——島健さんが書きおろす楽曲についてはいかがですか?

中川 普通のミュージカルはだいたい30曲ぐらいで構成されているのですが、『チェーザレ』は51曲もあるんですよ(笑)。稽古は大変ですけど、ヨーロッパの歴史を描いたこのドラマに、島健さんの旋律と日本語の美しさがぴったりとハマています。なかでもダンテ・アリギエーリとハイリッヒ7世という、チェーザレが人間的に惹かれている二人が歌うシーンの音楽は素晴らしいです。

そして、歴史ものなので、実在したさまざまな人物のキャラクターが登場するのですが、島健さんの躍動する楽曲が、それぞれの個性を豊かに表現していると思います。登場人物それぞれの物語が重なり合ったときの「うねり」も魅力的です。

——この舞台を観に来てくれる方にメッセージをお願いします。

中川 『チェーザレ』は、若き日のチェーザレが何に出会い、何を感じ、それをどう他者と分かち合ったのかを青春群像という形で描く舞台です。今この時代に生きるすべての人々と共にこの作品が生まれるすべての瞬間を作っていきたいし、育んでいきたいし、応援していただきたいと思います。

人生を変えたミュージカル作品と思い入れの強いミュージカルソング

——次に、ミュージカルのことを教えてください。中川さんの人生を変えたミュージカルは?

中川 小学生のときに観た音楽座のミュージカル『シャボン玉飛んだ宇宙(ソラ)まで飛んだ』ですね。この作品を観なければミュージカルを知らなかったし、今もこの作品見たときの衝撃は忘れられません。

たった一度しか観ていないのに、子どもながらにテーマ曲を1回で覚えたんです。当時は毎日のように歌っていたので、叔父さんに「もういい」と言われたことも(笑)。観劇後は「あの宇宙人のシーンは何だったんだろう」とか「鏡部屋のシーンがすごかったな」とか、いろんなことに思いを巡らせました。それまで経験したことのない感動を受けました。この舞台がなければ、僕はその後『モーツァルト!』に出演することもなかったんです。

『シャボン玉飛んだ宇宙(ソラ)まで飛んだ』のサウンドトラック

——では次に、思い入れのあるミュージカルソングは?

中川 ミュージカル『ミス・サイゴン』で、本田美奈子さん演じるキムが歌った「世界が終わる夜のように」です。当時、僕はまだ子供だったので、ベトナム戦争のドラマなんて遠い世界の話でしたけど、「歌」の力で物語の中に誘われました。

『ミス・サイゴン』より「世界が終わる夜のように」

中川 命をかけて闘う母親キムの気持ちに共感できたし、当時は少しマセていたのか、男女が愛し合って子どもを生むんだとか、歌に出てくる「愛」って何だろう? と考えたりして。本田美奈子さんが歌う最後の「命をあげるよ」という歌詞には、ただただ圧倒されました。客席で口も目もあんぐり開いていたと思います(笑)。

舞台でお客様に喜びや生きる活力を届けている自分を誇りに思う

——中川さんが思う、ミュージカルならではの魅力とは?

中川 今は「2.5次元」という舞台もあるので、ミュージカルだけが非日常の世界というわけでもないんですよね。ただ、日常生活にある喜怒哀楽がミュージカルにあるのはたしかです。どんなに些細な話であっても、ミュージカルになると、歌の力が持つ説得力や生の舞台だからこその迫力が感動を生む。ミュージカルには、人の心を引き付ける魅力があると思います。

——舞台のチェーザレは時代のリーダーになっていきますが、中川さん自身は現在、ミュージカル界を牽引するリーダーです。今後の抱負をお願いします。

中川 今回、舞台では16歳のチェーザレを演じますが、僕自身は40歳になりました(笑)。40歳って「不惑の年」といいますよね。でも「不惑」は一説によると、「不或」という意味もあるようで、それまでの枠を超えて、さらに新たな領域に挑戦していく年なのではと期待しています。

また僕は40歳って、「40代」という新たな川の中に入っていく「橋」のような気がするんです。「明日にかける橋」じゃないけれど、次の世代に何かをつなげる「橋」のような役割も担うのかなと。

もともと僕は小さい頃からおばあちゃんに、「誰かのためになることをやりなさい」とずっと言われてきました。今、お客様に喜びや生きる活力を届けている自分を誇りに思いますし、これからも舞台で頑張りながら、新たな世代にミュージカルのバトンをつなげていきたいですね。

公演情報
ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』

日時: 2023年1月7日(土)〜2月5日(日)

会場: 明治座

出演: 中川晃教、橘ケンチ(EXILE)、山崎大輝、風間由次郎、近藤頌利、木戸邑弥、赤澤遼太郎、鍵本輝、本田礼生、健人、藤岡正明、今拓哉、丘山晴己、横山だいすけ、岡幸二郎、別所哲也、ほか

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取材・文
NAOMI YUMIYAMA
取材・文
NAOMI YUMIYAMA ライター、コラムニスト

大学卒業後、フランス留学を経て、『ELLE JAPAN(エル・ジャパン)』編集部に入社。 映画をメインに、カルチャー記事担当デスクとして勤務した後、2020年フリーに...