
田代 千住さんのそういう考え方は、どこからきたものなんでしょうか?
千住 僕の父は経営工学者としてトヨタやコカ・コーラなどの企業や社会人教育機関に教えに行っていたのですが、その際、非常に簡単な例え話をするんですね。たとえば、「雨が降ってきたときに走るのと傘をさして歩くのと、どっちが濡れると思いますか」という風なね。僕は「どうして小学生でもわかるような話し方をするの?」って聞いたら、「専門家っていうのはやさしい言葉でしゃべるんだよ。難しいことを言うのは、本当の専門家じゃない」と語ってくれたんです。この教えは僕ら兄妹に大きな影響を与えています。
ただ、単にやさしくするだけでなく、専門家が聞いたときにも「なるほど」と思わせる深みがあるということが重要で、奇しくもそれは先ほど紹介した「何をやってもいいけれど藝大生のプライドを持ってやれ」という南先生の言葉と重なるんです。
田代 それは基礎がしっかりとしているからこそ、できることでもありますよね。それと、僕の尊敬する劇作家・井上ひさしさんの有名な言葉、「
千住 その通りです。声楽家でも基礎があるから安心して任せられる、というのがすごく重要だと思います。