読みもの
2022.12.28
高坂はる香の「思いつき☆こばなし」第116話

戸室玄さん出演のウクライナ医療支援コンサート~持続可能な活動を支える一つの形

ウクライナ戦争により、多くの命が危機にさらされ、現地に暮らす人々、近隣諸国に逃れた難民たちにとって不安な毎日が続いています。
 
そんな戦争がいつまで長引くかわからず、継続した支援が求められる中で開催された、世界の医療団と清泉女子大学の共催による「ウクライナ医療支援チャリティコンサート」。こちらに、先のロン=ティボー国際ピアノコンクールに出場されていたピアニストの戸室玄さんが出演されるということで、聴きにいってまいりました。

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

ウクライナ医療支援コンサートにおける戸室玄さん(撮影:筆者)

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会場は、東京、五反田にある清泉女子大学の講堂。世界の医療団は、紛争や自然災害、貧困、差別などで医療を受けられない人々の状況の改善のために活動する、国際NGOです。イベントの前半には、難民救済ボランティアに参加した学生による報告や、世界の医療団日本の米良彰子事務局長による活動の紹介がおこなわれ、現地の状況が伝えられました。

世界の医療団日本の米良彰子事務局長による活動紹介の様子 ©YOLLIKO SAITO

そして後半で、戸室さんが登場。彼が世界の医療団の企画に参加するのは、2019年の福島以来2回目とのこと。「自分は医療従事者のように直接何かができるわけではなく、ピアノで音楽を届けることしかできない。チャリティコンサートで音楽を楽しんでもらい、いただいたご寄付が、何らかの形で具体化されるならばと参加している」といいます。

《ラ・ヴァルス》に感じる戦争の描写

まずはJ.S.バッハ=ケンプ編のカンタータ《神よ、われら汝に感謝す》にはじまり、ショパンのバラード第1番、シューベルトの即興曲第3番と演奏。ショパンがポーランドを離れ、パリに落ち着いてほどない頃、現地の同郷の人々と絆を深め、ロシアの支配下となった祖国を想いながらこの作品を書いたこと、また戸室さんにとってシューベルトは“天使”で、彼の作る音楽は「宇宙の始まりからつながり、私たちには見たり触れたりできないものから生まれた偉大なものだと感じている」という話が語られます。

続くラヴェルの《ラ・ヴァルス》についても、当初、交響詩「ウィーン」というタイトル案があったものの、第一次世界大戦後、オーストリア=ハンガリー帝国が滅びてしまったことによって実現しなかったということ、終盤の不協和音や爆撃のような音に戦争の描写を感じるというお話が。

あまりに生々しいので、この会で演奏するのは適当でないかもしれないと思ったけれど、「この曲を通じて少しでも戦争がどういうものか感じていただけたらと思い直した」と戸室さん。楽曲について、戸室さんがときに「これは僕の考えなのですけれど……」と前置きしたうえ、自分の言葉で語る解説は興味深く、音楽の意味するものがより伝わってきます。

曲間では戸室さんが曲について解説、戸室さん自身の言葉によって、音楽の意味するものがより伝わってきた©YOLLIKO SAITO

音楽を堪能し人道支援にも貢献できる機会

アンコールには、バッハの《主よ人の望みの喜びよ》、そして、ピアソラの《リベルタンゴ》。自分のペース、自分だけの音楽を大切に、心から溢れ出るものをそのまま届けるスタイルの戸室さんの演奏は、直接心に響いてきました。

前半に報告されたウクライナの現状を思い起こしながら、ここでしか聴けない曲の解説、演奏を堪能したことと、参加費のチケット代がウクライナの医療支援に充てられるということにより、とてもいい会に参加できたという実感がありました。

もちろん、アーティストの協力があってこそ実現した企画ですが、参加する側の満足度も高く、持続可能な人道支援活動の一つの手段として理想的な形だと思って、ご紹介したくなりました。現場で力を発揮している方々のため、こういう企画にはこれからも積極的に参加していきたいものです。

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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