レポート
2021.10.16
ワルシャワの会場からレポート!

調律師も過酷!? ショパンコンクール期間中のお仕事を拝見

10月3日から予選がスタートした第18回ショパン国際ピアノコンクールはもう終盤。コンテスタントたちの熱演の裏では、ピアノ調律師の熱戦も繰り広げられています。会場のワルシャワ・フィルハーモニーホールで取材中の高坂はる香さんに、各ピアノメーカーに所属する調律師たちの様子を紹介していただきます。

文・写真
高坂はる香
文・写真
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

メイン写真:ショパンコンクールのステージでは2台のピアノが同時に調律されることも。

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ピアノを選んでもらうため、コンクールのずっと前から仕事は始まっている!

前回2015年のショパン国際ピアノコンクールのあとは、コンクールのピアノを担当する調律技術者の仕事を追ったドキュメンタリーが放送されたので、これをきっかけに、調律師の仕事に興味を持った方もいらっしゃるのではないでしょうか。

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多くのコンクールでは、異なるメーカーの複数台のピアノから、各コンテスタントが自分の好み、レパートリーなどを考慮して、自分にあったピアノを選びます。今回のショパンコンクールの場合は、5台のピアノ(スタインウェイ2台、ヤマハ、カワイ、ファツィオリ)から、各人15分でピアノを選ぶことになりました。

ここがピアノメーカーのみなさんにとっては最初の正念場。実際には、彼らのショパンコンクールはずっと前から、いわば前回のコンクールが終わった瞬間から始まっているわけですから、長い時間をかけて少しずつ改良し、磨き上げた楽器がピアニストに選んでもらえるかという、緊張の瞬間です。

そうして今回、各メーカーのピアノを選択した人数は、スタイウェイ64、ヤマハ9、ファツィオリ8、カワイ6。当初は途中のピアノ変更ができないということでしたが、途中から変更可能になりました。

期間中は過酷…各メーカーの調律師を紹介!

さて、それでは実際に調律師さんは、いつどんなふうに作業をしているのか。

次のセッションに登場するピアノを舞台上で調律しているところを見ることは多いですが、もちろんそれだけでは作業時間が足りません。特に1次からセミファイナルまでは、朝10時から夜10時近くまでホールが使われているので、残りの時間を4社で分け、調律にあたります。つまり当然、割り当てによっては時間が真夜中や早朝になるということ。

さらにみなさん、何かあったときのために、自分たちのピアノが弾かれる間は基本的に会場にいないといけません。ピアニストに求められた音が鳴っているかを自分の耳で聴くことも仕事のうちなので、特に日本のメーカーの調律師さんは、自社のピアノが弾かれるときは必ず、審査員席のある2階席で聴いています。すると日々、数時間寝て、会場に戻る、寝られるときに寝る、みたいな生活を送ることになるようです。過酷すぎる……。

スタインウェイ

さて、今回もっとも多くのピアニストが選んだスタインウェイ。

急遽2台が使用されることになり、調律師さんは想定以上に大変なようです。

メインで調律師を担当しているのは、前回と同じ、ポーランド人のヤレク・ペトナルスキさん。自らもピアノを専門的に勉強していた方で、コンクールのレパートリーもほぼ弾けるので、音楽性を考慮した調律ができるとのこと。

工房があるハンブルクから世界中のコンクールに駆けつけるベテランアーティストサービスのグラナーさんによれば、ヤレクさんはこのコンクールを調律するには最高の人材だということです。

アシスタントとしてポーランド人女性調律師さんがつき、お二人で作業をしています。

ポーランド人のヤレク・ペトナルスキさん。
アシスタントのポーランド人女性調律師さんの姿も見えます。

ヤマハ

ヤマハは、1次予選で次に多い9名のピアニストから選ばれました。

こちらは、1日の演奏が終わったあと、薄暗いホールで作業するヤマハ調律師のお二人。今回はメインの調律を前田真也さんが担当。そしてベテランの花岡昌範さんがガッツリそのサポートをしています。

他にアーティストサービスの方もいらしていて、ピアニストの要望を聞きながら、楽器に反映させています。右下の写真は、個性派として知られるオソキンスさんの終演後。こういう音が欲しいというリクエストはもちろん、湿度などによるピアノのコンディションの変化への対応など、そのリクエストはさまざまです。

調律をする前田真也さん(中央)と、サポートをするベテランの花岡昌範さん(左)。
ラトビアのゲオルギス・オソキンスさんに話を聞くヤマハの方たち。

ファツィオリ

ファツィオリは、現在、セミファイナルで3人が演奏しています。それも、イタリアのアルメリーニさん、スペインのガルシア・ガルシアさん、カナダのブルース・リュウさんと、それぞれに超個性的なピアニスト!

今回調律を担当しているのはベルギー人のオーティン・モローさんです。セミファイナル中盤から、ファツィオリ・ジャパン社長のアレック・ワイルさんが駆けつけ、アーティストサービスにあたっています。

イタリアのメーカー、ファツィオリの調律をしているベルギー人のオーティン・モローさん。

カワイ

そして、最初に選んだのは6名のうち、半分の3名がセミファイナルに進出しているカワイ。お仕事中の写真を狙っているのですが、なにせスタインウェイが多く、あ、調律の音がする! と思って走っていくと、だいたいいつもスタインウェイ……ということで、まだ作業中のお姿をキャッチできていないので、裏のカフェテリアで作戦会議中のみなさんを。

今回メイン調律師を務めるのは、大久保英質さん(右から2番目)。しかし、他のお三方(山本有宗さん、ベテラン村上達哉さん、蔵田真也さん)も全員優れた調律師さんで、大久保さんの作業をサポートしつつ、練習室の調律、さらにはアーティストサービス業も兼務しているとのことです。

調律師さんの仕事は、ピアニストが思い通りの表現ができるように楽器を作り、整えるだけでなく、ピアニストの気持ちを安定させ、自信を持ってステージに出られるようにしてあげることも重要なことの一つといえます。

職人気質、アーティストの耳と感性、そしていい感じのお人柄も必要だという。どこまでも奥の深いお仕事です。

最後まで、体を壊さずにがんばってほしい。

文・写真
高坂はる香
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高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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