読みもの
指揮者の沼尻竜典さんの「ベルリンの壁」崩壊時にドイツ留学していた話から
1989年、当時東ドイツであったドレスデン音楽大学のピアノ科に留学した主人公、眞山柊史の、ベルリンの壁崩壊までのドラマを描く460ページの小説。
北朝鮮、ハンガリー、ベトナム、あるいは東独国内から集まった東側の天才的な音楽家は、主人公と違って強い意志と目的を持っている。中には民主化運動に参加するものもあり、それを阻止し監視するシュタージ(国家保安省)との駆け引きも、この国の日常だ。シュタージの協力者だった者が反体制に転じたり、友人だと信じた人が監視者だったり、息詰まる状況がドキュメントのように描かれる。
最終場面でベートーヴェンのオペラ《フィデリオ》が解放の象徴として使われ、また主人公の父の友人が作った作品が重要な場面で演奏されるが、他の曲も含めて音楽の描写も的確で、音楽表現の上でも卓越している。
青春小説、音楽小説、歴史小説、ミステリーの要素をすべて兼ね備えた大作で、一読をお勧めしたいと思います。
(堀内久美雄)
1989年、日本の喧騒を逃れ、ピアノに打ち込むために東ドイツに渡った眞山柊史。
彼が留学したドレスデンの音楽大学には、学内の誰もが認める二人の天才ヴァイオリニストがいた。
正確な解釈でどんな難曲でもやすやすと手なづける、イェンツ・シュトライヒ。
奔放な演奏で、圧倒的な個性を見せつけるヴェンツェル・ラカトシュ。
ヴェンツェルに見込まれ、学内の演奏会で彼の伴奏をすることになった眞山は、気まぐれで激しい気性をもつ彼に引きずり回されながらも、彼の音に魅せられていく。
冷戦下の東ドイツを舞台に、一人の音楽家の成長を描いた、著者渾身の歴史エンターテイメント。
本作を彩る音楽は以下。







