フォーレ入門「高度に洗練された音楽を楽しむことは、人生に新しい力を獲得すること」
今年2024年は、フランスの作曲家ガブリエル・フォーレの没後100年に当たります。フォーレの音楽は響きが独特で素敵だけれど、どこかつかみどころがないような気がしませんか?
「レクイエム」が有名なフォーレですが、歌曲やピアノ曲も旋律とハーモニーが美しく、知らずに愛好している方も意外と多いのです。
そんなフォーレの魅力や入門者へのおすすめ曲を、フォーレを愛するピアニストの花岡千春さんに教えていただきました。
没後100年を迎えるフォーレの音楽は、フランス音楽のもっとも純度の高い結晶だと言えるでしょう。ドビュッシーやラヴェルももちろんフランス的ですが、彼らはよりインターナショナルな要素の多い作曲家であると言えると思うのです。
フォーレには、彼しか持っていない、不思議な土着性のようなものがあります。土着性などと書くと、なんだか垢抜けない音楽を想像するでしょうか? とんでもない! いかにもフランス人らしい精妙な色彩感覚と粋、意外な素朴さ、含羞、といった要素は、フォーレの音楽の根幹です。そしてそれらに加えて、フォーレの場合は、第一級の「洗練」が加わるのです。
生まれ持った高貴さとハイクラスな場で身につけたマナー
幼くして才能を認められ、少年時代に単身南仏からパリに上ってきたフォーレは、在籍したニーデルメイエール校校長のニーデルメイエール氏に可愛がられ、彼に連れられて、早くから上流階級のサロンに出入りしていました。そのためか、ハイクラスな場での立ち居振る舞いも早くから自然に身につけたのでしょう。ドビュッシーなどとは、それが少し異なるところです。
もちろん品格や洗練というのは、そうしたマナーだけではなく、生まれ持ったノブレスnoblesse(高貴さ)がなければお話にならないのですが、フォーレは生来のそれとマナーの両方を、理想的な形で持っていたのです。
プルーストの『失われた時を求めて』の登場人物のモデルたち、グレフュール伯爵夫人、モンテスキュー伯爵らや、当代随一の芸術のパトロネスだったポリニャック大公妃との関わりで、フォーレの名作が次々と生み出されています。
弟子のラヴェルのローマ大賞*落選事件の結果、パリ高等音楽院出身ではないフォーレが、学長に選出されました。経済的には決して恵まれなかった彼が、中年になって突然こうしたポストに就き、さまざまな改革を果敢にしたことも、看過できないことです。
南仏出身のむしろ陽気な気質のフォーレが、ロベスピエールなどというあだ名を頂戴するような、思い切った改革を断行したことが、現在のパリ高等音楽院の隆盛の基盤を作ったと考えられています。
*ローマ大賞:フランス美術アカデミーの作曲部門で、毎年の選考の結果、第1位の大賞受賞者には4年間のローマ留学が認められた。フランスの作曲家の登竜門で、受賞者にはベルリオーズ、ビゼー、ドビュッシー、デュティユーらがいる。
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