クラシック専門ライターの音楽界トレンド・ウォッチ~世界が熱狂する新鋭指揮者マケラ
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指揮者界の大谷翔平!? 世界が熱狂する26歳の新鋭クラウス・マケラ
新しい傑出した才能との出会いは常に特別な体験で、人生の1ページに刻まれる。世界が注目するアーティストの場合はなおさら。この6月に東京都交響楽団(都響)の公演のため再来日をはたしたヘルシンキ出身の指揮者クラウス・マケラもそうだった。
1996年生まれの26歳。すでに10代から欧州のオーケストラに客演として登場したことや、オスロ・フィルハーモニー管弦楽団やパリ管弦楽団のシェフとしての活躍、さらに来年はベルリン・フィルにもデビューするなどの活躍ぶりは認識していたが、ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団の次期首席指揮者就任が決定というニュースが世界を駆けめぐってからというもの、この青年から目をはなせなくなった。
今回の都響の2回の公演も短期間でソールドアウト。著名コンクールに優勝した新人ピアニストやヴァイオリニストならよくある話だけれど、外来“新鋭指揮者”としては異例のこと。
6月26日、サントリーホールでの都響プロムナード・コンサートへ足を運んだ。満員の会場の中、颯爽とステージに現れたマケラ。長身かつヘアスタイルもカッコよくすでにスター指揮者として輝いている。YouTubeで視る容姿よりはるかにあか抜けしている。
同郷の作曲家ジノヴィエフの作品の後、休憩を置かずにショスタコーヴィチの「交響曲第7番ハ長調《レニングラード》」を。もうこれが凄かった。
絶え間なく細かい指示をオーケストラに出すものの、音楽は形が整っていて美しい。澄み切った弦、決して無理なフォルテを強要されない金管。新規な解釈の押し付けはないようだった。
厳かに始まった高潔な音楽が、徐々に重みとエネルギーを堆積し、やがて壮大な(そして恐るべき)クライマックスを築くあたり、とくに第3楽章から終楽章は“巨匠の音楽”と言ってよいかと。圧倒的だった。ショスタコーヴィチの芸術がホールを満たした。客席はもう興奮のるつぼ。
マケラの都響でのリハーサル風景とメッセージが都響のYouTubeチャンネルで公開されている(2018年来日時)
都響芸術主幹の国塩哲紀氏によれば「クラウス・マケラの非凡な才能を改めて実感した再共演。リハーサルも合理的。楽員もストレスなく演奏に集中できてオーケストラとして最大の性能を発揮した」。人柄についても「気さくで、カリスマ性とは少し違う、周囲を幸せな気分にさせる不思議な魅力がある。野球でいえば大谷翔平選手のような存在かと」。なるほど、納得。
しかし、こうしたマケラの出現も突然変異的なわけでもなく、過去の偉大な巨匠たちが耕してきた肥沃な土壌があったからこそ。伝統が新しい才能を生み出すのだと思う。この10月はやくもパリ管と来日しドビュッシーやストラヴィンスキーで光彩陸離たる演奏を聴かせてくれるはず(先行チケット争奪戦が始まっているとか)。さらに来年はオスロ・フィルとの来日も決定。
マケラ・フィーバー、当分続きそうだ。
シン・ウルトラマンとクラシック音楽の意外な関係
話題の映画『シン・ウルトラマン』。公開になって約2ヵ月。筆者は、企画&脚本の庵野秀明さん(1960年~)と監督の樋口真嗣さん(1965年~)お二人とほぼ同世代。彼らがあの人気特撮番組『ウルトラマン』をどのように再構成するのか、また音楽をどのように使うのかに強い関心があった。
『シン・ウルトラマン』のトレーラー
というのも、庵野さんは『シン・エヴァンゲリオン劇場版』でバッハのカンタータ《心と口と行いと生活で》や、モーツァルト《アヴェ・ヴェルム・コルプス》などを採用するなど、劇中音楽へのそうとうなこだわりを感じていたから。
『シン・ウルトラマン』ではクラシック音楽こそ使われなかったが、原作のテレビ番組『ウルトラマン』へのリスペクトなのか、オリジナルの音楽(宮内國郎さん)をもとに鷲津詩郎さんがシンフォニックにアレンジして使っていた。
すでにYouTubeで、各場面でどんな音楽が付いているのか明かされていたりもするが、これはやはり大スクリーン&大音量で聴くと、かなり迫力がある。とくに“天体制圧用最終兵器「ゼットン」”の登場シーンでの音楽などはニ短調とハ短調で書かれ、それもバロックの声楽作品さながら。
減7度音程の駆使、グレゴリオ聖歌の「ディエス・イレ」風だったりと、クラシック・ファンの心をくすぐるのは確か。アメリカのSF映画とは違う「日本の」(もしくは昭和の?)独自のテイストが徹底的に打ち出されている。これも庵野さんの狙いなのだろう。
ミュージカルになったフランツ・リスト
宝塚歌劇とクラシック音楽の世界。これは意外に親和性が高いそうで、両方を趣味のテリトリーとしている人は少なくない。特にオペラ愛好者には宝塚を好む人がいる(少ないが男性も)。
これまでにも宝塚歌劇は『翼ある人びと―ブラームスとクララ・シューマンー』(2014)で青年ブラームス、ロベルト・シューマン、クララ・シューマンにスポットを当てて、三人の愛のもつれを描き成功を収めた。
今回の出し物は花組公演『巡礼の年~リスト・フェレンツ、魂の彷徨~』。文学作品調のタイトル、「魂の彷徨」という言葉に気概を感じる。主人公はロマン派に活躍したピアノの魔術師フランツ・リスト。ハンガリー人としてのアイデンティティを持ちながらも、パリの社交界でもてはやされていくうちに、祖国の“魂”を失っていくことに苦悩し、安住の場を探し求め彷徨うという展開。
当然のこととして恋人マリー・ダグー伯爵夫人、フレデリック・ショパン、それにジョルジュ・サンドらもドラマに絡むのだが、面白いのは、かのマリア・カラスが蘇演したことで知られ、来年日生劇場で日本初演される《メデア》の作曲者ルイジ・ケルビーニの名前があること。これは画期的ではないだろうか?
それはともかく、ピアノの超絶技巧と端麗な容姿ゆえ失神する女性も出たという逸話も残るほどの大スターが抱えていた苦悶。そこに焦点をおくストーリーも斬新だし、リストのオリジナル曲も使用されるなど音楽もバラエティ豊か。現代の女性たちにフランツ・リストへの大きな関心(愛?)が芽生えたに違いない。
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