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2020.12.01
特集「チャレンジ!」

アナログレコードに初めて針を落としてみた! クラシックLPの聖地ディスクユニオンに潜入

音楽大好き! でありながら、アナログ・レコードに針を落としたことがないことに若干のコンプレックスを抱いていた編集部員・川上。このアナログ・ブームに乗らない手はないと、声をかけたのは、音楽をさまざまなコンテンツで楽しみつつ、アナログ愛好家でもある飯田有抄さん。飯田さんの先導で、いざクラシック・アナログ盤の聖地「ディスクユニオン 新宿クラシック館」へ!

チャレンジ案内人
飯田有抄
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飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

チャレンジャー
川上哲朗
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川上哲朗 Webマガジン「ONTOMO」編集部

東京生まれの宇都宮育ち。高校卒業後、渡仏。リュエイル=マルメゾン音楽院にてフルートを学ぶ。帰国後はクラシックだけでは無くジャズなど即興も含めた演奏活動や講師活動を行な...

Photo: 飯田有抄と編集部

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2020年、今また輝くアナログレコード

ONTOMO編集部員の川上氏は、幅広いジャンルの音楽を好む、パリ帰りのフルーティスト。音楽愛に溢れる彼であるが、意外にも「アナログレコードに針を落としたことがないんです」と悲しげに語る。これは、「世代」というやつですね。 川上氏は30代前半。ちょうどアナログ盤と縁のなかった世代と言えるだろう。

そう。アナログレコードといえば、音楽メディアの中心的存在として光り輝いていたのは1980年代まで。その後はご存知のとおり、CDに座を譲り、現代ではストリーミングで音楽を楽しむ時代がきた。しかし、ここ何年かは若い人たちのあいだでレコードの人気が高まっているという。聞くところによると、実はプレーヤーを持っていなかったり、逆にプレーヤーだけを買ってお部屋のインテリアにしている人もいるとそうだ。「モノとしての音楽」への所有欲を満たしてくれるのだろう。

アナログ愛好家、飯田有抄が語るその魅力

筆者は昭和49年生まれ。小学生の頃、お小遣いで初めて買ったクラシックの音源はLPレコード(なぜかベートーヴェンの《田園》)。中学時代がちょうどCDへの移行期だった。もちろん現在ではCDやストリーミングでも音楽を聴くが、15年くらい前から、再びアナログ盤でも音楽を聴いている。

アナログ盤の魅力……それは一言では語り尽くせない。デジタルとはまるで異なる記録方式がどうの、周波数帯域がどうの、みたいな専門っぽいお話は、別の機会に譲るが(筆者がニガテなだけ)、筆者にとっての魅力は、

・倍音を感じさせる深みのある音色
・ジャケットから出して針を落とすまで、一連の儀式のような、丁寧さを求められる作業が必要になること
・簡単に曲をスキップしたりシャッフルできないこと(だからこそアルバムの曲順の重要性が増したりする)
・再生機器(オーディオ装置)に工夫のしがいがあること
・30cm四方のジャケットが伝えるアートワークに、美しさや迫力があること

などがあげられる。ちょっとした不便さが、これまた魅力なのである。音楽作品や演奏家への愛も深まるというものだ。

飯田さんの自宅リビングのオーディオと、ディスクユニオンでジャケ買いしたという、エミール・ギレリスの弾くプロコフィエフのソナタ第2番のレコード。

さて、話を川上氏に戻そう。いくら「世代が違う」といっても、音楽好きの彼なら、アナログの世界が気にならない訳がない。

アナログ・レコードにチャレンジしたい! と思った川上の理由

レコードの音は、お店や取材でもたびたび聴いたことがありましたので、その音色の素晴らしさは認識していました。中古レコードは比較的安価で、貴重な音源を入手できるということも知っていましたが、結局ストリーミングは楽だし、レコードは扱ったことないし……と諦めていました。

しかし! 昨今のアナログブーム(主にポップスですが)で、自分より若い世代がレコードを楽しんでいる姿に触発されました。自分もアナログでクラシックが聴きたい! あのデッカいジャケットを部屋に飾りたい! と思い至りました。

レコードを聴いてみたい? ディスクユニオン 新宿クラシック館に行ってみた!

やってきたのは「ディスクユニオン 新宿クラシック館」。クラシックのLPを買うなら、まずコチラ!とお勧めしたい中古レコード・CDショップだ。

新宿駅東口から徒歩5分。紀伊国屋ビル8階にあるディスクユニオン 新宿クラシック館。
所狭しと、あらゆるジャンルのレコードが並んでいる。交響曲、管弦楽曲、器楽曲、オペラ、作曲家別、楽器別、時代別、いろいろな区分けがなされている。お店の入り口付近には「新着」のコーナーもある。

「毎日のように足を運ばれて、昨日なかったものをチェックするお客さんもいるんですよ」

そう教えてくれたのは、新宿クラシック館チーフの車田宣則さん。ディスクユニオンでは、盤面の状態チェックを行なったあと、まずはこの新着コーナーにずらりと並べ、徐々にジャンル別・時代別などの棚に移行させていくそうだ。

若い人たちのあいだで、レコードが急激な人気を高めているが、クラシックでもその波は感じられるのだろうか?

「クラシックは、そもそも若い人がブーム的に入りやすいジャンルというわけでもありせんから、急に若いお客さんが増えてきた、というのは特にありません。一定数ずっとお客さんは絶えませんね」

遠方から買い物に来る人も多い。LPを売りに来る人も後をたたない。数枚持ち込む人もいれば、何十枚も抱えてくる人もいるそうだ。

さまざまな時代、レーベル、国、状態の商品を扱うが、盤質/コンディションに応じて未開封品から難あり品まで、「S」「A」「B+」「B」「C」のランクづけがなされ、ラベルが付けられている。ラベルにはさらに、年代や、発売国などに関するメモも書かれている場合がある。同じレーベルでも、年代や国が異なると、音質に違いがあるのだ。
Photo: 飯田有抄

500円とか700円とか1000円代で、おおよそのものは買える。筆者もよくこちらのお店を利用するが、持ち帰れるだけの枚数をめいっぱい買っても(レコードはけっこう重いので多くて10枚程度)、なかなか1万円に到達しない。コスパ良し!

「ハイクオリティの音質にこだわったシリーズや、重量盤で状態の良いものは、3000円台くらいです。中にはヴィンテージなど、非常に貴重で高値のついたレコードもあります。2万円、3万円はします。もっとも高額なものでは100万円を超えるものもあります。復刻版などもありますが、マスターテープの音源に近いオリジナルのものになればなるほど、やはり音も良いので、価値が上がるんですよね」

ジョルジュ・エネスコによるバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータのレコードは、状態の良いものはとても価値が高いそう。もしお持ちの方は、大切になさってください。

ドキドキ! 初めてレコードに針を落とす

ところで、ディスクユニオンには試聴できるターンテーブルがお店の片隅に用意されている。お客さんの8~9割の方は、そこで試聴してから買うそうだ。

Photo: 飯田有抄

さて、その試聴機を用いて、いよいよ川上氏が生まれて初めて「針を落とす」体験をさせていただけることになった! 選んだのは、CD化されていないC.P.E.バッハ作曲フルート四重奏のLP。

では、一連の操作方法を車田さんに教えてもらいましょう。

友人の家などでも、ちょっと怖くて結局針は落としてもらっていました。実際に体験してみると、針を落とす前の緊張感は、ストリーミングはもちろん、CDでも味わえないもの。音に関しては、じっくり聴いたわけではありませんが、やはりデジタルにはない「ミッチリ感」。バロック・フルートの木の感触が伝わってくるようでした。

そして、何よりも感動したのは、1曲めが始まる前、溝に針を行く前の無音状態! まるでコンサートが始まる前、客席が静まって、指揮者が棒を振り下ろす前のあの一瞬を体感するかのよう。

曲飛ばしをするには溝を探して、そこに針を落とすのだそう。そうなると、簡単には曲を飛ばさない。そこも生演奏体験に近いかもしれません。

ンンンー これは癖になりそう。

音質、コンテンツ、ジャケット......レコードの楽しみは無限大

好んでレコードでの音楽鑑賞をする人の多くは、オーディオ・ファンであることも多い。

「もちろん再生機器や音質にこだわることも大切ですが、やはり音楽そのもの内容やコンテンツ自体からも、レコードの楽しさや奥深さを知っていただきたいです。

過去のレコードでもCDに復刻されているのは一部なのです。レコードでしか残されていない貴重な演奏や作品が山ほどあります。たとえば、20世紀の『現代音楽』などがそうで、元共産圏の作曲家たちがレコードに残した作品がたくさんあるのに、それらはほとんどCDになっていません。貴重なレコードが100枚ほどが入荷したときには、現代音楽専門の評論家の先生がいらして、目を輝かせて買っていかれましたよ。

さきほど選ばれたC.P.E.バッハの音源なども、レコードでこそ聴けるもの。そうした知識があれば、ますますレコード選びは楽しいものとなります」

ご自身もCDでは珍しい音源を見つけたところから、レコードに魅了されていったという車田さん。お店で声をかけたら、いろいろ教えていただけるかも?
昨今では新譜もリリースされているクラシックのレコード事情だが、まだまだ中古市場にこそ、レコードでしか残されていない音源、歴史的名演、知られざる珍曲など、掘り起こし甲斐のあるものが発見できそうだ。
ジャケットの美しさから、直感的に買ってしまうのもまた楽しい。いわゆる「ジャケ買い」も、大きなレコードジャケットならではの味わいがある。
Photo: 飯田有抄

半日くらいは軽く過ごせてしまいそうなディスクユニオン。今日はどんな掘り出し物に出会えるだろうか。

この日、飯田さんがリアルにお買い上げしたレコードたち。Disk Unionドロップも♪
Photo: 飯田有抄
左はCD化されておらず、存在さえ知らなかった音源。ドイツのフラウト・トラヴェルソ奏者コンラット・ヒュンテラーによるC.P.E.バッハの四重奏曲集。右は、フランス で将来を嘱望されながら、アルプスで悲劇の死を遂げた伝説のフルート奏者、加藤恕彦さんのリサイタル・アルバム。こちらはCD化されており、聴いたことはあったものの、フルート吹きの自分にとってはアイドルである加藤さんが大きく写ったジャケットに迷わずチョイス!(自宅にプレーヤーをもっていないのに、自腹で購入した川上)

さて、レコードを買いたいけれど、再生機器はどうしたら?

基本は、プレーヤー、フォノイコライザーというアンプ、プリメインアンプ、スピーカー、という4点があれば聴くことができます。

昨今ではフォノイコライザー内蔵だったり、ヘッドフォン端子、Bluetooth対応のプレイヤーもあるので、それらはアンプやスピーカーがなくても、ヘッドフォンがあれば、コンパクトなスタイルで楽しむこともできます。

アナログレコードを楽しむためのオーディオ機器については、またの機会にお伝えいたしましょう♪

車田さんが手に持っているのは、お気に入りの一枚『フリッツ・ライナー指揮/シカゴ交響楽団 THE REINER SOUND 米RCA LSC-2183 ラヴェル:スペイン狂詩曲/亡き王女のためのパヴァーヌ、ラフマニノフ:交響詩「死の島」』ライナー&シカゴ響の黄金時代を堪能できる、RCAの初期ステレオ名録音盤とのこと。お二人とも、ご協力ありがとうございました!
店舗情報
ディスクユニオン 新宿クラシック館

住所: 〒160-0022 東京都新宿区新宿3-17-7 紀伊國屋ビル8F

 

営業時間: 11:00~21:00(日祝11:00~20:00)
※2020年12月現在、新型コロナ感染拡大防止の観点から12:00~20:00の時短営業

 

電話番号: 03-5367-9531
クラシック買取センター: 0120-159-578(※携帯電話からは03-5367-9531

 

メールアドレス:
店舗問い合わせ用: ds12_classic@diskunion.co.jp
買取専用: ds_cl_buy@diskunion.co.jp

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飯田有抄
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1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

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