読みもの
2022.11.25
知識ゼロからわかる!

インターネットと音楽についての法律相談室#2 その「編曲」は本当にやっていいの? <前編>

YouTube、SNS、ブログなどで自由に表現ができるようになった昨今。それに伴い、著作権への関心も高まっています。
本連載では、インターネットと音楽についての著作権や関連する法律についての初心者向けの基礎知識を、アート関連のスペシャリストが集まった骨董通り法律事務所の弁護士・橋本阿友子さんに教えていただきます。
前回の「契約」「著作権」の基本に続き、今回は既存のものを使う「編曲」についてお話を伺いました。

林田直樹
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

お話を伺った弁護士・橋本阿友子さん(骨董通り法律事務所にて)

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どんな場合が著作権侵害に当たるのか

――これはプロに限らないことですが、例えば発表会などの音楽活動をしていくうちに、気づかないうちに著作権侵害をしてしまったみたいなことがきっとあると思うんです。「これは侵害になるからやっちゃいけないよね」っていう感覚を身につけることは大事ですよね。

よくあるのが「クラシック音楽だから大丈夫」と思ったら、まだ作曲家に著作権が残っていたというケース。それを有料のコンサートで、あるいはお金をもらって無断で演奏することはダメですし、配信は無料でもアウトです。

それと、気をつけなければいけないのが「編曲」です。原曲の著作権は切れていても、編曲者の著作権が切れているとは限りません。今は以前に比べ著作権が保護される期間が長くなってきていますので、注意しつつ確認しなければいけない(特に海外の作品は要注意)。

――バッハやモーツァルトの曲であっても、最近の誰かが編曲していたら、それは著作権がかかると?

そうですね。編曲者の権利を確認しなければなりません。

――例えば、モーツァルトの《トルコ行進曲》を、現代のピアニストで作曲家のファジル・サイがJAZZ風に編曲したヴァージョンがありますが、あれを自分のコンサートで演奏したいと思ったら、ファジル・サイ側に連絡しなきゃいけないんですか?

この編曲版をJASRAC等が管理していなければ、そういうことになりますね。

――逆に、最近のヒット曲を編曲して弾きたいという場合、JASRACに言えばいいんですか? それとも、JASRACは編曲の可否に関しては管理していないのでしょうか?

著作権には編曲権というものがありますが、JASRACは編曲権を管理していないのですね。そのため、JASRACは「編曲するときは著作権者から、直接、許諾を得てください」という形をとっています。ただ許諾をとりにいく際に気をつけなければならないのは、著作権を持っている人イコール作曲家(著作者)とは限らないんですね。

――著作者とは、音楽の場合だったら、作曲家や作詞家になりますよね。

おっしゃる通りです。そして作曲家(著作者)は基本的に著作権をもっています。ところが著作権は財産権なので、人に譲渡できます。ですから、音楽出版社やJASRACが著作権を持っている場合があるんですね。その結果、著作権を持っている人と著作者の不一致が生じます。

一方、著作者には著作者人格権という権利があります。こちらは、一身専属性といって、著作者しか持てないものなのです。相続もできません。著作者が亡くなったら消えてしまう権利で、他人に譲渡できない。ですから、JASRACが管理できないんですね。

編曲は、編曲権という著作権のほか、同一性保持権という著作者人格権にも関連します。そのためもあるのか、JASRACは編曲権を管理しないこととしていて、もし編曲するときは、JASRACではなくて、データベースに記されている権利者に聞いてください、ということになっています。

――また、ゲーム音楽などを編曲してYouTubeなどにアップロードしている人もいますが、あれは大丈夫なんでしょうか?

おっしゃる通り、YouTubeには、編曲されたものや、「メドレー」にする形で演奏しているものが散見されます。それをイヤだと思わない権利者の楽曲であれば問題ないので、黙認されているものも多いのかもしれません。しかし、YouTubeに編曲版が相当数あがっているから大丈夫だろうと何でもかんでも編曲すると、トラブルになり責任を負う結果となりかねません。

――作曲家は、勝手に編曲されないよう、許可を出す権利があるのですか?

作曲家には意に反する改変をしないで、といえる権利があります。これが先ほどの同一性保持権ですね。作曲家が著作権をもっていれば、編曲しないで、といえる権利も持っています。これは著作権のうち編曲権です。

――例えばビートルズの《イエスタデイ》を自分が編曲して演奏したいときには、ポール・マッカートニーに許諾を取らなければいけないのでしょうか?

本来はそうですね。音楽出版社を通して許諾を得るのが適正な手続きだと思います。そこまで有名な方ですと、逆に編曲されたものも多くみられるようですね。

――いちいち取り合っていられないから、黙認しているんですよね、たぶん。

そうかもしれませんし、そういうことに寛容なのかもしれません。作曲家の方の中には、「編曲はむしろ全然してもらって構いません」とおっしゃる方もおられます。私も一度、長年憧れていたゲーム音楽クリエイターの方に、編曲の許諾をいただいて演奏したことがあります。その方はすでに相当著名な方でしたが、編曲を許諾することで、自分の作品が広まることを望まれる方もいらっしゃるようです。

 

橋本阿友子(弁護士・骨董通り法律事務所)
京都大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。ベーカー&マッケンジー法律事務所を経て、2017年3月より骨董通り法律事務所に加入。東京藝術大学・利益相反アドバイザー、神戸大学大学院非常勤講師、Chordia Therapeutics株式会社社外監査役。上野学園大学では非常勤講師を務める傍ら、器楽コース(ピアノ専攻)に編入し、2022年3月には芸術学士を取得。国内外のコンクール受賞歴を持つ。自身の音楽経験を活かし、音楽著作権を専門としつつ、幅広いリーガルアドバイスを提供している。
https://www.kottolaw.com/attorneys.html

気になる「編曲」のお話、まだまだ続きます。後編をお楽しみに!

「エンタテインメント法実務」(骨董通り法律事務所編、弘文堂)

林田直樹
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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