——『赤と黒』をはじめ『ロミオとジュリエット』『1789—バスティーユの恋人たち—』など、フレンチロックミュージカルは日本でも人気で、再演も続いています。その魅力の一つに楽曲の素晴らしさがありますよね。
夢咲 私もフランスのミュージカルの音楽は大好きなんです。男性が歌う激しくてドラマティックな歌もありつつ、女性たちの色っぽくてロマンティックな歌もあって。ロックと言っても普通のロックとは一味違う、おしゃれで粋な感じも好きです。
——『赤と黒』の楽曲を聴いたときの感想は?
夢咲 この舞台は今年、(日本で初演した)宝塚版を観劇したんです。そのときは思ったよりも曲が多いなという印象でした。『1789』と作品のプロデューサーがと同じなので、コンサートでも歌えるような壮大な曲やキャッチーな曲が多かったですね。私も『1789』に出演しているので、曲調が体の中に蓄積されているせいか、どの曲にも親しみを覚えました。
——レナ―ル夫人役として、聴かせどころの歌は?
夢咲 ラストで歌うソロの曲です。自分は死ぬことを選択し、独房にいるところへ最後に一目だけ会いに行き結ばれない運命を嘆きながら歌う曲です。曲自体はすごく重いのですけど、ジュリアンと出会って、本当の自分と真実の愛を知ったルイーズが生きる気力を失くしつつそれでも前を向かなければならないというようなとても大切な曲です。ただ、めちゃくちゃ難しいんですよ(笑)。稽古では演出家のジェイミーさんについてもらって、相談しながら作っています。
フランス語『赤と黒』より「Quel ennui」
——ジェイミー(・アーミテージ)さんは、ミュージカル『SIX』で世界の注目を浴びた演出家。お稽古場ではどんな方ですか?
夢咲 とてもフレンドリーな方です!先日も稽古場で全員の歌稽古が終わった後、「この作品を“エモい”ものにしたい!」っておっしゃって、「あ、もう日本語を習得してる!」って盛り上がりました(笑)。役者たちの相談にあれこれのってくださるし、協力的ですね。ジェイミーさんの期待通り、感動的な作品に仕上がると思っています。
——ところで夢咲さんにとって人生を変えたミュージカル作品はありますか?
夢咲 やっぱりフレンチロック版の『ロミオとジュリエット』ですね。これを語りだすと一日じゃ足りないほど好きなんです(笑)。宝塚に在団中、『エリザベート』の新人公演でヒロインを演じることになり、本場の舞台を観劇するためにウィーンに行ったんですよ。そこでたまたまこの作品が上演されていて、なんとなく気になって観に行ったんです。そうしたら、最初の「ヴェローナのシーン」で魂をもっていかれて、客席で熱を出しちゃいました(笑)。なんとか劇場でCDを購入してホテルに帰ったのですけど、それほど圧倒されました。
——まさに運命的な出会いですね!
夢咲 日本に戻ったあとも、すごくいい作品だよって周囲に言いまくっていたら、5年後に劇団のプロデューサーさんに呼び出されたんです。そして「今度『ロミオとジュリエット』をやってもらいます」って。恐るおそる、「それってフレンチロックミュージカルのですか?」って聞くと、「そうです。あなたはジュリエット役です」って……! 夢って本当に叶うんだなって思いました。あの作品に出会って演じられたことは、今も私の財産です。
——そのときの日本初演版『ロミオとジュリエット』は大きな反響を呼び、夢咲さんは再びジュリエットを演じることに。個人的にもあの舞台を観たときの感動は、今も忘れられないほどです。ところで舞台を降りたあと、普段はどんな音楽を聴くんですか?
夢咲 やっぱりミュージカルの曲が多いですね。クラシック音楽もよく流していますね。なかでも宝塚を退団するときデュエットダンスで使ったショパンの「バラード第1番ト短調」は大好きな曲です。相手役の柚希礼音さんとはそれまで激しいデュエットダンスが多かったんですけど、振り付けの先生に「あまり動かないで、見つめ合って成立するのがデュエットダンスの真骨頂だよ」と言われて挑戦しました。曲調も振り付けもすごく美しくて、この曲を聴くと今も当時のことを思い出します。
ショパン:バラード第1番ト短調
——クラシック音楽でほかにお好きな曲は?
夢咲 リストの《ラ・カンパネラ》。以前、ドラマにピアニスト役で出演したときに出会いました。弾くのはすごく難しかったですが、聴いていると落ち着くんですよ。宝塚の100周年のイベントではピアニストの辻井伸行さんが舞台で弾いてくださり、今もそれを電車の中などで聴いています。
辻井伸行さんが演奏するリスト《ラ・カンパネラ》
——「歌」については、何か転機になったことは?
夢咲 宝塚時代は余裕がないせいか自分を反省する時間がなく、トップ娘役になってから退団後くらいまで、“自分ってなんてダメなんだ”というコンプレックスを抱えていたんです。そんななか、2021年に『ポーの一族』という舞台に出演して、お稽古中に小池(修一郎)先生から、「マイナスな思いで舞台に出てはいけないよ」とアドバイスを受けて。「みなさんがこの役をあなたにできると思って期待してくれているのに、わたしはできないと逃げていては失礼になってしまうよ」と。
それでやっと、目が覚めました。マイナスの感情にひっぱられることで、かえってダメになっていた自分にも気づいたんです。それからは自分自身を信頼できるまで稽古して、周りの方々にも助けていただきながら前向きに頑張れるようになりましたし、先生にはいつも迷いがあるときに的確にアドバイスいただいています。稽古でも毎日“今が本番”という気持ちでチャレンジしています!
——そんな葛藤があったんですね。では多くの経験を積み重ねた今、夢咲さんにとってミュージカルの舞台の魅力とは?
夢咲 やっぱりすべてが揃っていることじゃないですかね。歌と音楽もダンスもお芝居も。すべてが1本の中にあり、生で体験できる。そういえば以前、他の現場のスタッフの方に、「ミュージカルって神様に選ばれた人にしかできないんだよ」って言われて、「ああ、そうだよな」って思いました。ミュージカルには歌もダンスも芝居も必要だから、“敷居が高い”とよく言われます。そんな場所に自分は立たせていただいているんだと肝に銘じて、これからも舞台に立ち続けたいなと思います。
——最後に、『赤と黒』をご覧になる方にメッセージをお願いします。
夢咲 この作品はジュリアンを始め、最初はどの役にも建前と本音があります。それが物語が進むにつれて、誰もが人間の本性を出してぶつかりあい絡み合って、それぞれのゴールへと進んでいくんです。それはすべてがハッピーエンドじゃないんですけど、そこに至るまでの人間模様は、音楽の力でよりドラマティックに、ロマンス部分はより深く描かれていきます。これまでにない新しく誕生する『赤と黒』だと思いますので、ぜひ楽しみにご覧ください!
【東京公演】
日時: 2023年12月8日(金)〜12月27日(水)
会場: 東京芸術劇場プレイハウス
【大阪公演】
日時: 2024年1月3日(水)〜9日(火)
会場: 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
演出: ジェイミー・アーミテージ
出演: 三浦宏規、夢咲ねね、田村芽実、東山光明、川口竜也、 東山義久、駒田一、ほか
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