
グリーンランドの自治権獲得に貢献した若きロックバンドの姿

氷と雪に覆われた北極圏の島、グリーンランド。人口わずか5万6千人ほどのこの地で、1970年代に誕生したロックバンド「スミ」が歴史を動かしました。グリーンランド語で歌う初のバンドとなった彼らの姿を追ったドキュメンタリー映画『サウンド・オブ・レボリューション グリーンランドの夜明け』(2月24日に上映予定)を通して、知られざるグリーンランドの歴史、音楽カルチャー、そして現在と未来を見つめます。

1966年千葉県生まれ。日本大学文理学部出身。 メーカー勤務を経て96年よりケルト圏や北欧の伝統音楽を紹介する個人事務所THE MUSIC PLANTを設立。 コンサ...
自治権獲得運動のきっかけとなった伝説的バンド
国際ニュースでここ数ヶ月話題のグリーンランドは、地球の最北に位置する「世界最大の島」である。日本の約6倍のサイズの土地に56,000人が住み、太陽が夏は沈まず冬は昇らない。植物はほぼ生息しない真っ白な氷に覆われた土地に暮らす先住民たちは、アザラシや鯨、白熊などの狩猟生活をベースに暮らしてきた。
そんな島に18世紀ごろからデンマーク人の入植が始まり、それ以来、先住民と入植者の文化がユニークな形で共存しているのが、現在の国の姿だ。島の海岸線に点在する集落をつなぐ線路や道路はいっさいなく、国内移動でも船か飛行機が必要で、昔も今もこの土地に住むことの厳しさは変わらない。
1970年代、高等教育機関がなかったグリーンランドでは、多くの若者が少しでも明るい未来を得ようとデンマークへ留学するのが一般的だった。同じ島出身のメンバーがコペンハーゲンに集まり、そこでグリーンランド最初のロックバンド「Sumé(スミ)」が結成される。

都会の喧騒の中で多くの若者が祖国を忘れる中、彼らはグリーンランド語で歌うことをつらぬき、自然の厳しさ、そこに住む人々の喜びや悲しみ、そしてデンマークに対する憤りを訴えるようになる。本作は、そんな彼らの短かった活動期間に着目し、彼らの音楽がグリーンランドの社会に与えた影響を描いた力強い音楽ドキュメンタリーだ。
氷に閉ざされた大地の言葉で歌われるスミの音楽
スミの音楽は、発表後、大変な話題となり、グリーンランド人のほとんどがアルバムを購入するようなヒットとなる。ビートルズのリンゴを彷彿させるドラムのビートはとても印象的で、2人のソングライターをフロントに、変則リズムや12弦ギターのサウンドを駆使。英国の有名バンドからツアーの前座のオファーを受けるなど、小さくない成功を手にした彼らだが、しかし経済的に自立するほどの人気を得ることはできず、メンバー間の意見の相違もあってバンドは解散。傷心のメンバーは、それぞれ卒業と同時に自分の故郷へ帰っていく……。
悲しいエンディングではある。スミが訴えた「デンマークからの独立」は、ファースト・アルバムから50年以上たった今でも実現していない。しかしプロテストソングを歌う多くのバンドが疑問に思う「音楽は社会を変えることができるのか?」という大きな問いに、この映画は力強い「イエス」を提示しているように、私には思えるのだ。
その昔、グリーンランド人をグリーンランド人たらしめたものは「犬ぞり文化」であり「アザラシ猟銃」であった。犬ぞりを操れないものはグリーンランド人ではないとされてきた。しかし、そんな先住民の文化は、地球温暖化の影響を受け、この先、絶滅してしまうことがほぼ確実だ。
だからこそスミの音楽は、グリーンランドという国で、とてつもなく大きな意味をもつ。彼らの活躍した70年代、多くのグリーンランド人が、彼らの音楽を通じて自身の言語の重要性を再認識。結果、彼らはグリーンランド語での教育を取り戻し、ひいては自治権までも獲得することにつながったのだから。現在、世界中を見渡してみても、これだけ先住民の言語が残っている地域は本当に珍しい。
スミの意志を引き継ぐグリーンランド語で歌うバンド「ナヌーク」
本作ではまた、このスミの意志を継ぐ存在として、2008年に結成されたナヌークというバンドのフロントを務めるエルスナー兄弟が登場。グリーンランド代表として世界中を飛びまわる彼らもまた、母国語で歌うことにこだわるバンドだ。
兄弟の兄であるクリスチャンはインタビューに答えて力強く語る。
「ぼくらはグリーンランド語でしか歌わない。これからも、ずっと」

このナヌークのメンバーが、自分たちが尊敬してやまないスミの映画上映を盛り上げるため、2月24日、劇場に駆けつけてくれることが決定した。ぜひこの貴重な機会に文化とはなにか、言語とは何か、そしてそれぞれが社会に対する役割など、彼らと一緒に考える機会になれば、と願う。
先日の米スーパーボウルのハーフタイムショーでも英語圏出身ではないバット・バニーのパフォーマンスが話題を呼ぶなど、世界は「自分たちの言葉で表現するアーティスト」に大きく注目している。
トランプ大統領が指摘するまでもなく、先住民の文化と入植者の文化が共存するグリーンランドの社会は今でもとても危ういバランスの上に成り立つ。自殺率も非常に高く、元々北極圏には存在しえなかったアルコールが深刻な問題を引き起こするなど社会問題も多い。
彼らの地の明るい未来はまだまだ遠いが、想像してみてほしい。自分たちが普段使っている言語で、自分の「今の気持ち」を歌える歌が存在していることのありがたみを。それはとても幸せなことなのだ。残念ながら、それが星の数ほど存在している日本に住む私たちに、その幸せを理解するのは簡単なことではないのだが。
2026年2⽉24⽇(⽕)19:00~上映(上映後、ミニライブ+トーク開催)
ゲスト:ナヌーク、キニマンス塚本ニキ(MC・通訳)
特別興⾏料⾦¥2,000(税込)圴⼀
※2⽉4⽇(⽔)劇場HPより販売開始
主催:THE MUSIC PLANT
配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム
宣伝:VALERIA
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