女が15歳にもなれば
クラシック音楽と語学は切っても切り離せないもの。「音楽ことばトリビア」は各国語に精通したナビゲーターの皆さんが、その国の音楽とことばをテーマに綴る学べるエッセイです。
イタリア語編ナビゲーターは、20年間イタリア・ミラノに拠点を置いていたオペラ・キュレーターの井内美香さん。第4回はモーツァルト《コジ・ファン・トゥッテ》より!
学習院大学哲学科卒業、同大学院人文科学研究科博士前期課程修了。ミラノ国立大学で音楽学を学ぶ。ミラノ在住のフリーランスとして20年以上の間、オペラに関する執筆、通訳、来...
Una donna a quindici anni
(ウナ・ドンナ・ア・クインディチ・アンニ)
女が15歳にもなれば
今日ご紹介するイタリア語は、モーツァルトの《コジ・ファン・トゥッテ(女はみんなこうしたもの)》というオペラの中に出てくる、デスピーナが歌う「女が15歳にもなれば」というアリアの冒頭部分です。
デスピーナは美人姉妹、フィオルディリージとドラベッラの家に住み込みで働いている小間使い(身の回りの世話をするお手伝いさん)。それぞれすでに婚約者がいる姉妹に、お金持ちでカッコいい外国人求婚者たち(実は姉妹を試すための婚約者たちの変装なのですが)とお楽しみの浮気をするようにそそのかします。
そこでの、デスピーナの主張はこうです。
「15歳にもなれば、世間で何が一番流行っているかをすべて知らなければいけません。悪魔はどこにしっぽを隠しているのか。何をしていいのか。何をしたらいけないのか。あなた方に恋する男たちを虜にする罠を仕掛けられなくてはだめですよ。笑うふり、泣くふりをして、適当な理由をこしらえるんです」
イタリア語としては、Una donna:女が、a quindici anni:15歳のとき、という意味です。
〈20歳のとき〉はa vent’anni ア・ヴェンタンニ(母音が重なる所は[’]で一文字省略して読みをつなげます)
〈30歳のとき〉はa trent’anni ア・トレンタンニ
〈40歳のとき〉はa quarant’anni ア・クワランタンニとなります。
孔子の「四十にして惑わず」をイタリア語に訳せば
A quarant’anni non avevo più dubbi ア・クワランタンニ・ノン・アヴェーヴォ・ピュウ・ドゥッビ (40歳にして私はもう疑いをもたなかった)となります。
そういえばモーツァルトがこのオペラを書いたときから100年以上もたってプッチーニが作曲した《蝶々夫人》では、アメリカの海軍士官ピンカートンとの結婚式で歳を聞かれた蝶々さんが、
「quindici netti, netti; (con malizia) sono vecchia diggià クインディチ・ネッティ・ネッティ/ソノ・ヴェッキア・ディッジャ 」
(ちょうど15歳です。(いたずらっぽく)もう年増ですわ)
と答える場面があります。青春が花開いたばかりだった蝶々さん。第1幕での彼女が若く輝いているからこそ、第2幕でピンカートンに捨てられ子供を奪われた蝶々さんが、自らの命を絶つという悲劇が際立つことになるのです。
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