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2020.04.06
週刊「ベートーヴェンと〇〇」vol.16

ベートーヴェンと秘密警察

年間を通してお送りする連載「週刊 ベートーヴェンと〇〇」。ONTOMOナビゲーターのみなさんが、さまざまなキーワードからベートーヴェン像に迫ります。
第15回目はベートーヴェンは秘密警察にマークされていた?「会話帳」に現われるスパイ映画さながらのやりとり......かげはら史帆さんが紹介してくれました。

かげはら史帆
かげはら史帆 ライター

東京郊外生まれ。著書『ベートーヴェンの愛弟子 – フェルディナント・リースの数奇なる運命』(春秋社)、『ベートーヴェン捏造 – 名プロデューサ...

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ベートーヴェンは秘密警察にマークされていた!?

稲垣吾郎さんがベートーヴェンを演じて話題になった舞台『No.9 –不滅の旋律』(2015年初演)には、フリッツというキャラクターが登場します。陽気なお調子者のウィーン子だった彼は、ストーリーが進むにつれてだんだんと陰のある雰囲気をまとっていきます。

彼が「秘密警察」の一員になったことが明かされるのはストーリーの中盤以降。「あなた、いつの間に」と驚くヒロイン・マリアに、彼は意気揚々と答えます。

この町には今各国から要人が集まってるからな。厳戒態勢になったおかげで大出世だ。ウィーン会議様様だよ

中島かずき著『No.9 – 不滅の旋律』(論創社刊)より

この舞台は創作作品ですが、ベートーヴェンがウィーンの秘密警察からマークされる身にあったのは事実でした。ナポレオン戦争が終わり、社会的な混乱の再発を恐れたヨーロッパ各国は、市民の活動をきびしく制約するようになりました。「ウィーン会議」開催以降、ウィーンには数万人におよぶ秘密警察やその手下のスパイたちがあふれ、市民が少しでも過激な政治発言をしようものなら、すぐさま当局に密告したといわれています。

その痕跡は、ベートーヴェンが晩年に残した筆談用ノート「会話帳」のなかにもうかがえます。「大きな声を出さないで。すべて盗み聞きされていますから」「壁に耳ありです」「あいつは誰だ?」「うさんくさいやつですよ」……まるでスパイ映画さながらの緊張感。フィクションだったらワクワクするところですが、これは現実にほかなりません。

なんという息苦しい環境でベートーヴェンは生きていたのでしょうか。こういう状況下からベートーヴェンの『第九』が、あるいはシューベルトの『冬の旅』が生まれたということに、あらためて思いをめぐらせる必要があるかもしれません。

ウィーン会議の様子を描いた画。この会議の裏ではすでに、たくさんのスパイが暗躍していました。
かげはら史帆
かげはら史帆 ライター

東京郊外生まれ。著書『ベートーヴェンの愛弟子 – フェルディナント・リースの数奇なる運命』(春秋社)、『ベートーヴェン捏造 – 名プロデューサ...

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