——現在、ストレートプレイから歌舞伎まで幅広いジャンルで活躍中の福士さんですが、人生を変えたミュージカルはありますか?
福士 最初に出演したミュージカル『RENT』(2010)ですね。それまで僕はミュージカルに対して勝手にイメージを抱いていたのですが、出演してみたら楽しさを感じました。出演者は8人で、みんながミュージシャンというカンパニー。誰もが才能と個性が確立していたので、「個」で話すと素敵な人たちなのに、チームで集まると「矢沢永吉さんが8人いるのか?」という勢いで、まさにリアル『RENT』状態(笑)。それを俳優である自分がまとめるのはすごくいい体験でしたし、彼らとは今でも仲がいいです。
——『RENT』はブロードウェイミュージカルの傑作で、名曲揃いの作品です。「歌」についてはいかがでしたか?
福士 ジョナサン(・ラーソン)が作る歌はミュージカルの概念を変えて、すごいものを作っているなと感じました。ただ僕自身、歌はもともと好きでしたが、「歌で表現をする」難しさを感じて。そもそも僕は1曲歌うだけでもすごくエネルギーが要る人間。役の気持ちを表現して歌うというのが本当に難しい。今もミュージカルでは「みんなよく歌えるな、すごいな」と、毎回思っています。
——たしかにミュージカルには、芝居をしながら歌う難しさがありますよね。ではミュージカルのおもしろさとは?
福士 音楽だからこそ伝えられる想いはあると思います。セリフ以上のものを与えられる瞬間もある。たとえば、明るい音楽で作られた歌を聴くだけでお客さんは明るくなるのですが、笑顔で言っているけれど切ないということもある。それをセリフと表現だけでどうコントロールしてそのふり幅を乗り越えるのか。そこがマッチすればするほど想いが届けられます。それが『RENT』の頃はわかりませんでした。ただ、「叫べ!」とか「歌え!」という感じでしたから。
——いろいろお話を伺うと、福士さんの舞台での大きさや存在感は、表現に対する強いこだわりにもある気がします。ちなみにオフで好きな音楽は?
福士 中村天平さんというピアニストがすごく好きです。ジャパニーズTシャツ男としてテレビで見て知ったのですが、音楽にストーリー性を感じますし、いろいろなものが見えてくる。心が躍るんですよ、彼のピアノ。楽曲では「一期一会」などのバラードもいいですし、超絶技巧の曲も好きです。
「一期一会」も収められているアルバム『テンペイズム』
——では最後に改めて、『ワイルド・グレイ』への思いをお願いします。
福士 僕にとっては挑戦でしかない作品です。3人で演じていく。初めて根本さんと作る。あとは歌えるかなという心配。韓国の俳優さんは個のパワーが強いので、小人数の作品が多いですよね。僕は声が低いのですが、とくに最近の韓国ミュージカルは音が高い。そこにオスカー・ワイルドという芸術も加わる。物語についていうと、登場する3人はみんな孤独ですよね。自分が望んでいるものが手に入らない人たち。でもそこが人間らしいともいえるし、そんな人たちの美しさを感じていただけたらと思います。
日時: 2025年1月8日(水)~1月26日(日)
会場: 新国立劇場 小劇場
出演: 福士誠治(ロバート・ロス)×立石俊樹(オスカー・ワイルド)×東島 京(アルフレッド・ダグラス)
平間壮一(ロバート・ロス)×廣瀬友祐(オスカー・ワイルド)×福山康平(アルフレッド・ダグラス)
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