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2023.03.11
毎月第2土曜日更新「クラシック専門ライターの音楽界トレンド・ウォッチ」

ジョン・ウィリアムズの「映画音楽」は聴衆に求められる「コンサート音楽」へ

アカデミー賞有力候補として話題の『フェイブルマンズ』。スピルバーグ作品を長年彩ってきた大作曲家ジョン・ウィリアムズも、もちろんクレジットされています。
実はここ数年、J.ウィリアムズが次々と名オーケストラの指揮台に登り、自作を演奏。それだけではなく、世界のオーケストラが彼の作品を取り上げています。
9月には来日、2023セイジ・オザワ松本フェスティバルに登場予定の、「今、聴衆がもっとも求める作曲家」ジョン・ウィリアムズを、城間勉さんが解説します。

城間 勉
城間 勉

1958年東京生まれ。子どものころからピアノを習ってはいたが、本当にクラシック音楽に目覚めたのは中学生時代にモーツァルトの魅力に触れてから。バレンボイム&イギリス室内...

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3月13日にはアカデミー賞の発表。スピルバーグ監督作品『フェイブルマンズ』(現在上映中)はさまざまな部門でノミネートされていて、当然、音楽部門でもジョン・ウィリアムズの名前が入っている。

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ジョン・ウィリアムズ(以下、J.ウィリアムズ)は2020年、ウィーン・フィルハーモニーの1月公演に指揮者としてデビューして以来、いまや世界中から熱い視線を浴びている映画音楽の巨匠。今年は指揮者として来日が予定されている。今回はこの話題のマエストロにフォーカスしてみたい。

2大名門オーケストラで自作を指揮! 世界に広がるJ.ウィリアムズ・フィーヴァー

すでに多くの人が知るところだが、ハリウッド映画音楽の作曲家がクラシック音楽の象徴ともいえるウィーン・フィルを指揮した『スター・ウォーズ』や『未知との遭遇』などのプログラムは新鮮なもので、ウィーン楽友協会の聴衆に、ふだんのコンサートとはまた違った興奮をもたらした。

オーケストラのメンバー(とくに金管セクション)たちも、愉しみながらというより、熱中して演奏しているようで、フル編成によるブリリアントなサウンドを惜しげもなく放った。こうしたコンサートもあっていいんじゃないか、そんなノリの良さ。

この模様はドイツ・グラモフォンによりライヴ収録され、CDとBlu-rayビデオのかたちで世界中にリリースされ、動画配信も行なわれるなど音楽界を賑わせた。ジャンルの枠にとらわれない新たなエンターテイメント、『スター・ウォーズ』とウィーン・フィルのマリアージュは見事に成功をおさめ、このプロジェクトはさらに進んでいく。

ウィーンの次はベルリン。J.ウィリアムズは2021年、これまた世界最高峰の楽団であるベルリン・フィルハーモニーを指揮するという快挙を成し遂げた。

金管の咆哮と力感みなぎる弦楽器の厚いハーモニー。そして柔らかで、ハートフル、ときにファンタジックなこの作曲家独特の音楽を、超一流のプレイヤーたちのアンサンブルで聴くという贅沢をベルリンのリスナーたちも味わうことができた。

これもドイツ・グラモフォンによりライヴ収録され、CDがワールドワイドでリリース。“ジョン・ウィリアムズ・フィーバー”に油を注いだかたちとなった。

ベルリン・フィルの音楽監督だったヘルベルト・フォン・カラヤンも天国でびっくり仰天したことだろう。かつて、ライバル指揮者で、作曲家でもあったレナード・バーンスタインがヨーロッパに乗り込んできたとき、さすがに自作『ウエスト・サイド・ストーリー』の音楽を演奏しなかったから(映画音楽でも活躍したアンドレ・プレヴィンもウィーン・フィルと共演しているが自作だけのコンサートはやっていない)。

国内外で、クラシックのプロオーケストラが映画音楽を演奏する機会が増えてきてはいたけれど、J.ウィリアムズの自作自演はこうしたコンサートが世界的にニーズがあることを証明してみせた。これがトリガーとなって、リアルなオーケストラの魅力に触れクラシック音楽に目覚める人も出てくるだろうから歓迎すべきだろう。

ちなみに、2016年にレナード・スラットキン率いるフランス国立リヨン管弦楽団が来日した際に、スラットキン自ら選曲してのJ.ウィリアムズ映画音楽集のコンサートが実現し、ファンを喜ばせた(外来オケによる同プロはこの演奏会のみ)。

映画を彩る名曲の数々......指揮者としも古くから活躍

ここで、J.ウィリムズのバイオグラフィをざっとご紹介しよう。

1932年8月ニューヨーク生まれ。ロサンゼルスに移住後、UC LAでマリオ・カステルヌオーヴォ=テデスコに作曲を師事。その後ジュリーアード音楽院でピアノも学び、最初はジャズ・ピアニストとしてキャリアをスタート。ヘンリー・マンシーニの音楽のアレンジや演奏で注目を浴びる。

映画音楽作曲家としてのデビューは『Daddy-O』(1958)。続いて『ポセイドン・アドベンチャー』(1972)、『タワーリング・インフェルノ』(1974)などがあるが、大きな名声を得たのはスティーヴン・スピルバーグ監督『ジョーズ』(1975)と、ジョージ・ルーカス監督『スター・ウォーズ』(1977)の2作。

現代アメリカを代表する両巨頭とのコラボが彼の名声を世界的なものとし、以後『スーパーマン』(1978)、『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001)などでグラミー賞など多くの賞を受賞している。

指揮者としては1978年にロサンゼルス・フィルと共演、1980年には当時ボストン交響楽団の音楽監督だった小澤征爾のオファーにより、ボストン・ポップス(ボストン交響楽団と同団体。夏季にこの名称でライトな音楽や映画音楽を演奏する)音楽監督に就任。

1987年にはボストン・ポップスと初来日。1990年、1993年にも来日公演を行ない、サントリーホールで満場の客席を沸かせた。1993年に同オケを勇退して現在は桂冠指揮者、またタングルウッド音楽祭アーティスト・イン・レジデンスを務めている。

2023年、サイトウ・キネン・オーケストラとの共演が実現‼

さて、すでに発表されている通り、大巨匠となったJ.ウイリアムズがこの夏、「2023セイジ・オザワ松本フェスティバル」に指揮者としてやってくる。9月2日には自作による公演が決定。もちろんこのオーケストラにとって「オール・ジョン・ウィリアムズ」プログラムは初めてのこと。クラシック音楽界を超えて大きな話題となること必至。

小澤征爾とJ.ウィリアムズのボストン時代以来、50年にわたる交友を考えれば、このシチュエーションは当然のなりゆきといえるのかもしれない。当日はステージの上で2人が並ぶシーンが見られるだろう。

曲目については、現時点で『スター・ウォーズ』『E.T』『ハリー・ポッター』の音楽のみ決定していて、ほかは後日発表される。ウィーン・フィル、ベルリン・フィルでの公演とほぼ同内容となると思われるが、ひょっとして前述『フェイブルマンズ』の音楽も登場するかもしれない。そうなったら面白いが。

「音楽の最大のすばらしさは、文化や言語を超えて人々を惹きつけること」と語るマエストロの、意欲溢れる活躍ぶりにこれからも目が離せない。

イベント情報
2023セイジ・オザワ 松本フェスティバル

会期: 2023年8月19日(土)~9月6日(水)

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1958年東京生まれ。子どものころからピアノを習ってはいたが、本当にクラシック音楽に目覚めたのは中学生時代にモーツァルトの魅力に触れてから。バレンボイム&イギリス室内...

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