
メトロポリタン歌劇場で《連帯の娘》と《アラベラ》上演

アメリカの11月の音楽シーンから、注目のオペラ公演やニュースを現地よりレポートします。

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
取材・文=小林伸太郎
Text=Shintaro Kobayashi
この秋、ベッリーニ《夢遊病の娘》をヒットさせたメトロポリタン歌劇場(MET)は、続いてドニゼッティ《連隊の娘》を再演、ベルカント・オペラでの好調ぶりを印象づけた。
ナタリー・デセイとフアン・ディエゴ・フローレスの主演で初演されたロラン・ペリーのプロダクションも、いつの間にか初演から17年も経ってしまったが、フィジカルなコメディに満ちた舞台に、いまも観客は大喜びだ。
今回はセリフ役のクラッケントルプ公爵夫人を韓国系のカナダ出身の人気俳優、サンドラ・オーが演じることで話題を呼んだが、上演の成功は、何と言ってもトニオを歌ったローレンス・ブラウンリーの充実した歌唱によるものだった。彼は今シーズン、ベッリーニ《清教徒》の新制作上演にも出演が予定されており、今やMETのベルカント・オペラ上演に欠かせない存在となった。
ジャコモ・サグリパンティの柔軟な指揮の下、表題役のエリン・モーリーの豊かな音楽性、ベルケンフィールト侯爵夫人役のスーザン・グラハムの健在ぶりも印象的だった(11月8日所見)。
続いてMETはリヒャルト・シュトラウス《アラベラ》を11年ぶりに上演した。1860年代のウィーンを舞台に、破産寸前の一家の美しい長女・アラベラと、田舎の大地主・マンドリカとの婚約に、婚姻費用節約のために男の子として育てられた妹のズデンカ、ズデンカがひそかに愛するが、本人はアラベラに恋い焦がれるズデンカの友人・マッテオらが絡んで繰り広げられる悲喜劇。
オットー・シェンク原演出、ギュンター・シュナイダー=ジームセン装置、ミレーナ・カノネロ衣裳によるプロダクションは、1983年にキリ・テ・カナワを表題役に初演された、時代に忠実に作り込まれたもの。いま、これほど輝かしくもオールド・ファッションな演出を行なう度胸のある演出家は少ないだろう。
その美しく朽ちた古さは、フーゴー・ホフマンスタールの脚本をノスタルジックに彩るシュトラウスの音楽にふさわしく、幕が開くごとに浴びせられる喝采からも、このような演出を求める観客が多いことがうかがわれた。
表題役を初めて歌ったこの日のレイチェル・ウィリス=ソレンセンの歌唱は、登場と同時に空気が変わるようなタイプではなかったかもしれない。しかし、その少し暗めの魅力的なソプラノは幕が進むごとに存在感を増し、シュトラウスが用意した本作中おそらくもっとも輝かしいフレーズに満ちた終幕を、程よいメランコリーとともに説得力を持って締めくくった。
METデビューをはたしたルイーズ・アルダーはズデンカの嘆きと喜びを真摯に聴かせ、パヴォル・ブレスリックも一本気なマッテオを好演した。トマシュ・コニエチュニのマンドリカは、包容力のある強くおおらかな印象をもっと放ってほしかったといえるかもしれないが、同役の一徹な面をストレートに感じさせてくれた。指揮はニコラス・カーター(11月22日所見)。
沖澤のどかがボストン響デビュー
11月6日午後、ボストン市とボストン交響楽団(BSO)は、BSOの本拠地であるシンフォニー・ホール前のセント・スティーヴン・ストリートとマサチューセッツ・アベニューの角を「セイジ・オザワ・スクエア(Seiji Ozawa Square)」と命名し、新たな標識の除幕式を行なった。これは、1973年から2002年まで29年間にわたりBSOの音楽監督を務め、昨年2月に亡くなった小澤征爾にちなんだもの。
式典ではボストン市芸術文化局暫定局長ケニー・マスカリー、BSOプレジデント兼CEOのチャド・スミス、小澤征爾の娘である小澤征良氏らが登壇し、スミスCEOは、「セイジは情熱的なミュージック・メイキング、革新、そして後進の育成という遺産を残し、それは今も世界中の音楽家や聴衆を触発し続けています。『スクエア』は、彼の功績がいかに響き続けているかを示す象徴であり、彼が迎え入れた卓越した演奏家たち、彼が触発した聴衆、そして世代を超えて私たちを結びつける共有の記憶なのです」と述べた。

式典に合わせて行なわれた11月6日から8日のBSO公演では、小澤の弟子の一人、沖澤のどかが指揮を務めてBSOおよび米国デビューをはたし、小澤が愛したドヴォルジャーク「交響曲第7番」、および五嶋みどりをソリストに迎えたドヴォルジャーク「ヴァイオリン協奏曲」とともに、武満徹の《弦楽のためのレクイエム》が演奏された。武満の同曲をBSOが演奏するのは、1967年に小澤がタングルウッドで指揮して以来のことだった。





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