読みもの
2021.02.05
高坂はる香の「思いつき☆こばなし」第47話

CMによく使われる作曲家といえば? バッハ、ベートーヴェン……それともショパン?

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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最近、クラシック音楽と直接関連しない商品などのCMで、作曲家がキャラクターとして登場するもの、わりと見かけるような気がしませんか?

今ざっと思い浮かべただけでも、「RedBull」(ベートーヴェンがRedBullを飲んで交響曲第5番《運命》の冒頭を閃くというもの)、「Hulu」(バッハ、モーツァルト、シューベルトが音楽コンテンツを楽しみたいなと語り合っている)、そして「アリナミンEX」(腰痛に悩むバッハに、V6の井ノ原さんが疲れをとったほうがいいですよとアドバイスする)など……。

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CMプランナーさんの間でクラシック音楽が流行っているのでしょうか。しかもRedBull以外、それっぽい人にかつらをかぶせた実写というのも、なんだかすごい。

ところで少し前、ポーランドの国立ショパン研究所の方から、日本でポーランドの作曲家がどう受け入れられているか、ちょっと話をきかせてほしいと電話がかかってきました。

やはり日本人の間で知られているのはショパンであって、演奏回数の多さの話から、かの有名な太田胃散のCM(24の前奏曲から第7番“イ長”調が、胃腸とかけて使われているというアレ)の例など、いかに多くの番組やCMでショパンが使われているか、という話に。

その流れのなか、私はこのショパン研究所の人に、「ただ、CMにキャラクターとして登場するのは、ベートーヴェンとかバッハが多いんだけど」と言ったんです。何の気なしの発言だったんですが、これへの彼の食いつきが、すごかった。

「え? そこはショパンじゃないの? なんでベートーヴェンとバッハなの? なんでなんで?」

すごい勢いで詰め寄ってきます。さりげない一言が、ポーランド人の誇りを刺激してしまったのか……。

私は考えました。確かに、なぜショパンではないのか。

とっさに導き出したのは、「一般の人はショパンの音楽は知っているけど、顔はわからないからではないか」という、非常にシンプルな答えであります。

音楽室に飾ってあった肖像画の中でも、格別に顔面のインパクトが強いのは、ベートーヴェンやバッハ。しかも一つの有名なパターンが、広く出回っています。

ライプツィヒの肖像画家、エリアス・ゴットロープ・ハウスマンによって描かれたJ.S.バッハ(1748年)。
バイエルン国王の宮廷画家、ヨーゼフ・カール・シュティーラーによるベートーヴェンの肖像画(1820年)。

それに対してショパンは、顔の印象が薄め。しかも、肖像画も有名なものが3パターンくらいある(若き日の婚約者マリア・ウォジンスカが描いたもの、そしてルーブル美術館所蔵の巨匠ドラクロワが描いたもの、友人の画家アリ・シェフェールが描いたもの)ため、イメージが統一されていないのかも。

ショパンがピアノの手ほどきをし、非公式に求婚したとされるマリア・ウォジンスカが描いた肖像画(1836年/ショパン26歳頃)。
ショパンと同じ芸術的なサークルに属していたオランダ出身のフランスの画家、アリ・シェフェールによる肖像画(1847年/ショパン37歳頃)。
フランスの画家、ウジェーヌ・ドラクロワが描いたフレデリック・ショパンとジョルジュ・サンドの未完の油彩画の復元(1838年頃/ショパン27歳頃)。19世紀後半に半分に切断され、ショパンを描いた部分はルーヴル美術館に収蔵されている。

そんな仮説を伝えつつ、「いや、ショパンはめちゃくちゃ人気よ。でも、バッハとかベートーヴェンの姿って、役者さんにカツラかぶせとけば、なんとなくそれっぽく見えるじゃない」と、バッハとベートーヴェンの外見を微妙にくさしつつ、懸命にフォローするわたくし。しかし結局、彼は最後まで不満そうでした。

でも、実際どうなんでしょう。クラシックファン以外の間で、ビジュアルがもっとも認識されているのは、誰なんでしょうか。やっぱりバッハなんでしょうか。

ただひたすらに、あのカツラの形状がバッハと思われている気も、しないでもありませんが。

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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