム・ハーツ・クラブ・カルテット》(第1楽章)、「夏休みの宿題がなかなか終わらない」~ベートーヴェン《運命》第1楽章でクライマックスへ。

「あと少しで夏休みも終わり」~「千と千尋の神隠し」より《あの夏へ》でうっとりと余韻に浸らせておいて、「あしたから学校、またがんばろう!」~冒頭の《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》に外国民謡が仕込まれた楽しい編曲で、アイリッシュ・ダンスばりの足踏みも! 小学生たちも一緒に踊って大団円を迎えた。

舞台だけでなく、客席の盛り上がりもご覧ください。弦楽四重奏の出演は、左から水谷晃(ヴァイオリン・東京交響楽団コンサートマスター)、末廣紗弓(ヴァイオリン)、児仁井かおり(ヴィオラ)、蟹江慶行(チェロ・東京交響楽団チェロ奏者)©有田周平

ゼロから小学生目線で作られたコンサート

タイトルどおり会場全体に笑顔の花が咲いた、本当に楽しいコンサート。ポイントはやはり、大人目線ではなくゼロから小学生目線で作り上げられたことにあるだろう。

選曲は、まず夏のイメージ(暑い、海、プール、お化け屋敷……)を小学生たちが挙げ、そのイメージに合ったクラシックの曲を小学生たちが持ちより、チェロの蟹江慶行さんが音楽のプロとしていろいろなジャンルの作品とクラシックのあまり知られていない作品をリストアップして、会議に持っていったという。

それらの曲を小学生たちに聴いてもらうと、「これも夏っぽい」という曲がどんどん増えて普通のコンサート形式には収まらなくなり、夏の要素をすべて盛り込める日記の形式になったそうだ。手拍子も、お客さん参加型にしたいという小学生たちのアイディア。

「今の子どもの忙しい夏休みの感じが出るような曲順になっていたと思います」(蟹江さん)。「夏らしいホットな感じと、逆に涼しさがあったり激しさもあって、緩急のある選曲になったと思います」(伊藤範さん・小6)。

公演後、ジュニア・プロデューサーのみなさんと、まずは名刺交換。この企画に申し込んだ理由で多かったのは、「いろんな人と友だちになりたいから」というもの。ちなみにこの企画では、あえて違う学校の子どもたちが選ばれているそうだ。「裏方ってカッコよさそうだからやってみたかった」(渡邉水音さん・小4)という声も。

苦労したことは台本作りやスケジューリング、好きな曲はアニメソングを予想していたが、意外にも《運命》が人気だった。

同じ曲を聴いていても、一人ひとりが自分だけの夏休みの思い出や体験したさまざまな感情を蘇らせることができる。そんな音楽のもつポテンシャルの高さを再確認できるユニークなコンサートを企画してくれた、ジュニア・プロデューサーたちに感謝の気持ちを伝えたい。

「ミューザの日」では、ミューザ川崎シンフォニーホールで「ウェルカム・コンサート」も開催。ドビュッシーの交響詩《海》を、特徴的なリズムやメロディー、それを演奏する楽器を紹介しながら鑑賞するという本格的な内容。ドビュッシーという作曲家の形式にとらわれない自由さが、子どもたちの想像力を刺激する。写真は左から小学生役の俳優・釣舟大夢と島田あゆみ、先生役の飯田有抄、指揮者の秋山和慶。オーケストラは東京交響楽団。©平舘 平

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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

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