レポート
2023.02.24
2023年2月26日 (日)まで上演の舞台を美術ジャーナリストがレビュー

二期会オペラ《トゥーランドット》〜進化した「チームラボ」が人間の五感を開く

小川敦生
小川敦生 日曜ヴァイオリニスト、ラクガキスト、美術ジャーナリスト

1959年北九州市生まれ。東京大学文学部美術史学科卒業。日経BP社の音楽・美術分野の記者、「日経アート」誌編集長、日本経済新聞美術担当記者等を経て、2012年から多摩...

東京二期会オペラ劇場 ジャコモ・プッチーニ《トゥーランドット》新制作 ゲネプロ風景 筆者撮影

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「チームラボ」が作る今までにないオペラ公演

今月26日まで東京文化会館大ホールで上演中のオペラ《トゥーランドット》(ジャコモ・プッチーニ作)は、これまでのオペラ公演とはまったく異なる側面を持つ。スイスのジュネーヴ大劇場と東京二期会オペラ劇場の共同制作の成果を日本で見せるこの公演では、デジタルを駆使して新たな表現をあまた生み出してきたアート集団チームラボが、「セノグラフィー」と呼ばれる空間演出を担当しているのである。筆者は今月21日のゲネプロを取材した。
この空間演出は、昨年7月にスイスのジュネーヴ大劇場で上演された《トゥーランドット》で先行して使われたものだ。ジュネーヴ公演は、アントニーノ・フォリアーニの指揮とスイスロマンド管弦楽団、東京公演はディエゴ・マテウスの指揮と新日本フィルハーモニー交響楽団による演奏だ。演出はどちらも、イングリッシュ・ナショナル・オペラ前支配人のダニエル・クレーマーである。
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ゲネプロ風景 筆者撮影
《トゥーランドット》の美しさは、オペラファンには言わずもがなであろう。中国を舞台にしたオペラだが、東洋的なミステリアスな空気を漂わせながら音楽のうねりの中に聴衆を泳がせるかのように引き込むプッチーニの手腕は、見事としか言いようがない。
前々から感じていたのだが、プッチーニのオペラは、日本人の心に非常に響きやすい音の動きと音の厚みを持っているのではないだろうか。このゲネプロの演奏においても、そのことを再確認した。

音楽と舞台から溢れる光が五感を刺激する

さて、本記事の本題は、チームラボである。演出家のクレーマーとチームラボは、この大掛かりな演出の準備に5年の歳月をかけたという。その5年の間にも、チームラボの技術や表現は進化を続けており、このオペラにもその進化がリアルタイムで反映してきたのではないかと推測している。
ゲネプロ風景 筆者撮影
通常の公演ともっとも違うのは、光の演出が舞台上に留まっていないことだろう。天井を見上げると、レーザー光線による美しい光がしばしば乱舞しているのだ。
筆者は、2006年頃からこれまで、さまざまな場所でチームラボの表現を見てきた。世界各地の展示を網羅して見ているわけではないので大雑把な見方になって申し訳ないが、見始めた最初の頃はCGの応用に力を入れていた印象が強かった。
近年はどんどん進化し、デジタルを駆使するだけでなく、人間の五感をいかにして開くか、というところに力を割いている。例えば、東京・豊洲の「チームラボプラネッツ」では、温水を張った池の中を鑑賞者が裸足で歩く部屋がある。その池の中を泳いでいるのは、デジタル映像の錦鯉だ。鑑賞者は心地よく、錦鯉の美に興じることになる。リアルな池ではできない体験である。チームラボはこうして、いかに感じるかということを大切しているのだ。
ゲネプロ風景 筆者撮影

オペラは、まさに五感で楽しむ総合芸術である。そこに、チームラボの技術が入ることで、聴衆の五感はさらに開かれるはずだ。ある場面では、まるで映像の中にリアルな歌手が入り込んで歌っているように見える。海の中で波がどんどん激しくなったり、背景が花で満ちたりする場面もある。視覚で感じる鮮烈な光や映像と、聴覚で感じる美しい生音による音圧は、筆者に新しい体験をもたらしてくれた。

ダニエル・クレーマー (演出)、チームラボのアダム・ブース (セノグラフィー)による、メイキング・インタビュー動画 (ジュネーヴ大劇場公演より)

ゲネプロ風景 筆者撮影
公演情報
《トゥーランドット》(新制作)
2023年2月23日 (木・祝)〜|2月26日 (日)
東京文化会館 大ホール (東京都台東区上野公園5-45)
 
オペラ全3幕 (ルチアーノ・ベリオによる第3幕補作版)
作曲: ジャコモ・プッチーニ
 
指揮: ディエゴ・マテウス
演出: ダニエル・クレーマー
セノグラフィー、デジタル&ライトアート: チームラボ
ステージデザイン: チームラボアーキテクツ
 
チケット販売: 二期会チケットセンター (TEL: 03-3796-1831) 他プレイガイド各社
 
チケット料金: S 22,000円、A 18,000円、B 14,000円、C 10,000円、D 6,000円、E 2,000円、学生 2,000円
*2月24日 (金)公演は、平日マチネ特別料金=S – B席1,000円引き
 
主催: 東京二期会オペラ劇場
共同制作: ジュネーヴ大劇場・東京二期会オペラ劇場
チームラボ協賛: 株式会社ジーシー
 
詳しくはこちらから
小川敦生
小川敦生 日曜ヴァイオリニスト、ラクガキスト、美術ジャーナリスト

1959年北九州市生まれ。東京大学文学部美術史学科卒業。日経BP社の音楽・美術分野の記者、「日経アート」誌編集長、日本経済新聞美術担当記者等を経て、2012年から多摩...

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