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2024.05.21
音楽評論家・増田良介が作品解説+名盤を最新情報も含めて紹介

ブラームスの交響曲を名盤で聴こう! 音楽評論家が選ぶBEST 3と楽曲解説

ブラームスの交響曲を名演で聴いてもらうべく、ONTOMO MOOK 「レコード芸術」編『新時代の名曲名盤 “いま”を反映する必聴ディスクはこれだ!』(音楽之友社刊、2023年)で1〜3位に選ばれた名盤を紹介します。さらに、それぞれの交響曲と選ばれた名盤についての解説を、音楽評論家の増田良介さんが書き下ろし。どれを聴いたらいい? 音源がたくさんありすぎて選べない! という方は必読です。

解説
増田良介
解説
増田良介 音楽評論家

ショスタコーヴィチをはじめとするロシア・ソ連音楽、マーラーなどの後期ロマン派音楽を中心に、『レコード芸術』『CDジャーナル』『音楽現代』誌、京都市交響楽団などの演奏会...

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音楽評論家による投票で選ばれた名盤ベスト3

クラシック音楽の「三大B」の一人、ヨハネス・ブラームスは、1833年にドイツのハンブルクで生まれ、作曲家、ピアニスト、指揮者として活躍し、1897年にこの世を去るまで、数々の名曲を残しました。ブラームスが生涯で作曲した交響曲は、全部で4曲。第1番から第4番まで、それぞれの名盤をランキング形式で紹介します! 

今回は、投票にも参加した音楽評論家の増田良介さんによる講評と各曲の解説も掲載。ランキング以降に出た推し録音についても言及しているので、どれを聴けばよいのか迷っている人は、参考にしてみてください。

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ブラームスの交響曲 名盤1〜3位

ブラームス:交響曲第1番

構想21年、ブラームスが満を持して発表した交響曲第1番は、ベートーヴェンの《運命》や「第九」を手本とした、「苦悩から歓喜へ」という明快な筋立てのある交響曲だった。感動的な大傑作だけに名演も多い。その「暗→明」というストーリーをもっともわかりやすく打ち出した名演が、「名曲名盤」で長年にわたって1位の座を守ってきた、ミュンシュ指揮パリ管の演奏だった。

ところが、今回は選者全員が「ミュンシュはきっと誰かが選ぶだろう」と思ってしまったのか、なんと0票に終わった。とはいえ、この熱い演奏、録音はさすがに古くなったが、今聴いても絶対に引き込まれ、興奮させられることは間違いない。

ミュンシュ指揮/パリ管弦楽団

さて、今回1位になったのはHIP(歴史研究を踏まえた演奏)のレジェンド、ガーディナーの演奏だ。この路線によるブラームスはまだ多くないが、このランキング以後に出た、ローレルとル・セルクル・ド・ラルモニーの颯爽たる演奏もいい。久石譲指揮フューチャー・オーケストラは、HIPも含め、現代のいろいろな傾向を踏まえた鮮烈な演奏だ。

2位に入ったカラヤンは、言うまでもなく20世紀後半の堂々たるスタンダードだ。3位以下は票が極度に分散したが、いずれ劣らぬ個性的な名盤が並ぶ。それぞれの票に込めた選者の思いを読み取っていただければ幸いだ。(増田良介)

第1位 ガーディナー指揮/レヴォリュショネール・エ・ロマンティーク

第2位 カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

第3位 ヴァント指揮/北ドイツ放送交響楽団

第3位 オールソップ指揮/ロンドン交響楽団

第3位 コンドラシン指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

第3位 バーンスタイン指揮/ウィーン・フィルハーモニー交響楽団

第3位 パーヴォ・ヤルヴィ指揮/ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団

最新推し盤 ローレル指揮/ル・セルクル・ド・ラルモニー

ブラームス:交響曲第2番

第2番は、第1番とはいろいろな意味で対照的な作品だ。4か月ぐらいで書き上げられているし、「苦悩から歓喜へ」のようなドラマティックなストーリーはなく、どちらかといえば終始幸福感が続く。ブラームスの「田園」と言われることもあるが、考えてみればベートーヴェンの「田園」だと嵐が来る。ブラームスの2番にはそれさえなくて、最初から最後まで、美しく織りなされる旋律の綾を楽しめるのだ。

今回、1位となったのは、なんとブラームス本人に会って、本人の前でヴィオラ奏者として演奏したこともあるという往年の巨匠、ピエール・モントゥーの演奏だ。1875年生まれという大昔の人だが、長生きしてくれたおかげで(これは87歳のときの録音)、滔々と流れる名演が、良好なステレオ録音で聴けるのはありがたい。

2位は、個性派指揮者ストコフスキー最晩年の風格ある演奏と、英国の俊英ティチアーティのさわやかな演奏が入った。ストコフスキーの名前は意外に思われるかもしれないが、実は世界ではじめてブラームスの交響曲を4曲とも録音したのは彼なのだ。

このランキング以降に出た演奏では、ブロムシュテット指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管をおすすめしたい。この録音時、ブロムシュテットは、モントゥーさえ越える92歳だった。どこまでも明晰でありながら、自然な流れが心地よい演奏だ。(増田良介)

第1位 モントゥー指揮/ロンドン交響楽団

第2位 ストコフスキー指揮/ナショナル・フィルハーモニック管弦楽団

第2位 ティチアーティ指揮/スコットランド室内管弦楽団

最新推し盤 ブロムシュテット指揮/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

ブラームス:交響曲第3番

第3番は、明るさと陰影の交錯する、ちょっと一筋縄では行かない性格の交響曲だ。フランソワーズ・サガンの小説『ブラームスはお好き』を映画化した『さよならをもう一度』(1961)で使われたことでも有名な第3楽章の切ない美しさは格別だが、陰影に富んだ第1楽章、あたたかく穏やかな第2楽章、そして激しいドラマのあと、なんともいえない余韻を残して消えていく第4楽章と、全曲を通じてブラームスならではの魅力がたっぷりだ。

複雑な性格の交響曲だけに、昔から決定的名盤はない。今回のランキングでも、票が分散したため、それぞれの点数は低いものの、意外に端正なアーノンクールすっきりとしたベルグルンド切迫感のあるダウスゴーとHIP系が上位を占める一方、豪快なヨッフムや超激烈なアーベントロートも上位に入った。

新しい演奏では、第2番と同様、ブロムシュテットも良いのだが、尾高忠明と大阪フィルの全集からの録音を推したい。今や日本を代表する巨匠となった尾高の円熟した指揮と、重厚な響きをもつ大阪フィルの名コンビが、繊細で深みのある3番を聴かせてくれる。(増田良介)

第1位 アーノンクール指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

第1位 ベルグルンド指揮/ヨーロッパ室内管弦楽団

第3位 ダウスゴー指揮/スウェーデン室内管弦楽団

最新推し盤 尾高忠明指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団

ブラームス:交響曲第4番

交響曲第4番でブラームスは、終楽章にシャコンヌ(変奏曲の一種)の形式を用いるなど、バロック音楽の手法を取り入れている。なるほど保守回帰の古典美を目指した作品かと思ったら大間違い、4つの楽章の構成は型破りだし、当時の交響曲には珍しいトライアングルを使ったり、終楽章が短調で終わったりと、大胆で先進的な試みがいくつも盛り込まれている。演奏のしかたにもよるが、内容も、古典的というよりも相当にロマンティックだ。

さて、この曲で長らく1位の座を守り続けていたカルロス・クライバーの颯爽たる演奏は、今回、2位に退いた。1位となったのは、速いテンポを取りながら濃密に歌うシャイーの演奏だった。なお、シャイーの全集では、ブラームスが削除してしまったこの曲の幻の序奏も聴ける。そして、クライバーと同点だったティチアーティのシャープな演奏、ワルターのやわらかな演奏、どちらもそれぞれに魅力がある。

新しい演奏では、2番や3番の項で触れたブロムシュテット尾高忠明もいいし、ミヒャエル・ザンデルリングとルツェルン響による全集中の演奏も、父クルト・ザンデルリングを彷彿とさせる深々とした歌いぶりがすばらしかった。(増田良介)

第1位 シャイー指揮/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

第2位 C.クライバー指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

第2位 ティチアーティ指揮/スコットランド室内管弦楽団

第2位 ワルター指揮/コロンビア交響楽団

最新推し盤 ミヒャエル・ザンデルリング指揮/ルツェルン交響楽団

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ランキングの出典は、ONTOMO MOOK 「レコード芸術」編『新時代の名曲名盤 “いま”を反映する必聴ディスクはこれだ!』
(音楽之友社刊、2023年)
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増田良介
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増田良介 音楽評論家

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