世にも不思議でぞっとする3本の短編集

音楽のある怪談

読みもの
2018.08.31

真夏の夜の風物詩である『怪談』。
そんな怪談には、音や音楽にまつわるものが多くある。
不思議で少しぞっとするお話からいくつかをご紹介しよう。

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ⓒ勅使川原克典
住倉カオス 作家・怪談イベントプロデューサー
住倉カオス
住倉カオス 作家・怪談イベントプロデューサー
著書に『百万人の恐い話』、『百万人の恐い話 呪霊物件』(竹書房刊)など。@kaoss

海底の歌

太平洋戦争中、西太平洋のトラック諸島(現在のチューク諸島)には日本海軍の拠点があったが、アメリカ軍の作戦によって、ほぼ一方的に全滅させられた。

多くの艦船、航空機、そして何千もの人名が失われた。

その海に沈んだ艦船群は、今では「幽霊艦隊」と呼ばれ、世界中から人が集まる有名な観光ダイビングスポットとなっている。

映像制作会社社長のA氏は優秀なダイバーでもある。ある年のこと、70メートルもの深海に沈む、まだ誰にも撮ったことのない軍艦の撮影に挑むことになった。

それだけの深さになると、潜水はかなりの危険を伴う。

Aはベテラン水中カメラマンと共に、慎重に目的の軍艦にたどり着いた。

甲板の上には朽ちた機銃や、乗組員の遺骨などが残されており、2人は心の中で手を合わせ、手早く撮影を済ませた。それだけの深海になると活動時間も数分しかのこされていないのだ。

酸素も残り少なくなり、2人は浮上することにした。

ダイビングは潜水より浮上の方が危険を伴う。

慎重に行動していたAだが、その時に異常を感じた。

 

歌が聴こえるのだ。

 

ここは深度数十メートル。歌など聴こえるはずがない。

だが確かに聴こえる。曲名は分からないが、どうやら軍歌のようだ。

Aは思った

「窒素酔いか?」

それだけの深海になると、血中の窒素の濃度が濃くなり、まるでアルコールに酔っているような状態になるころがある。非常に危険な状態である。

Aはさらに慎重になって浮上を始めた。

やっとの思いで水上に出て、スタッフに船上に引き上げられると、安心したAは現地のコーディネーターにこう言った。

「まいったよ。窒素に酔ったみたいで深海で歌が聴こえたんだ」

言われたコーディネーターは、別に表情も変えずこう応えた。

「あぁ、こういう歌だろ」

そう言うと彼は鼻歌を歌った。

Aは驚いた。まさに今しがた聴いた歌のメロディーなのだ。

「どうして知ってるんだ!?」

Aが聞くと、コーディネーターはこともなげに答えた。

「この辺の海に潜ると聞こえるんだ。地元のダイバーなら皆知ってるよ」

その言葉には驚かされたが、Aはすぐにそれを受け入れた。

海の深遠さを知るベテランダイバーであっただろうか。

数年後、テレビの終戦記念日でAはたまたまそのメロディーを聴いた。

「海ゆかば」というタイトルの軍歌であった。

地下の劇場

知り合いにテレビのリサーチャーをしているBという男性がいる。

時々連絡を寄こしては、ガセも含めいろんな情報をくれるのだが

「秋葉原に幽霊の出る劇場があるので取材できます」

と連絡が来た。

秋葉原のハズレにあるその劇場は雑居ビルの地下にあり、普段は100人クラスのアイドルの公演が主な用途だった。

コンクリむき出しの劇場内は何か暗く冷たい印象があり、確かに不穏な空気はあった。

劇場オーナーはいなかったが、その劇場のPAを担当している男性と話ができた。

普段は演劇をしているとのことだが、その劇場をただで練習場所に使わせてもらう代わりにPAなどを手伝っているらしい。

「確かにここは出ますよ。昔ここは飲食店だったらしいですが、そのときからフォークやナイフが勝手に宙を飛んでたらしいし、夜中になると女の声が聴こえてきます。ここには6人の女の霊がいるらしいです」

彼から面白い話は聞けたが、結局オーナーに会うことはできず、そのうちにその劇場は別の人物の手に渡ったと噂に聞いた。

数カ月後、僕は知人からイベントの手伝いを頼まれた。男性アイドルに関してのイベントが秋葉原の劇場で行なわれるらしい。

当日行ってみると、あの劇場であった。

イベントが終わると、主催者と女性の観客の集団が客席で揉めていた。イベント内容に変更があったことが伝わっておらず、主催者が取り囲まれ詰められていた。

こちらは仕事も終わり、うんざりして待っていると、突然女性の朗々とした歌声が聴こえてきた。

クラシックの女性の独唱であった。

外国語でわからなかったが、歌詞もはっきり聴き取れる音量だ。

実はそのとき、偶然ではあるが、知人の女性ソプラノ歌手も手伝いに来ていた。

僕はてっきり彼女が歌いだしたのか?

と思い、周りを見渡したが、彼女は僕のすぐ後ろにおり、不思議そうな顔をして立っていた。

もちろん歌など歌っていない。僕が表情だけで

「聴こえる?」

と彼女に問うと、彼女も軽くうなずいて

「何だろう?」

という表情をした。

そのままPA卓まで行くと、ミキサーの担当者も不思議そうに空中を見つめていた。

会場のBGMでもなかった。

残った女性客たちは相変わらず興奮して主催者を詰めていたが、僕らスタッフで来ていた数人は、みなその歌声が気になって仕方がなかった。

その雑居ビルの地上階はオフィスにだった。

その日は休日で上のオフィスに人はいなかった。

僕が音は配管から伝わってきたのかもしれないと思い、廊下に出ると、その突き当りに紐が張られていた。

事故現場の立ち入り禁止のテープのように、ちょうど4畳半くらいのスペースが入れないようになっていた。

そこには6脚の椅子がきちんと並べられていた。

「6人の女性の霊……」

僕はあの言葉を思い出していた。

あとで知人の女性歌手から、その曲は

カタラーニ作曲。オペラ「ワリー」からのアリア「さようなら、ふるさとの家よ」と知った。

「私はたった一人で、ここから遠いところに行きましょう

聖なる鐘のこだまが

あの白い雪の間に流れていくように」

着信履歴

クラブというのも霊の目撃情報が多い場所である。

やはり窓がなく、多くの人が集うためナニかが吹き溜まってしまうのだろうか?

テクノDJとして海外でも活躍する響洋平さんは、そんなクラブでの怪談を多く知っている。

響さんの知人男性のDさんは新宿区のライブハウスで働いていた。

夜中に1人で残業していたところ、地下2階の事務所の固定電話がなった。

ナンバー・ディスプレイを見ると、なんと自分の名前がそこに表示されていた。

自分の携帯から事務所に電話されているということになる。

Dさんは恐る恐るスピーカーホンにすると

「もしもし」

という声が聞こえてきた。

その声はなんと自分の声であった。

しかも電話のスピーカーから聞こえてくる

「もしもし」

という音に混ざって、吹き抜けで繋がっている上のフロアから生の声で

「もしもし」

という声が聞こえてきた。

怖くなって電話を切ったDさんが上のフロアに行くと、テーブルの上に自分の携帯がポツンと置いてあった。

発信履歴を見ると、たった今この店に発信されていた。

 

音と霊。

その間には密接な関係があるのかもしれない。

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