プレイリスト
2021.07.08
7月の特集「避暑」

名曲4作品でバーチャル肝試し~耳で感じるお化け屋敷で涼もう!

死神、闇の神、お化け……背筋が凍るようなクラシック音楽で、肝試しに出かけませんか?おうちにいながら避暑を楽しむこともできるんです。サン=サーンスやベートーヴェンの名曲でご案内します!

肝試しの案内人
飯尾洋一
肝試しの案内人
飯尾洋一 音楽ライター・編集者

音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...

メインビジュアル:西洋の名曲で肝試しなので、こんな洋館のイメージでいきましょう。

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コロナ禍でも存分に楽しめるお化け屋敷がここに!

日本の夏の風物詩といえば、お化け屋敷。遠方の避暑地に出かけるまでもなく、お手軽な納涼体験を楽しめるのがいいところである。とはいえ、コンサートホールでも「ブラボーはお控えください」などと言われるコロナ禍の昨今、お化け屋敷で絶叫しようものなら飛沫が飛び散って迷惑このうえない。われわれはお化けを怖がりたいのであって、疫病に恐怖したいわけではない。

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そこで、今年の夏は名曲によるバーチャル肝試しとして、自宅で部屋を真っ暗にして、耳で感じるお化け屋敷を体験してみてはどうか。これはどう考えてもお化け屋敷に使うしかないというぴったりの名曲がいくつもある。洋の東西を問わず、お化けは人気のテーマなのだ。

バーチャル肝試しプレイリスト

1. サン=サーンス:交響詩《死の舞踏》

まず、1曲目はド定番、サン=サーンスの交響詩《死の舞踏》から。主役となる化け物はガイコツだ。曲はとても描写的に書かれている。まずは、ハープが12回鳴らされて、夜の12時を告げる。死神がヴァイオリンを弾くと、ガイコツが踊り出す。シロフォンがカチカチと骨のかち合う音を表現する。不気味ではあるが、ユーモラスでもある。ホラー映画がしばしば笑いの要素を取り入れるのと同じセンスが感じられる。

ミヒャエル・ヴォルゲムート《死の舞踏》(1493年)
死の舞踏は、14~15世紀にペストの流行を背景にヨーロッパで広まった寓話で、擬人化した死が美術や彫刻作品としても残っている。

2. ムソルグスキー:交響詩《はげ山の一夜》

ムソルグスキーの交響詩《はげ山の一夜》も、お化け屋敷にふさわしい名曲だ。夜中に化け物たちが大騒ぎをして、夜が明けると去ってゆく、といった大まかなストーリーは、サン=サーンスの《死の舞踏》とよく似ている。

題材となっているのは、ロシアの聖ヨハネ祭。闇の神チェルノボグとともに幽霊や魔物があらわれて、大騒ぎをくりひろげる。曲の冒頭から「お化けが出てくる」感満載で、テーマパークのアトラクションを楽しんでいるようなスピード感とスリルがある。

左が陽の神べロボグ、右が闇の神チェルノボグ。
(マキシム・スクハーレフ、2010年)

ちなみにこの曲には一般的なリムスキー=コルサコフ編曲版と、近年注目度を増す原典版がある。お化け屋敷視点でいえば、大手エンタテインメント企業が提供する質の高いサービスがリムスキー=コルサコフ編曲版で、地域色豊かで何が飛び出すかわからない楽しさがあるのが原典版だ。好みで選びたい。

ムソルグスキー:交響詩《はげ山の一夜》リムスキー=コルサコフ編曲版

3~5. ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第5番《幽霊》

そのものずばり、「幽霊」の題で親しまれているのは、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲第5番《幽霊》だ。みんな大好き、ベートーヴェン。これぞ幽霊音楽の金字塔と讃えたいところであるが、ひとつ困ったことがある。この曲がなぜ「幽霊」なのかという、肝心なところがはっきりしない。

第1楽章と第3楽章は元気いっぱいの明るい音楽なので、おそらく第2楽章が幽霊なのだろう。古くから伝えられるところによれば、ベートーヴェンはシェイクスピアの『マクベス』をオペラ化しようと考えており、その構想の一端がこの曲に反映されているというのだが、根拠となる資料はない。

ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第5番《幽霊》より第2楽章

どうせ根拠のない話なのなら、もっと幽霊らしい逸話があったほうがいいのに……と思わなくもない。たとえば、真夜中にベートーヴェンがトイレに行きたくなって目が覚めたら、だれもいないはずの音楽室からピアノがポロン、ポロンと音が鳴り始めて、そのときに鳴っていた主題が第2楽章に使われているのです! くらいのウソをベートーヴェンの伝記を執筆した秘書シンドラーあたりに言ってほしかった。

6~9. プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ第1番

その点、オーセンティックなお化け屋敷名曲として心強いのは、プロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ第1番である。プロコフィエフのヴァイオリン・ソナタというと、圧倒的に第2番の知名度が高いが(フルート・ソナタから改作された曲)、お化けが出そうなのは第1番のほう。

知名度が高いほうのプロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ第2番

注目は、第1楽章の終盤だ。弱音器を付けたヴァイオリンが「ヒュルルルルル~」とすばやく音階的なパッセージを弾く場面がある。これは作曲者によれば「墓場を抜ける風」なのだとか。

なるほど、そう言われれば、これは墓場だ。お化けが出てきそう。あるいは妖怪かも。この逸話を知って以来、曲を聴くたびに脳内に浮かぶイメージはゲゲゲの鬼太郎だ。続く第2楽章 アレグロ・ブルスコでは、今にも墓場で運動会が始まりそう。曲想全般にジメッとした手触りがあって、日本のお化け屋敷のノリにもマッチしそうなのもうれしいところである。

背筋が寒くなってきますね。
肝試しの案内人
飯尾洋一
肝試しの案内人
飯尾洋一 音楽ライター・編集者

音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...

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