「美少女戦士セーラームーン」の名作を星々のパワーを感じる音楽で楽しむミュージカル
初連載からもうすぐ30周年を迎える今も、多くのファンの心を捉えて離さない名作漫画『美少女戦士セーラームーン』。現在、天王洲・銀河劇場で上演中の『ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」かぐや姫の恋人』は、漫画版と劇場版で描かれた名エピソードの初舞台化。セーラームーンの世界がどんな風に舞台となったのか......「セーラームーンオフィシャルファンクラブ」の会員でもある音楽ライター、長井進之介さんがレポートしてくれました!
国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...
まもなく30周年を迎える伝説の漫画『美少女戦士セーラームーン』
武内直子による漫画『美少女戦士セーラームーン』は連載開始からまもなく30周年を迎えようとしている。それまでになかった“戦う女の子たち”を描いた物語、美しさと強さ、そしてさまざまな表情を見せる個性豊かなキャラクターたちは多くの人々の心を捉えてきた。
5期にわたる物語はすべてアニメ化され、特別な物語を描いた劇場版も上映。くわえてこれまでのセーラームーンの歴史で大きな存在感を放ってきたのが“セラミュ”と呼ばれるミュージカルである。
「バンダイ版」(1993年から2005年)、「ネルケ版」(2013年から2017年)、そして「乃木坂版」(2018、19年)と、それぞれに3つの主催による公演が存在する。漫画やアニメ原作のミュージカルは難しい部分も多いのだが、いずれの作品からも出演者・スタッフたちのセーラームーン愛が感じられ、演出・音楽ともに素晴らしい内容となっていた。とりわけ「ネルケ版」は、原作を基にしたオトナ向けの構成、さらにキャストをすべて女性にした、きらびやかな舞台によって、多くの女性ファンを虜にしている。
漫画と劇場版アニメの名エピソードがついにミュージカル化!
今回上演された新作『かぐや姫の恋人』は、劇場版と原作漫画番外編をもとにした新作で、初のミュージカル化となる。ヒロインの月野うさぎ(セーラームーン)のパートナー、黒猫ルナの恋にスポットをあてた物語であり、公開当時からファンのあいだでは人気の高い作品であった。
簡単にあらすじをご紹介しよう。
熱を出して体調不良になっていたルナが車に轢かれそうになったところを宇宙開発事業団に勤務する青年、宇宙翔(おおぞら・かける)に助けてもらい、恋をしてしまう。翔は宇宙飛行士を目指していたが、持病のためにその夢をあきらめていた。ルナと翔は言葉を交わさずとも深い信頼関係で結ばれていくものの、そこに翔の幼馴染であり、彼に思いを寄せる名夜竹姫子(なよたけ・ひめこ)が絡み、ルナの恋物語は大きく動いていく。
一方で、45億年宇宙を彷徨っていた彗星「プリンセス・スノー・カグヤ」が地球を我が物にしようと接近していた。しかも彼女は自分の一部である水晶を手に入れた翔を自分の伴侶にしようとしており、翔の病の発作は彼女によって引き起こされているものであった。そして、ついに手下である「スノーダンサー」を引き連れて襲来するプリンセス・スノー・カグヤ。地球の危機を感じ取ったセーラー戦士たちが強大な力に戦いを挑み、何度も危機に見舞われるものの、最後には仲間たちの力が一つとなり撃破。そして戦士たちはルナのためにとっておきのの贈り物をする……。
続きはぜひミュージカルや劇場版、漫画で確認してほしい。それぞれ大筋は変わらないものの、演出に少しずつ違いがあり、それを発見するのも大きな楽しみの一つだ。
なんといっても注目はラスト、一夜限りの奇跡が起こるシーン。特に今回のミュージカルの演出は感動的であった。
プロジェクションマッピングと音楽で描かれるセーラームーンの世界
舞台はテーマ曲とともに月野うさぎをはじめとする仲間たちが、セーラー戦士に返信するところからはじまる。オープニングからすでにミュージカルの大きな注目ポイントとなるシーンだ。
「セーラームーン」という世界がこのオープニングだけでも強く感じられる。セーラー戦士たちの輝き、気高さ、そして強さ……。プロジェクションマッピングを効果的に使った変身は往年の漫画、アニメファンにはたまらない演出である。
音楽的にもハーモニーの美しさを活かした楽曲が多く、同じ旋律を全員で歌うのではなく、星々のパワーが重なり合うイメージが耳でも伝わってくるような声の重なりが美しい。キャストが全員女性というのは舞台の華やかさだけではなく、声の調和の面でも特に高い効果を発揮しているように思われる。時折R.シュトラウスのオペラ《ばらの騎士》のクライマックスの3重唱を思わせるような響きもあり、女声アンサンブルの魅力にも改めて気づかされることとなった。
また今回の「ネルケ版」、衣装やアイテムなど細部へのこだわりも感じられた。特に前の方の席で見ることができたため、細部まで観察することができたのだが、ディティールにまでこだわられた仕上がりになっており、特にセーラーウラヌス、ネプチューン、プルートのタリスマンやサターンのサイレンス・グレイブはファンにとってたまらない完成度であろう。
物語の大筋は、劇場版や漫画版と大きな差はないが、本来であれば登場しないセーラーサターンも加わっているのは「外部太陽系戦士」が特に好きな筆者をはじめ、ファンにとっては嬉しいことであろう。また、より“恋愛”に重きが置かれた話の展開となっており、翔と姫子のシーンにもかなり重きが置かれていたのが印象的であった。
各キャストの熱演にも注目
もちろんセーラー戦士同士のコミカルなやりとり、迫力ある戦闘シーンもたっぷりと楽しむことができ、物語により立体感が生まれていたように思う。
音楽も日常、戦闘シーン、そして恋愛を主体としたシーンとで楽器の使い方などを効果的に変えており、特にルナと翔、翔と姫子のやりとりの際はピアノの音色が美しく彩を添えている。
キャストの演技、歌唱も圧巻で、特にプレッシャーが大きかったであろう月野うさぎを演じた田中梨瑚は、アニメ版のうさぎを彷彿とさせる日常シーンでのキュートな演技、戦闘シーンでの気高さを見事に演じ分けていた。
歌唱面で特に圧巻だったのはプリンセス・スノー・カグヤを演じた岡村さやか。総じてカグヤのナンバーは音域も広い難曲ばかりなのだが、オペラティックな発声も交えながら、迫力ある歌唱によって“大いなる敵”の存在感を余すことなく魅せていた。またスノー・カグヤのナンバーや演出などはモーツァルトのオペラ《魔笛》の夜の女王を彷彿とさせ、オペラ・ファンとしては胸躍るものがある。
そして演技、歌唱ともに特に印象的だったのが、ルナを演じた櫻井佑音だ。ルナというキャラクターのもつかわいらしさはもちろん、恋を知ったことによる心の揺らぐ様子など、細やかなところまで丁寧に演じていたのをはじめ、美しく響く声を活かした安定感のある歌唱は、これからの成長がさらに楽しみなものであった。おそらく今後もミュージカルなどさまざまな場面でその歌声を聴くことができるだろう。
ちなみに、舞台本編が終わった後のカーテンコールでは「ムーンライト伝説」も全員で歌ってくれる。
やはりこの曲を聴くだけでいろいろなものがこみ上げてくるものがあり、会場全体が強い一体感に包まれる。最後の最後までセーラームーンファンの心を捉えて離さない“セラミュ”の世界、ぜひあなたにも体験してほしい。
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