——ファイナルのコンチェルタンテ作品が、モダンコンクールと違い《モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』の主題による変奏曲》や《ロンド・ア・ラ・クラコヴィアク》も選択可能なのはなぜですか?
レシュチンスキ 前回のピリオド楽器コンクールでは、ファイナリストはピアノ協奏曲に加えて、ピアノとオーケストラのための小品3作品から1つ、演奏しなければなりませんでした。しかし、オーケストラと演奏するという「拡張」に対して、審査員たちは特に目立った印象を受けなかったのです。そこで、若きピアニストたちがどう解釈するのか、その技量はソナタの課題曲で十分にわかるという考えに立ち帰り、大編成の作品を押し付けない方針を取りました。
そのため、協奏曲を1曲、もしくはピアノとオーケストラのための小品から2曲という選択肢にしたのです。でも、小品は形式としてはわかりやすいですが、技術的には非常にセンスを問われる作品です。場合によっては、協奏曲より大変かもしれませんね。
——逆にモダンと違って、ショパン作品についてはスケルツォが入っていないなど、限定的です。そこにはどんな意図が?
レシュチンスキ ピリオド楽器を演奏するうえでは特に、ピアノがもつダイナミックな可能性に合わせて解釈する必要があります。もちろん、ショパンのドラマチックで壮大な作品によって、鍵盤にすべての力を注ぎ込むような演奏が引き出されることはあります。そしてこれは、ピリオド・ピアノが拒絶する瞬間でもあります。そのため、よく考えた結果、課題曲を限定することにしました。
——コンクールでは、どのようなことに注目して聴いたらいいでしょうか?
レシュチンスキ 正直なところ、ピリオド・ピアノを聴いたことのない人にとっては、音程が外れたモダンピアノのように聴こえてしまうかもしれません。この独特な音色を好きになるには、矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、楽器ではなくて音楽そのものに集中するのが良いと思います。モダン楽器の演奏では出会わないような要素があります。アーティキレーション、音楽自体がどのような様式や豊かさで語るかなど、さまざまな違いが挙げられます。そのなかでも特に、朗唱的な部分は、ピリオド・ピアノで演奏すると、その魅力が際立ちます。
このような楽器を通して、音楽がもつミステリーを新たに発見することもあるのです。ショパンの作品に込められた感情とかね。
ピリオド楽器を聴く「練習」を少しすれば、ピリオド楽器がもつ素晴らしい世界をわかってもらえると思うし、ピリオド楽器演奏の好みを見つける楽しさに気付いてもらえると思います。特に、エラール、プレイエル、ブッフホルツでショパンの作品を演奏したら格別です。
ショパンの演奏は、彼自身との契約であり、人類の宿命であり、そして、音楽で描かれた逃れられない運命なのです。これはまさに、ショパンが日本という繊細な国で親しまれ愛されている理由だと思うんです。
そして、このショパンによる現象は、ピリオド楽器で演奏されるとさらに雄弁になります。ショパンの時代のピアノなのですから。