“ちょっぴり怖い”あの人たちが愛したクラシック

クラシック音楽に魅せられた映画の中の奇人たち

読みもの
2018.08.30

夏といえばホラー映画。で・す・が! 今年の夏は、台風たくさん襲来などの異常気象のせいか、新作ホラー映画がないという異常事態(なぜか超絶傑作なホラー映画の新作は、9月に集中しております)。ということで、残暑厳しい中、ちょいと見方を変えた“ある意味ホラー”な映画を紹介します。

よしひろまさみち 映画ライター・編集者
よしひろまさみち
よしひろまさみち 映画ライター・編集者
音楽誌、女性誌、情報誌などの編集部を経てフリーに。『sweet』『otona MUSE』で編集・執筆のほか、『SPA!』『oz magazine』など連載多数。日本テ...

ハンニバル・レクター(『羊たちの沈黙』ほか)

まずは、ホラーといえばの名キャラクター、ハンニバル・レクター博士。

名作『羊たちの沈黙』(1990)で、その片鱗をみせているんだけど、レクター博士ってインテリ医師であるとともにクラシックおたくなんですね。チェンバロ演奏が趣味(というかプロ級)で、原作では左の指は中指が2本あったという設定(なので、難曲でも軽く弾けちゃう)。

それがわかる最初のシーンが、刑務所内で一番厳重に囚われているときに、情報の見返りに「バッハの《ゴルトベルク変奏曲BWV988》を差し入れろ」と欲しがるシーン。

ゴルトベルクってアレですよ、サラバンドのアリアを30変奏して元のアリアに何ごともなかったかのように戻る、超絶技巧が必要なアレ。それも、グレン・グールドの81年版という指定(じつは劇中流れるバージョンは、それとも違って、ジェリー・ツィマーマンが演奏している)。これね、じつは原作からしてそういう設定でして。グールドの名盤2バージョン(55年版、81年版)のうちからの指定になります。

ちなみに、カセットテープで差し入れられたこの曲を聴きながら、レクター博士は檻から脱出&看守を惨殺。イエイ、脱出! ってタイミングでこの曲って、マジ頭おかしい。

ちなみにこの曲は、続編の『ハンニバル』では冒頭から流れますので、そちらもぜひチェックを。

アレックス(『時計じかけのオレンジ』)

さてもう一人。これまた名作『時計仕掛けのオレンジ』(1972)のアレックス。

そもそもこの映画の監督、スタンリー・キューブリックは、あの基本的にサントラがほとんどない『2001年宇宙の旅』でも、超印象的に《ツァラトゥストラはかく語りき》や《美しく青きドナウ》を使っているんですが、これは現時点での映画音楽におけるクラシック音楽使いの最高峰とすら言われております。

で、『時計じかけのオレンジ』ですが、これがもー、クラシック音楽のオンパレード。ロッシーニの「『泥棒かささぎ』から序曲」と「『ウィリアム・テル』より序曲~スイス軍隊の行進」、エルガーの「行進曲『威風堂々』第1&4番」などなど。

その使われ方が、ロッシーニやエルガーが存命だったとしたら「オイコラ!」って怒りそうなシーンで、たとえば「泥棒かささぎ」はアレックスらがホームレスをボッコボコにぶちのめすシーン、とか。これは、アレックスがクラシック音楽が大好きで、大好きが高じて、好きな曲を聴くと気分が昂ぶって暴力に走るというパブロフの犬状態なことからの選曲。

とはいえ、これらを聴いて暴力に結びつくっていう考えがミスマッチで、公開当時は「理解不能」という人も続出しました(が、今となってはそのミスマッチがクセになるという中毒者多数)。

ちなみにもっとも強烈なシーンは、逮捕されたアレックスが矯正という名の下にルドヴィコ療法を受けるところ。なんとこのときに流れるのは、どんな人でも聴けば知ってるベートーヴェンの「交響曲第9番ニ短調」。そう、第九ですよ、第九! 年末恒例のアレ! いいっすねー、いい感じに狂ってますよ~!

デヴィッド(『エイリアン:コヴェナント』)

最後に『エイリアン:コヴェナント』(2017)。ご存じ『エイリアン』シリーズの最新作で、第1作を監督したリドリー・スコットが満を持してリブートしたシリーズの2作目。リドさま、じつは『エイリアン2』から全然関わってなくて、というか、当時のリドさま、続編製作について聞かされていなくて、ぶんぶくれだったわけですよ。積年のうらみはらおくべきかー!(魔太郎風) ということで、『プロメテウス』、そして本作を作ったわけです。

だからか、詰め込んでいる情報量がおかしい。というか、1回じゃわからない。しかも説明ゼロ。アル意味、この映画の奇人は監督のリドさま、といってもいいくらいなんです。

が、そんなリドさまを投影してるんじゃない? っていうキャラが、ウォルターというアンドロイド。『プロメテウス』でデヴィッドっていうアンドロイドが出てくるんですが(最後、首ちょんぱ)、それとうり二つ(演じているのはマイケル・ファスベンダー)。デヴィッドも超賢い子だったんだけど、ウォルターが生まれたのは彼が作られた15年後の新型という設定なので、さらに賢い。

というか、二人とも、もう「人間なんてららーらーららら~」っていうくらいに賢い。それを証明するのが、冒頭とオーラスで使われる楽曲なんですわ。曲はワーグナーの超大作、楽劇 『ニーベルングの指輪』から序夜《ラインの黄金》の終曲《ヴァルハラ城への神々の入城》! あの名曲でございます。ウォルターはその曲をAIに指定してかけさせるんだけど、その理由は「ただ好きだから」ってことだけ。これだけだと、ただのインテリアンドロイド。

でもね、じつはこれには深~い意味がありまして。それは「人間なんて滅んじまえ」ってメッセージだったりするの! これを詳しく説明すると、映画のネタバレになるので自粛します。読み解くには、『ニーベルングの指輪』(それに付随して巨人伝説の北欧神話も)と『エイリアン』『プロメテウス』『エイリアン:コヴェナント』を知っておかないとダメという、仕掛けの入り込みよう! こっちがおかしくなりそうだわ……。

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