「第九」で学ぶ!楽典・ソルフェージュ 第7回 音階と調性2. 調号と調性
音大受験生や音大生はもとより、楽器や歌、音楽鑑賞を楽しむ人までを対象にした、楽典とソルフェージュの連載。国民的人気曲「第九」を題材に、楽しみながら耳を育て、スコア・リーディングにも挑戦! 楽典の学びを実践するエクササイズで、表現力やアンサンブル能力を磨きましょう。
今回は、音階と調性2. 「調号と調性」です。
【楽典】
ある調の音階音のうち、常に変化記号が必要なものをまとめ、各段の音部記号の右隣に記した♯と♭を調号といいます。
1、調号と調性
1種類の調号に対して、長調と短調の2つの調性があります。
調号は、何もつかないものから、♯と♭がそれぞれ7つのものまであります。
譜例1
調号と調性の組み合わせは30種類です。この機会に覚えてしまいましょう。
調性を表すにはドイツ語を用いることが多く、日本では、長調を大文字、短調を小文字で書くことが定着しています。durやmollを省略した「:」の表記も使われます。ト長調は「G:」、ト短調は「g:」となります。
♯の調号は増えるにしたがって5度ずつ上がり(Fis, Cis, Gis, Dis, etc.)、調名と主音も5度ずつ上がります(長調→G: , D: , A: , E: , etc.、短調→e: , h: , fis: , cis: , etc.)。
♭の調号は増えるにしたがって5度ずつ下がり(B, Es, As, Des, etc. …)、調名と主音も5度ずつ下がります(長調→F: , B: , Es: , As: , etc.、短調→d: , g: , c: , f: , etc.)。
「第九」の音楽之友社のミニチュア・スコアの日本語タイトルは「交響曲第9番 ニ短調 作品125(合唱付)」となっています。複数の楽章からなる楽曲の調名は、おおむね第1楽章の中心となる調性です。「第九」の第1楽章は♭1つを調号にもつニ短調で始まり、ニ短調で終わります。
2、移調楽器の調号
第1楽章の冒頭を見ると、弦楽器やフルート、オーボエ、ファゴットなどはニ短調の調号(♭1つ)です。しかし、移調楽器のクラリネット(Clarinetti in B)やホルン(Corni in D、Corni in B basso)、トランペット(Trombe in D)は♭1つではありません。
譜例2
in Bは、ハ長調の楽譜を演奏すると、実際には変ロ長調の音が出る仕組みです。反対に、変ロ長調の音を出すにはハ長調の楽譜が必要となります。B管クラリネットの記譜と実音の関係は長2度です。冒頭のニ短調の音を出すために、長2度上の調である♯1つのホ短調で記譜されています。
ところが、同じin Bのバスホルンには調号がありません。なぜでしょうか? 当時の金管楽器は、長い1本の管を巻いただけの「ナチュラル」な楽器で、おもに自然倍音を演奏していたからです。in DといえばDの倍音が、in BといえばBの倍音が鳴るので調号をつける必要がなかったのです。管の長さを自在に変えられる「バルブ」が発明されたのは1810年頃、実用化されたのは19世紀の中頃と言われています。
D管ホルンは記譜音の短7度下の音が、D管トランペットは記譜音の長2度上の音が出ます。B管バスホルンは記譜音の長9度下の音が出ます。
譜例3
3、主調と近親調
楽曲全体(場合によっては部分)の中心的な役割を果たす調を主調といいます。主調と関わりが深い調を近親調といいます。
表1. 主調と近親調との関係
名称 |
主調との関係 |
主調が長調の時 |
主調が短調の時 |
属調 |
主調の属音から始まる調 |
長調 |
短調 |
下属調 |
主調の下属音から始まる調 |
長調 |
短調 |
平行調 |
主調と同じ調号をもつ調 |
短調 |
長調 |
同主調 |
同じ主音をもつ調 |
短調 |
長調 |
4、転調
第4楽章はニ短調で始まりますが、63小節から♭2つの変ロ長調(第3楽章の回想)を経て、「歓喜の歌」が断片的に現れる77小節から♯2つのニ長調に転調します。ニ長調はニ短調の同主調です。
曲想が大きく変わる転調では、調号が予告され、また♭系から♯系に変わる時には、元の調号を打ち消してから新たな調号を記します。
譜例4
【エクササイズ】
1、調判定
第2楽章の主調はニ短調です。9小節目から主題の旋律が提示されます。177小節では転調して♯1つの調で主題が現れます。この部分は何調ですか?
答え:ホ短調
2、主調との関係
第3楽章の1小節からは♭2つの変ロ長調。変ロ長調は第3楽章の主調。
25小節からは♯2つのニ長調。
以上の調性の経過から、① ②の調について、主調との関係を考えましょう。
① 65小節からは♯1つのト長調。主調(変ロ長調)との関係は?
主調の平行調(ト短調)の( )調
② 83小節からは♭3つの変ホ長調。主調(変ロ長調)との関係は?
主調の( )調
答え: ①同主 ②下属
3、聴いて確かめよう
それぞれエクササイズに出てきた個所を聴いて確かめましょう。転調と曲想の変化を楽しみましょう。
エクササイズ1:第2楽章9小節~
(16:14~)
エクササイズ1:第2楽章177小節~
(19:02~)
エクササイズ2:第3楽章1小節~
(30:21~)
エクササイズ2:第3楽章25小節~
(32:41~)
エクササイズ2:第3楽章65小節~
(35:39~)
エクササイズ2:第3楽章83小節~
(36:45~)
いかがでしたか?
次回はいよいよ「和音」に入ります。
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