《美しい水車小屋の娘》や《冬の旅》など、数々の美しい歌曲で知られる「歌曲王」フランツ・シューベルト。彼はピアノ・ソナタにも傑作がありますが、この曲のようなロマンティックな小品が多くの人に愛されてきました。
「楽興の時」というのは、「音楽的な瞬間」といった意味です。この曲は《即興曲》や《バガテル》などと並んで、「キャラクタピース」と言われるジャンルの先駆けとなりました。気分や感情の赴くままに、自由な形式で書かれたこれらの音楽は、その詩的で親密なイメージがロマン派の作曲家に愛され、シューマンやブラームスらの多くの作品が残されました。
34曲を収めた《感傷的なワルツ》op.50の第13曲。1825年に出版され、曲名は出版社によるもの。ウィーンで活躍したシューベルトはワルツやエコセーズ、レントラーなど、当時流行の舞曲を数多く作曲しています。
12曲を収めた《高雅なワルツ》op.77の第10曲。1827年にウィーンで出版されました。
歌心にあふれ、美しい歌曲を湧き出るごとく次々と作曲したフランツ・シューベルトは、即興演奏の名手でもありました。この曲の標題「即興曲」は、そもそも出版社の提案ではありましたが、彼のインスピレーションあふれる曲風を的確に言い表し、以後、多くの作曲家がこのジャンルの作品を生む嚆矢(こうし)となりました。
彼の死の前年、1827年に作曲された《4つの即興曲集》op.90の第2曲で、作曲者自身は各4曲をそれぞれ独立した楽曲と考えていたらしく、第1曲と第2曲は1827年に、残りの2曲は30年後の1857年にそれぞれピースとして出版されました。
1827年に作曲された《4つの即興曲集》op.142の第2曲。トリオを挟んだ複合三部形式。
シューベルトは即興曲という題目が気に入ったようで、今度は自ら名付けている。op.142は全4曲でひとつのソナタを成すという見方があるが、シューベルト自身は各曲別々でもよいと述べている。
曲目解説は、『ピアノ名曲150選』『ピアノ名曲120選』(音楽之友社)巻末より。