音楽ことばトリビア ~フランス語編~ Vol.7

蝉はヴァイオリンより歌上手

読みもの
2018.08.21
小阪亜矢子 声楽家・翻訳家
小阪亜矢子
小阪亜矢子 声楽家・翻訳家
東京藝術大学声楽科卒業。尚美ディプロマ及び仏ヴィル・ダヴレー音楽院声楽科修了。声楽を伊原直子、中村浩子、F.ドゥジアックの各氏に師事。第35回フランス音楽コンクール第...

Les cigales chantente mieux que les violons.

レ・シガル・シャント・ミユー・ク・レ・ヴィオロン

蝉はヴァイオリンより歌上手

夏も佳境だ。日本の音楽家にとっては、演奏していると、期せずしてセミとの共演になってしまう季節でもある。フランスの虫×音楽事情はどうだろうか。

フランス語でセミはcigale(シガル)と言い、時に「浪費家」を表す。日本で「アリとキリギリス」として知られる「アリとセミ」の寓話からだ。そして、セミは歌曲にも歌われている。

シャブリエ <6つの歌曲>よりNr.3「蝉」 (ジェラール詩)

シャブリエが曲をつけた、ロスモンド・ジェラールのこの詩によると、セミは「嗄(しわが)れ声」だが「ヴァイオリンより歌が上手い」らしい。ピアノパートから想像される鳴き声も、日本の蝉に比べるとだいぶソフトだ。

留学して間もない頃、「A la cigale (蝉に)」という曲を演奏したことがある。しかし、曲の印象と日本のセミとのギャップが強すぎて、しばらくカモメの歌だと思っていた。英語でカモメが「シーガル(seagull)」だから、という酷い勘違いだが、その程度にはセミ感が薄い。

エマニュエル: Op.13 < 3つのアナクレオン風の小叙情詩> よりNr.2「蝉に」(ベロー詩)

その時の仏人ピアニストに、セミについて尋ねた。まず、セミは好きかと訊くと

「世の中には他にもっと良いものがあると思う」

という婉曲的な否定の返事。しかし、南仏に多く生息するので、バカンスのイメージだという。実際、南仏では「幸運を呼ぶ」としてセミの置物やお守りを売っている。

陶器製のセミの置物
同じくマグネット

ちなみに蝶(papillon パピヨン)は「浮気者」らしい。フォーレの歌曲「蝶と花」は、蝶に恋をした花が、自由に飛び回る蝶と地に縛られた自分を比べて絶望する、という内容である。

フォーレ:Op.1 <2つの歌曲>よりNr.1「蝶と花」(ユゴー詩)

「パピヨン」は可憐な響きだが、フランス語では蛾も蝶もパピヨンだ。日本語で「夜の蝶」などと言うが、「papillon de nuit (夜の蝶)は蛾を指す。そして蛾も美しいものと認識されている。蛾嫌いの方にはショックだろうが、虫が少ないと分類も大雑把なのだ。

蝶の歌曲はショーソンにもあるが、その羽を借りて恋人の胸に飛び込みたいという内容だ。できれば蛾でない方がありがたい。

ショーソンOp.2 <7つの歌曲>よりNr.3「蝶々」 (ゴーティエ詩)

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