——この作品のために、特別な役作りはされましたか? 映画と舞台との違いは?

カリムルー 僕には映画も舞台も同じですね。どちらも物語をいかにも本当のことであるかのように伝える仕事です。

映像の仕事については、僕はカメラはひとりの観客だと思っています。舞台では観客の目がカメラなので、空間だけわかっていればいい。そう思って演じれば、カメラにも観客にも、どんなアングルでも真実が映るんです。だから俳優がやるべきことは、その役になりきって演じるだけですね。舞台ならば演出家、映画なら監督と撮影監督の要求するとおりに演じる。楽しくてやりがいのある仕事ですよ。

——サマンサ・バークスとの共演はいかがでしたか?日本では映画『レ・ミゼラブル』(2012年)のエポニーヌ役で有名です。映画では初共演ですね。

カリムルー サムはすごくおもしろい人です。アーティストとしても一流で心が広く、いい友達です。だからサムとの共演は気楽でした。『チェス』の日本公演に一緒に行った仲間でもあるので、ニックとサムと映画を作るのは楽しかったです。

©Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co.,
Ltd. for Japan

——本作の音楽の魅力は?

カリムルー この映画には新曲がたくさんありました。どれも歌詞を大切にした曲ばかりです。ローレンス(ローレンス・マーク・ワイス)とスタジオで収録したのは楽しかったですね。新人のころは、スタジオ収録は嫌いでライブのほうが好きでした。でも、今はむしろスタジオのほうがいい。スタジオだとローレンスみたいにコラボしてくれる仲間がいるし、新しいことを模索するのが楽しいんです。

曲については全曲に思い入れがあります。なかでも「アイ・ユーストゥ・ドリーム・オブ・ユー」の収録は本当にすばらしかったです。

映画『トゥモロー・モーニング』サウンドトラック

——映画ではザックという息子が登場しますが、実生活でも二人の息子さんをお持ちですよね。映画を通していい父親ぶりが見られた気がしますが、実際のお子さんとの関係性が演技にも反映されているのでしょうか?

カリムルー 自然にそうなったと思います。演じるうえでは台本にあることがすべてですが、体に染みついてる実生活の経験を完全に切り離すことはできません。だから多少は反映されていると思いますよ。

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『ミス・サイゴン』のクリス役や『レ・ミゼラブル』25周年記念コンサートがターニングポイントに

——次に、ミュージカルの話をうかがいます。現在、ミュージカル界のスターとして世界で活躍されていますが、役者として転機になったミュージカルは?

カリムルー 役へのアプローチとしては『ミス・サイゴン』(2005年)のクリスがターニングポイントになりました。あの舞台のリハーサルは本当に大変だったんです。まず題材がシリアスだから、物語をどう伝えたらいいのかすごく考えたし、主役にずっと寄り添う役はほぼ初めてだったので、役に対するアプローチを深化させる必要があった。

そんな時期に出会った本が『“役を生きる”演技レッスン—リスペクト・フォー・アクティング』(ウタ・ハーゲン著)でした。この本で、脚本やシーンの掘り下げ方を深めることができたんです。このクリス役の経験は、『オペラ座の怪人』(2007年)のファントムに反映され、『ラヴ・ネヴァー・ダイ』(2010年)につながったと思っています。

ラミン・カリムルーがファントムを演じる『オペラ座の怪人』

——仕事面で転機になったことは?

カリムルー 「『レ・ミゼラブル』25周年記念コンサート」(2010年)ですね。一夜だけだったけれど、終わったあとにすごい幸福感を感じました。舞台を観た日本のファンや世界中のサポーターたちからSNSでたくさんのメッセージをもらったことも大きかったです。あと、この作品は『ラヴ・ネヴァー・ダイ』の舞台と共に円盤化されて、キャリア面の大きな転機になりました。

——ラミンさんが28歳のとき、史上最年少の若さで『オペラ座の怪人』の主役を演じたことは有名ですが、当時から歌は独学だと聞きました。その素晴らしい歌唱力をどのようにして得たのですか?

カリムルー 歌は、自分で自分を鍛えながらやってきました。もちろん、これまで素晴らしいアーティストたちと世界中で仕事をしたので、その過程で豊かな経験を得ることができたし、先輩たちの歌い方をよく見て、聴いて、盗んでいました。

現在もブロードウェイで『ファニー・ガール』という舞台に出演して、素晴らしい役者たちから多くのことを学んでいます。もしかしたら、いけないことや悪いことも学んじゃったりしているかもしれないけれど……いや、これは冗談(笑)。 あと今は、テレビや映像の仕事もあるので、それについてはカメラや脚本などの講座をとって勉強しています。

——では、特に思い入れのあるミュージカルソングは?

カリムルー ブロードウェイで歌った『アナスタシア』の曲、『ラヴ・ネヴァー・ダイ』で初めて歌ったファントムの曲、「『レ・ミゼラブル』25周年記念コンサート」の歌……とても一つには決められません。どれもが同じぐらい思い入れのあるミュージカルナンバーです。

ラヴ・ネヴァー・ダイズ』より「Til I Hear You Sing」

完璧に歌うことよりも聴いている人の心に触れるかどうかを大切に

——歌うときに大切にしていることを教えてください。

カリムルー ストーリーを伝えることです。歌はメッセージや思いを伝えないと、ただ音をだしているだけになってしまいますから。個人的には、“完璧に歌う”ということは全然重要視していなくて。聴いている人の心に触れるかどうかを大切にしています

——ミュージカル俳優として、日々どんなトレーニングをしていますか?

カリムルー 普段はジムで体を鍛えて、十分に睡眠をとって体を維持しています。舞台に立つのも、ある意味ではトレーニングですね。それから新しい題材に常にチャレンジすることも、自分にとってはいいトレーニングです。テレビや映画のオーディションは常に受けるようにしているし、今はプロレスを題材にしたミュージカルにもかかわっています。

——その「プロレス界を舞台にしたミュージカル」について、少し教えてください。

カリムルー 『ザ・ラスト・マッチ』というロックミュージカルで、本物の有名なレスラーたちも出演しています。僕自身も彼らと一緒にトレーニングをしているので、すごいハードワークですけれど(笑)、プロレスラー役にいかに真実味をもたせるかを探求し、学ぶことが面白いんです。

この作品はいつか日本で上演できたらと思います。日本には「新日本プロレス」という素晴らしい団体があるし、ミュージカルファンも多い。プロレスミュージカルを日本でやれば、いい融合が生まれるんじゃないかと思うのですが、いかがでしょう?(笑)

ほかにも《ペンザンスの海賊》というニューオリンズのジャズを使ったオペレッタや、『ファニー・ガール』にも出演しているので、毎日が忙しいです。

ミュージカル『ザ・ラスト・マッチ』のサウンドトラック

——日本には何度も来日して、アーティストとのコラボも重ねています。これまで心に残ったことは?

カリムルー まず城田優さんとのコラボは印象に残っています。出会ったときから互いの成長過程を見ているので、兄弟みたいな感じというか。彼とはまたいつかコラボしたいです。

「ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート」(2021年)も心に残っています。キャストは半分日本人で、半分が海外のアーティストで。互いが魂でつながり、一体となって何かを作る経験ができました。日本人アーティストが役として出演し、一緒に作品を高めていく舞台にまた出演したいし、とにかく日本のみなさんと仕事がしたいんです(笑)。

——NYから、たくさんのお話をありがとうございます! 最後に日本のファンにむけて、『トゥモロー・モーニング』への意気込みをお願いします。

カリムルー この映画は僕にとって好きなシーンばかりで、演じるだけでなく、作ることが本当に楽しい作品でした。日本のファンの方々にも楽しんでもらいたいし、みなさんに早く会いたい。そんな日が1日も早くくることを願っています。

©Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co.,
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映画『トゥモロー・モーニング』
公開情報
映画『トゥモロー・モーニング』

監督: ニック・ウィンストン

脚本・音楽: ローレンス・マーク・ワイス

出演: サマンサ・バークス、ラミン・カリムルー、ジョーン・コリンズ、ハリエット・ソープ、ジョージ・マグワイア

12月16日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、シネスイッチ銀座ほか全国公開

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取材・文
NAOMI YUMIYAMA
取材・文
NAOMI YUMIYAMA ライター、コラムニスト

大学卒業後、フランス留学を経て、『ELLE Japon(エル・ジャポン)』編集部に入社。 映画をメインに、カルチャー記事担当デスクとして勤務した後、2020年フリーに...