コッホ もちろん、ショパンのピアノ音楽においては、事情がまったく異なります。というのも、ショパンのピアノ音楽は、その精巧な記譜法によって、完璧なバランスを保っているからです。意味なく存在している音符など、そこには一つもありません。にもかかわらず、ショパンの曲の至るところに装飾できる箇所が用意されています。
装飾の実例は、ショパン自身の手によって弟子たちの楽譜に書き留められ、今日に伝わっています。それらはポーランド国立研究所版のショパン全集(エキエル版)で知ることができます。数多のバリエーションからは、さまざまなインスピレーションを得られます。
コッホ 私が思うところ、楽譜というのは、「古びたコンクリートの倉庫」などではありません。つまり、解釈者しか入ることの許されない建造物とは違うのです。二次的な創作というのは、精神の自由なしには叶いません。練習において、原典である楽譜は、徹底的に吟味され、可能な限りそのまま具体化されねばなりません。しかし、演奏中は、決してそれを無味乾燥に表現してはなりません。なぜ、真に旋律的なフレーズ(例えばノクターンに書かれているようなフレーズ)をショパンのように弾いてはいけないなどと言うのでしょう? 私は即興的な前奏や経過句(2つの主要な楽句または部分を結ぶ楽句)も歓迎します。そうした方向性で、私たちは第1回のコンクールでも何度か刺激的な瞬間を味わいました。
音楽だけでなく、人生においても、即興は私たちに欠かせない力です。このコンクールでは即興が並々ならぬ可能性を秘めていることを、私個人は確信しています。スタンダードな解釈が、私の興味を引くことはありませんでした。新たな解釈に対し、私たちはいつもオープンであるべきです!
——第2回ショパン国際ピリオド楽器コンクールでもたくさんの日本人がライブ配信を聴くと思います。ピリオド楽器の演奏に馴染みのない観客に向けて、アドバイスはありますか?
コッホ まず心地よく座り、静かな環境でリラックスして聴いてください!(笑) 多種多様な才能を持った音楽家たちの演奏を聴くことは、私にとっても、このうえない贈り物です。私たちが音楽家たちの演奏を理解するには、素直な心と耳があれば充分です。古楽器の響きが創り出す世界は、モダンピアノのものとまったく異なります。素晴らしい音色、暗いバスの響きが持つ魔力、それと掛け離れたディスカントのカンタービレ、透明で軽やかな響き、静かな中間音、プリズムのように輝く倍音の多彩さ……それらをぜひ体験してください。
ピリオドピアノ演奏の世界は、聴覚上の大冒険なのです。私たちの感覚を研ぎ澄まし、喜ばせてくれます。
——ピリオド楽器とその演奏の魅力は何ですか。
コッホ 人生を通して、私はこの問いと向き合っています。私たちという存在について考察するとき、本当に大切なものを思い出すとき、次のような問いが浮かび上がってきます。「私たちはどこから来たのか」、「私たちは今どこにいるのか」、「私たちは未来のどこへ行こうというのか」といった疑問です。そうした問いは、コンクールに臨む若き音楽家にとって、突破口となるはずです。