読みもの
2019.03.03
飯尾洋一の音楽夜話 耳たぶで冷やせ Vol.11

スピード狂の時代~乗り物にまつわるクラシック音楽、一番速いヤツはどれだ!?

人気音楽ジャーナリスト・飯尾洋一さんが、いまホットなトピックを音楽と絡めて綴るコラム。連載第11回は、乗り物にまつわるクラシック音楽! 産業革命時代に蒸気機関車が発明されて以来、人々を魅了しつづけるスピード。時代を経てどんどん加速していく!? 馬車、機関車、飛行機、そしてスポーツカーのスピード感を、音楽で体感しよう。

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飯尾洋一
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飯尾洋一 音楽ライター・編集者

音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...

メインビジュアル:フランス、カルヴァドス県のバイユーを走るPacific 231G 558 © Roloff

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高速移動を実現する先端テクノロジー。19世紀から20世紀前半にかけて、その地位にあったのは蒸気機関車だろう。石炭を燃焼させ、ボイラーで発生させた蒸気でピストンを動かし、何十トンもの重い車両を前進させる。最初はゆっくりと動き出した車両が、やがて爆発的なエネルギーで猛進する。そんなスピード感に人が快感を覚えないはずがなく、作曲家も例外ではない。

鉄オタの面目躍如。

「パシフィック231」(1923年)/オネゲル

蒸気機関車を描いた名曲でもっとも知られるのはアルテュール・オネゲル(1892~1955、フランスで活躍した作曲家)の「パシフィック231」(1923年)だろう。タイトルは蒸気機関車の車軸配置に由来する。
蒸気機関車が発進して加速し、やがて停車するまでの様子を、オーケストラをフル活用して描写している。単に機関車のスピード感を表現するだけではなく、せわしなく動作する蒸気機関の運動性まで伝わってくるあたりが、熱烈な鉄道ファンだったオネゲルの面目躍如。最後にちゃんと減速して停止するのもすばらしい。

フランス、カルヴァドス県のバイユーを走るPacific 231G 558 © Roloff

「鉄道」(1844年)/アルカン

蒸気機関車を題材にした作品ということでは、シャルル=ヴァランタン・アルカン( 1813~1888、フランスの作曲家)のピアノ曲「鉄道」(1844年)という先例がある。オネゲルよりはるかに先んじて書かれていて、作曲年を見て一瞬目を疑ってしまうほどだが、たしかにこの時代に蒸気機関車の旅客営業はもう始まっている。
こちらはピアノ曲ながら、スピード感ではむしろオネゲルを上回っている。音楽から聴こえてくる想像上の車両は、実に軽やかに前進し、目に浮かぶのは蒸気機関車というよりは最新車両の新幹線だ。

ひづめの音がもたらすのは、恋人からのラブレター……か?

「郵便馬車」(1827年)/シューベルト

スピードがもたらす快感は、蒸気機関車以前の時代の名曲にも描かれている。
当時の高速移動手段といえば、なんといっても馬車だ。例はいくらでもあるだろうが、たとえばフランツ・シューベルト(1797~1828)の歌曲集「冬の旅」(1827年)の「郵便馬車」。ひづめを鳴らしながら馬車が走ってくる。なにかいいことがありそうだ。そんなウキウキとした気持ちを一瞬抱かせる。もちろん、この孤独な曲集の主人公にいいことなどは訪れないのだが。

失速すると墜落します。

「サンダーボルト P-47」(1945年)/マルティヌー

蒸気機関車よりも、もっと速いのは飛行機だ。ボフスラフ・マルティヌー(1890~1959、チェコの作曲家)のオーケストラ曲「サンダーボルト P-47」(1945年)では、第二次世界大戦で用いられたアメリカ空軍の戦闘機が描かれる。
こちらもオネゲル作品と同様、燃料を燃やしてエンジンを動かすという運動性が感じられる。プロペラの回転が体感できるとでもいうべきか。速いことは速いのだが、「失速したらどうしよう」という不安をうっすらと抱かせるようなところもあるところが味わい深い。

アメリカのリパブリック社が開発した戦闘機、P-47 サンダーボルト © San Diego Air & Space Museum Archives

もはや快感を通り越して恐怖!

「ショート・ライド・イン・ア・ファスト・マシーン」(1986年)/ジョン・アダムズ

現代アメリカを代表する作曲家、ジョン・アダムズ(1947~、アメリカの作曲家)にも、スピード感あふれる秀作がある。「ショート・ライド・イン・ア・ファスト・マシーン」(1986年)という華やかなオーケストラ曲だ。これは現代の作品だけあって、前述のどの曲よりも安定した高速走行を実現している。一瞬のうちに加速し、あっという間に最高速度でぶっ飛ばすといった感がある。
この乗り物はなんだろう? 作曲者によればきっかけはスポーツカー。少しクルマに乗ってみないかと誘われて、乗ってみたら怖くて後悔した、といった様子が曲名に込められている。

しかし曲から受ける印象はもっと未来的な光景だ。滑るような高速移動から、やがて車両が浮き上がって、摩天楼の間をすり抜けるように滑空する(まるで映画「ブレードランナー」みたいに)。そんなシーンを想像せずにはいられない。

1982年に公開された『ブレードランナー』は、2019年が舞台!

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飯尾洋一 音楽ライター・編集者

音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...

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