田代 千住さんのそういう考え方は、どこからきたものなんでしょうか?

千住 僕の父は経営工学者としてトヨタやコカ・コーラなどの企業や社会人教育機関に教えに行っていたのですが、その際、非常に簡単な例え話をするんですね。たとえば、「雨が降ってきたときに走るのと傘をさして歩くのと、どっちが濡れると思いますか」という風なね。僕は「どうして小学生でもわかるような話し方をするの?」って聞いたら、「専門家っていうのはやさしい言葉でしゃべるんだよ。難しいことを言うのは、本当の専門家じゃない」と語ってくれたんです。この教えは僕ら兄妹に大きな影響を与えています。

ただ、単にやさしくするだけでなく、専門家が聞いたときにも「なるほど」と思わせる深みがあるということが重要で、奇しくもそれは先ほど紹介した「何をやってもいいけれど藝大生のプライドを持ってやれ」という南先生の言葉と重なるんです。

田代 それは基礎がしっかりとしているからこそ、できることでもありますよね。それと、僕の尊敬する劇作家・井上ひさしさんの有名な言葉、「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」を思い出しました。

千住 その通りです。声楽家でも基礎があるから安心して任せられる、というのがすごく重要だと思います。

後編では、オペラとミュージカルの制作の違い、日本と中国のミュージカル事情などをさらに掘り下げます。どうぞお楽しみに!

田代万里生
田代万里生 ミュージカル俳優

東京藝術大学音楽学部声楽科テノール専攻卒業。3歳からピアノを学び、7歳でヴァイオリン、13歳でトランペットを始め、15歳からテノール歌手の父より本格的に声楽を学ぶ。1...

進行・まとめ
室田尚子
進行・まとめ
室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...