ジョージ・ハリオノ~チャイコフスキー2位の個性派。輝く音色と成長に触れる特別公演
昨年のチャイコフスキー国際コンクールで第2位に入賞したピアニスト、ジョージ・ハリオノはロンドン生まれの23歳。少年時代から頭角をあらわし、日本では一昨年の仙台国際音楽コンクールで、その個性豊かな演奏が注目されていました。来る11月16日には、銀座のヤマハホールで彼のヴィルトゥオージティを堪能できるコンサートが開催されます。ヤマハのディスクラビアを使用し、ロンドンにもライブ配信されるという画期的なもの。仙台の頃からハリオノの類い稀な才能に注目してきた音楽評論家の道下京子さんが、そのピアニズムの魅力と今回のプログラムの聴きどころをご紹介します。
2019年夏、息子が10歳を過ぎたのを機に海外へ行くのを再開。 1969年東京都大田区に生まれ、自然豊かな広島県の世羅高原で育つ。子どもの頃、ひよこ(のちにニワトリ)...
9歳でリサイタル・デビュー。光り輝く音色、心揺さぶるロマンティシズム
ジョージ・ハリオノは2001年生まれで、現在23歳。イギリス人の父とインドネシア人の母のもと、ロンドンで生まれた。9歳でリサイタル・デビュー、そして12歳でコンチェルト・デビューを果たすなど、少年時代から将来を嘱望されたピアニストだ。
ハリオノの名が、日本の音楽界で知られるようになったのは、2022年6月に開催された仙台国際音楽コンクール。彼の大きな魅力のひとつは、音そのものにある。二十歳すぎの若さにして、すでに自分の音をしっかりと極めている。その指先から音の芯を弾ませるような生気あふれる力動感を生み出し、聴く者の心に深く迫っていく。また、演奏テクニックもひじょうに安定しており、熟慮を重ねた作品解釈をあざやかに繰り広げていくことができる。
仙台では、なめらかな質感や光り輝くような色彩を放つ音、そして言葉を語るような自然なフレージングを聴かせてくれた。また、第2位に入賞したチャイコフスキー国際コンクールでも、心を強く揺さぶるようなロマンティシズムを披瀝。まさに、「ハリオノの音楽を聴いた」という印象を抱いた。
コンクールでの個性豊かな彼の演奏は、オンラインで世界へ配信され、多くの人がハリオノの豊かな才能に触れた。一方で、彼自身もSNSを通して情報を発信。世界中から多くのファンを獲得している。
ハリオノのヴィルトゥオージティを満喫 ロシアの作品を中心にピアノの魅力を最大限に引き出すプログラム
仙台のコンクール以降、ハリオノは来日する機会が増えた。今年11月にも来日予定で、ヤマハホールでコンサートを開催する。
午後8時に東京で開演するリサイタルでは、
コンサートは、休憩なしの60分。ピアニスティックで華やかな作品から深い叙情性に満ちた作品まで、ピアノという楽器の魅力を最大限に引き出すようなプログラムだ。
ロシアの作品が多いのも、今回のプログラムの特徴。ハリオノは、15歳でモスクワのピアノ・グランドコンペティションにて優勝を飾った。彼はイギリスの学校で音楽教育を受けているが、その時からロシアでもさまざまな形で教育を受ける機会があり、ロシアで多くのことを学んだと述べている。
最初に演奏されるのは、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770~1827)の「ピアノ・ソナタ第17番《テンペスト》」。ハリオノは、昨秋の東京でのリサイタルで同じく「ピアノ・ソナタ 第18番」を披露している。また、彼は2013年、13歳でこの作曲家の「ピアノ・ソナタ第1番」をレコーディングした。ベートーヴェンは、彼にとってピアノ演奏の原点なのだろう。
続いて、グリンカ=バラキレフ《ひばり》。「ロシア国民楽派の祖」と言われるグリンカの歌曲を、ミリィ・バラキレフ(1837~1910)が華やかな技巧を織り込んだピアノ曲へと編み直した作品だ。ほの暗い情感やメロディの美しさが心に深く染み入る。
そのバラキレフが作曲した「東洋風幻想曲《イスラメイ》」は、ピアノ曲のなかでも屈指の難曲。バラキレフは、「力強い仲間たち(5人組)」の中心的存在で、ロシアの民族的な音楽を追求した。この作品は、彼がコーカサス地方へ旅行した際にめぐり合った「イスラメイ」という民俗舞曲(「レズギンカ」の一種)を主題としており、奔放な躍動とセンチメンタルな一面を併せもつ。
ピョートル・チャイコフスキー(1850~1893)は、作曲の際にはアドバイスを求めるなどバラキレフと交流をもっていた。いま、映画でも話題となっているが、彼は妻と別れてほどなくモスクワを離れ、ヨーロッパに滞在。1885年に再び祖国で生活を始めた。《ドゥムカ―ロシアの農村風景》はその翌年の作品。ドゥムカは、もともとスラヴ地域で広く用いられた音楽様式。ハリオノならではのヴィルトゥオージティとともに、素朴で民謡的な表現を見事に聴かせてくれるに違いない。
そして、イーゴル・ストラヴィンスキー(アゴスティ編曲)「組曲《火の鳥》」。「バレエ《火の鳥》」の音楽の中から、グイド・アゴスティ(1901~89)によってピアノ独奏用に編み直された3曲がまとめられている。オーケストラのような豊かな音色に彩られ、突き上げるようなエネルギーと神秘が交錯する世界を、ハリオノはどのように聴かせてくれるだろうか。
仙台、チャイコフスキーからの2年間で大きな成長を遂げる
2022年の仙台国際音楽コンクールから、翌年のチャイコフスキー国際コンクールを経ていまに至る2年間で、ハリオノは大きな成長を遂げた。
「音楽家として変わり続けていますが、とくにこの2年ほどの間、自分の中で成長や変化を感じることができます」
ハリオノは、コンクールのあとも世界を駆け巡って躍進し続ける。そんな彼の成長を11月に東京で聴くのが待ち遠しい。
日時:2024年11月16日(土)20:00開演
会場:ヤマハホール
曲目:
L.v.ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 《テンペスト》 Op.31-2
M.グリンカ=M.バラキレフ:ひばり
M.バラキレフ:東洋風幻想曲 《イスラメイ》
P.I.チャイコフスキー:ドゥムカ―ロシアの農村風景 ハ短調 Op.59
I.F.ストラヴィンスキー(G.アゴスティ 編):組曲《火の鳥》
チケット(全席指定):5,000円
問い合わせ:03-3572-3171(ヤマハ銀座店 インフォメーション)※11:00~18:30 火曜定休
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