読みもの
2019.01.15
トンデモナイ男とマジメな男……2人の天才の友情物語

EXILE AKIRAが山田耕筰を、大森南朋が北原白秋を演じ、童謡の名曲が生まれるまでを描いた映画『この道』

童謡の誕生から100年、稀代の天才詩人・北原白秋の波乱に満ちた半生と、秀才音楽家・山田耕筰との友情を描いた映画『この道』が公開中! 音楽の力を改めて感じる映画を紹介します!

大久保和則
大久保和則 編集者・ライター

レコード&CDショップ「六本木WAVE」勤務を経て、雑誌「BAR-F-OUT!」編集部、「マーブルブックス」編集部に在籍。以後、フリーランスに。現在は、バンドからシン...

©2019映画「この道」製作委員会

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山田耕筰といえば、大正から昭和にかけて数多くの歌曲や童謡を手がけたことで大いにその名を知られている、稀代の作曲家だ。13歳のときから西洋音楽を学び、24歳のころからベルリンに留学し、日本人としては初の交響曲「かちどきと平和」を作曲。帰国後には、現在のNHK交響楽団の礎となった日本交響楽協会を設立するなど、日本におけるクラシック音楽の普及に関して多大な貢献を果たした人物でもある。

映画「この道」は、そんな耕筰と詩人・北原白秋が出会い、「からたちの花」や「この道」といった、今も歌い継がれる名曲を二人三脚で生み出していった様を描いた物語だ。史実をもとにしたオリジナル脚本による作品で、2人の関係性や彼らを取り巻く個性的な芸術家たち(与謝野鉄幹や与謝野晶子を中心に、石川啄木、萩原朔太郎、室生犀星、高村光太郎らが登場する)を生き生きと描写した大正〜昭和の群像劇としても楽しめるが、何よりも観たあとに音楽が聴きたくなる。音楽がもっと好きになる。そして、人間が好きになる。そんな映画だ。耕筰を演じるのは、EXILEのメンバーとしても活躍し、俳優としても多くの作品に出演しているAKIRA。白秋役は、硬軟織り交ぜた演技の存在感で、日本映画に欠かせない役者の一人となった大森南朋が演じている。現在、AKIRAがEXILEとして音楽活動をしていることに加え、大森も自身のバンド・月に吠える。で活動していることを考えると、そんな2人が後世に残る名曲を生み出した耕筰と白秋を演じていることに、何やら不思議な縁も感じてしまう。

「この道」が、音楽映画として興味深い作品であるということは、冒頭のシーンからすでに伝わってくるはずだ。縁側で隣家の人妻に膝枕されながら、耳かきをされている白秋。そこで彼は、雨だれの音を耳にしながら、童謡「あめふり」のかの有名な一節「ぴっちぴっち ちゃっぷちゃっぷ」を口ずさむ。これは、白秋の詩が例えば哲学的な思考からなどではなく、日々の生活の中から自然に生まれていたことを象徴するシーンで、その後の物語でも同様のことを示すエピソードが印象的にインサートされている。この白秋の詩を、「リズムであり、命であり、生きている詩」と劇中で与謝野鉄幹は絶賛するが、これこそがのちに音楽家である耕筰と邂逅した際に、奇跡的な化学反応を起こした所以だろう。白秋の詩の核にはリズムがあり、だからこそ耕筰はそこにメロディーを吹き込み、永遠に生き続けるような歌を人生をかけて生み出したいと感じたのだ。

劇中では、関東大震災や戦争が当時の音楽に与えた影響も描かれているが、そこから浮かび上がってくるのは、耕筰と白秋の芸術家としての苦悩と矜持、そしてそんな2人の葛藤とは裏腹に決して揺るぐことのない歌の力、音楽の力だ。実際、そうした時代背景から生まれた2人の歌は、今なお私たちの心に響き続ける。だからこそ、観たあとに音楽が聴きたくなるし、もっと音楽を好きになるし、そうした表現をはるか昔から綿々と続けてきた人間が無性に好きになるのだ。そんなふうに、あらためて時代を超える音楽の力、歌の力、人間の力を、映画「この道」は痛感させてくれる。

1月11日公開
映画『この道』

出演:大森南朋 AKIRA 貫地⾕しほり 松本若菜 小島藤⼦ 由紀さおり 安田祥⼦ ・ 津田寛治 升 毅 稲葉 友 伊嵜充則 佐々木一平 柳沢慎吾 羽田美智⼦ 松重 豊

主題歌:「この道」 EXILE ATSUSHI

監督:佐々部 清

脚本:坂口 理⼦

音楽:和田 薫

配給:HIGH BROW CINEMA

大久保和則
大久保和則 編集者・ライター

レコード&CDショップ「六本木WAVE」勤務を経て、雑誌「BAR-F-OUT!」編集部、「マーブルブックス」編集部に在籍。以後、フリーランスに。現在は、バンドからシン...

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