どこまでが“引用”として許される? 他人の著作物を無償で使用する際の注意点
YouTube、SNS、ブログなどで自由に表現ができるようになった昨今。それに伴い、著作権への関心も高まっています。本連載では、インターネットと音楽についての著作権や関連する法律についての初心者向けの基礎知識を、アート関連のリーガルスペシャリストが集まった骨董通り法律事務所の弁護士・橋本阿友子さんに教えていただきます。
今回は、普段からなんとなくやっている可能性大! の「引用」についてお話を伺いました。結構思い当たる方も多いのでは……⁉
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
引用が許される3つの要件
——(第5回までの)お話を伺ってくると、インターネットの世界には本当に著作権侵害があふれているという気がします。
橋本 そうですね。どうしても他人の著作物を使いたい場合は、やはり許諾を得るしかありません。あるいは、例えば引用が認められるような使い方をすることです。著作権法では、引用以外にも利用が可能な場合を列挙していますので、それぞれの条件に沿った使い方をすれば問題ないでしょう。
——他人の著作物を無償で使用したいときには、「引用」が重要なポイントになると思うんですけれど、引用の範囲、引用の定義、その注意点を教えていただけますか。
橋本 引用は、著作権法第32条に定められていますが、引用として認められるかの判断は、実はかなり難しいのです。判例も多くあって、考え方も時代とともに少しずつ変わってきています。引用が許される要件は、ざっくりいうと、主に次の3点になります。
第一に、公表作品しか使ってはいけません。他人が書いた手紙を引き出しから偶然見つけたと言って、それを仮にSNSにアップしたとしたら、その時点で公表権侵害になりますし、引用としても認められなくなりますので、これはNGです。このことはきちんと法律として定められているんですよ。
第二に、「明瞭区別性」というものがありまして、これは、どこからどこまでが引用ですよ、というのをはっきりさせること。論文でも、出典と引用箇所をきちんと明記しますよね。誰が見てもそれがわかる形で引用しないとNGです。
第三に、引用は必要な範囲にとどめること。説明の補足レベルでしか使ってはいけない。引用が許されるのは、批評や説明のために補足として必要なケース、範囲でだけです。ところが、みなさん、「これは引用だ」といって補足レベルを超えた引用のしかたをされていて、アウトなケースが結構あるんです。
——わかります(笑)。
橋本 やりがちなのが、講演会のパワーポイントとか宣材映像などの中で、著作物の画像や文章だけぱっと出てくるような使用方法。これはNGです。引用した画像や文章などの説明をきちんとしないといけません。音楽も同様です。
また、必要な範囲内での使用に限ります。どちらがメインでどちらがサブなのかがわからない程度の使い方はアウトですね。
——メインであるべき批評や説明に対して、引用対象のボリュームはどの程度なら許されるんですか?
橋本 我々が通常お伝えしている“安全圏”は、最大で1割程度ですね。
——1割ですか……。例えば、私は自分のインターネットラジオ番組を持っているんですけど、自分の意見を音楽評論家として10分間喋って、1分だけ曲をかけるなら、レコード会社やアーティストに許諾無しでも「引用」ということで許されるのですか?
橋本 ケースバイケースですが、一応は“安全圏”だと思います。1割というのはあくまで目安なのですが、1割を超えてくると、どんどんリスクは上がっていきます。もちろん、引用のしかたにもよりますので……結局、引用は総合考慮なんですよ。
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