連載
2025.09.07
聴く耳と演奏力が育つ

「第九」で学ぶ!楽典・ソルフェージュ 第7回 音階と調性2. 調号と調性

音大受験生や音大生はもとより、楽器や歌、音楽鑑賞を楽しむ人までを対象にした、楽典とソルフェージュの連載。国民的人気曲「第九」を題材に、楽しみながら耳を育て、スコア・リーディングにも挑戦! 楽典の学びを実践するエクササイズで、表現力やアンサンブル能力を磨きましょう。

今村央子
今村央子

東京藝術大学作曲科卒業、同大学院ソルフェージュ科修了。パリ国立高等音楽院エクリチュール科、ピアノ伴奏科卒業。帰国後は作曲家・ピアニストとして活動を展開。近年は、特に協...

イラスト:駿高泰子

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今回は、音階と調性2. 「調号と調性」です。

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【楽典】

ある調の音階音のうち、常に変化記号が必要なものをまとめ、各段の音部記号の右隣に記した♯と♭調号といいます。

1、調号と調性

1種類の調号に対して、長調短調の2つの調性があります。

調号は、何もつかないものから、♯と♭がそれぞれ7つのものまであります。

譜例1

調号と調性の組み合わせは30種類です。この機会に覚えてしまいましょう。

調性を表すにはドイツ語を用いることが多く、日本では、長調を大文字、短調を小文字で書くことが定着しています。durやmollを省略した「:」の表記も使われます。ト長調は「G:」、ト短調は「g:」となります。

♯の調号増えるにしたがって5度ずつ上がり(Fis, Cis, Gis, Dis, etc.)、調名と主音も5度ずつ上がります(長調→G: , D: , A: , E: , etc.、短調→e: , h: , fis: , cis: , etc.)。

♭の調号は増えるにしたがって5度ずつ下がり(B, Es, As, Des, etc. …)、調名と主音も5度ずつ下がります(長調→F: , B: , Es: , As: , etc.、短調→d: , g: , c: , f: , etc.)。

「第九」の音楽之友社のミニチュア・スコアの日本語タイトルは「交響曲第9番 ニ短調 作品125(合唱付)」となっています。複数の楽章からなる楽曲の調名は、おおむね第1楽章の中心となる調性です。「第九」の第1楽章は♭1つを調号にもつニ短調で始まり、ニ短調で終わります。

2、移調楽器の調号

第1楽章の冒頭を見ると、弦楽器やフルート、オーボエ、ファゴットなどはニ短調の調号(♭1つ)です。しかし、移調楽器のクラリネット(Clarinetti in B)やホルン(Corni in D、Corni in B basso)、トランペット(Trombe in D)は♭1つではありません。

譜例2

in Bは、ハ長調の楽譜を演奏すると、実際には変ロ長調の音が出る仕組みです。反対に、変ロ長調の音を出すにはハ長調の楽譜が必要となります。B管クラリネットの記譜と実音の関係は長2度です。冒頭のニ短調の音を出すために、長2度上の調である♯1つのホ短調で記譜されています。

ところが、同じin Bのバスホルンには調号がありません。なぜでしょうか? 当時の金管楽器は、長い1本の管を巻いただけの「ナチュラル」な楽器で、おもに自然倍音を演奏していたからです。in DといえばDの倍音が、in BといえばBの倍音が鳴るので調号をつける必要がなかったのです。管の長さを自在に変えられる「バルブ」が発明されたのは1810年頃、実用化されたのは19世紀の中頃と言われています。

D管ホルンは記譜音の短7度下の音が、D管トランペットは記譜音の長2度上の音が出ます。B管バスホルンは記譜音の長9度下の音が出ます。

譜例3

3、主調と近親調

楽曲全体(場合によっては部分)の中心的な役割を果たす調を主調といいます。主調と関わりが深い調を近親調といいます。

表1. 主調と近親調との関係

 

名称

主調との関係

主調が長調の時

主調が短調の時

属調

主調の属音から始まる調

長調

短調

下属調

主調の下属音から始まる調

長調

短調

平行調

主調と同じ調号をもつ調

短調

長調

同主調

同じ主音をもつ調

短調

長調

4、転調

第4楽章はニ短調で始まりますが、63小節から♭2つの変ロ長調(第3楽章の回想)を経て、「歓喜の歌」が断片的に現れる77小節から♯2つのニ長調に転調します。ニ長調はニ短調の同主調です。

曲想が大きく変わる転調では、調号が予告され、また♭系から♯系に変わる時には、元の調号を打ち消してから新たな調号を記します。

譜例4

【エクササイズ】

1、調判定

第2楽章の主調はニ短調です。9小節目から主題の旋律が提示されます。177小節では転調して♯1つの調で主題が現れます。この部分は何調ですか?

答え:ホ短調

2、主調との関係

第3楽章の1小節からは♭2つの変ロ長調。変ロ長調は第3楽章の主調。

25小節からは♯2つのニ長調

以上の調性の経過から、① ②の調について、主調との関係を考えましょう。

① 65小節からは♯1つのト長調。主調(変ロ長調)との関係は?

主調の平行調(ト短調)の(    )調

 

② 83小節からは♭3つの変ホ長調。主調(変ロ長調)との関係は?

主調の(    )調

答え: ①同主  ②下属

3、聴いて確かめよう

それぞれエクササイズに出てきた個所を聴いて確かめましょう。転調と曲想の変化を楽しみましょう。

エクササイズ1:第2楽章9小節~

 

(16:14~)

エクササイズ1:第2楽章177小節~

(19:02~)

エクササイズ2:第3楽章1小節~

(30:21~)

エクササイズ2:第3楽章25小節~

(32:41~)

エクササイズ2:第3楽章65小節~

(35:39~)

エクササイズ2:第3楽章83小節~

(36:45~)

いかがでしたか?

次回はいよいよ「和音」に入ります。

今村央子
今村央子

東京藝術大学作曲科卒業、同大学院ソルフェージュ科修了。パリ国立高等音楽院エクリチュール科、ピアノ伴奏科卒業。帰国後は作曲家・ピアニストとして活動を展開。近年は、特に協...

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