読みもの
2023.03.14
連載「教師の悩み相談室」

児童への不適切な行為を目撃 同僚としてどうしたらいいのか


学校に一人が当たり前の音楽科教員。「授業がうまくいかない」「相談しようにも誰にも言えない」など、教師を取り巻く悩みは尽きません。そんな教師の悩みを知り尽くした明治大学の諸富祥彦教授に、教科教育を超えた悩みに答えていただく『教育音楽』のご長寿連載「教師の悩み相談室」。今回は、同僚の児童に対する不適切な行為を見てしまい、どうしたらよいかという悩みをご紹介します。

諸富祥彦
諸富祥彦 明治大学教授

1963年福岡県生まれ。1986年筑波大学人間学類、1992年同大学院博士課程修了。「確かな理論 楽しい語り」で定評がある。日本トランスパーソナル学会会長、教師を支え...

「教育音楽」編集部
「教育音楽」編集部  授業・行事・部活にいきる音楽教師の応援マガジン

全国の音楽の先生に役立つ誌面をつくるため、個性あふれる先生、魅力的な授業、ステキな部活……音楽教育の現場を日々取材しています。〔音楽指導ブック〕〔教育音楽ハンドブック...

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先日、同僚が児童に不適切な接触をしようとしているのではないかと思われる場面を見てしまいました。ショックで気持ちが悪いです。子どもたちを守らなければいけない立場なのに、どうしてそんな感情を持ってしまうのでしょうか?

 

教員の懲戒処分が増加中 厳罰主義も仕方がない

先生方から相談を受けるようになって20年経ちましたが、以前からこういう人は一定数います。近年は、不適切な行動・行為によって懲戒処分を受ける教師が確実に増えています。理由の1つは、飲酒運転や交通事故などです。2つ目は校外で未成年の子どもとわいせつな行為に及んだことによる条例違反。そして3つ目がご相談のように、校内での児童・生徒への不適切な接触です。多くの場合が男性教員から女子児童・女子生徒に、というものです。

最近はコンプライアンスを非常に重視するようになってきているため、うやむやにできなくなってきました。そういった時代の趨勢が影響して、子どもの人権を侵す行為に対する懲戒処分の数が増えているのですが、まず申し上げておきたいのは、児童・生徒への不適切な行為は絶対にやってはいけないことだということです。

児童・生徒にしてみれば、自分たちを助けてくれる、支えてくれるべき存在である教員が、チャンスを見計らって不適切な行為に及んでくるのです。拒みにくい関係を利用しながら迫られるのは耐え難く、とても大きな心の傷を負うことになります。

私は某県のスクールカウンセラーをしていますが、毎週のように新聞の切り抜きが配られて、県内で懲戒処分になった教員について知らされます。子どもに不適切な接触をしようとして処分され、人生を狂わせる教師が少なくないのが現実です。

こういった行為には何が抑止力になるのかと言われると、残念ながら現実的には厳罰主義しかないように思います。絶対にやってはいけないことに手を染めてしまったのですから、職を失ったり、停職処分になったり、キャリアに傷が付くといった相応な処分を受けるしかないでしょう。

小学生に性的魅力を感じる男性が小学校教員の中にいるのも現実

そもそもなぜ、こういったことが多いのでしょうか。同僚への大きな不信感につながってしまうかもしれませんが、小学生くらいの年齢の少女に対して、性的な魅力を感じる男性が小学校の教員を志してしまっているケースは確かにあると思います。「もともとそういう志向性があって教員になった。だから衝動を抑えるのが大変だ」という先生の相談を受けることもありました。趣味が高じて職業にする人はたくさんいます。例えば、アイドルが好きで芸能事務所に入ったり、音楽が好きでミュージシャンになったりする人もいるでしょう。「大好きな存在の近くにいたい」「好きなものを見ていたい」「もっと知りたい」というのは、人間の普遍的な欲求です。

小さい女の子が大好きで、毎日一緒にいられるから小学校の教員になりたいというのも、同じ理屈ではあります。非難が集まりそうですが、まったく理解できないことではありません。中学生が好きな人が中学校教員に、高校生が好きな人が高校教員になっているのも疑い得ないことでしょう。女子高生が好きな教師には、昔はその生徒が卒業するまで待って結婚するケースもありました。しかし小学生の場合は、そもそも特定の子が好きというより、「小学生くらいの少女に性的魅力を感じる」人が少なからずいるように思われます。

一人で悩まず、管理職に相談 専門家の治療や指導が必要

ご相談の先生が「ショックで気持ちが悪い」というのは、本心だと思います。私も、教員採用試験の段階で見抜く方法や、うそ発見器のようなものはないのか、と聞かれることがあります。それだけ子どもが受ける性的被害のダメージは甚大で、何とか阻止しないといけないのです。

昔は行動療法などで電気ショック療法といった荒治療も行われていました。不適切な対象を見て性的に興奮したら電気ショックを与えるのです。今では人権に接触するかもしれません。

今大切なのは、教師一人ひとりが内省して自分で自分をコントロールできるようにすることです。教員は、自分の人生を守るために冷静になって、どれだけ大きなものを失うのか先々のことを考え、自己抑制していくしかないのです。大切なのは、本人自身が問題意識を高めていくことです。本人も自分で自分の性癖をどうすることもできず、困惑しているかもしれません。そのようなとき、どうすればよいのでしょうか。

私がいつも言っているのは、ある感情、持ってはいけない感情から距離を置くには「その場所から離れる」のが一番だということです。児童を見て性的に興奮してしまう教師の場合も、対象や現場に遭遇したら違う場所へ移動する。どうにも気持ちが収まらないのであれば、自分から願い出て違う部署に移る。社会教育主事の資格を取るなどして、大人しかいない職場に変えてもらうのも一案でしょう。そうしないと、いつしか大きな問題が起きかねません。

ご相談の先生も一人で悩まず、早く管理職に相談した方がいいでしょう。直接的な行動も起こさないでください。「あなたは特別な性癖の持ち主なの?」などと責めたりすると、相手は逆上して逆にあなたがいじめられたり、トラブルに巻き込まれたりしかねません。

管理職が呼び出して、重大な事案になる前にセルフコントロールを促し、場合によってはコンプライアンス研修会に出てもらいましょう。それでもリスクが高いと感じられたり、本人が援助を求めていたりする場合には、教育委員会が連携しているカウンセラーの所へ通うようアドバイスをするのもいいでしょう。

行動改善のプログラムをつくってもらい、どうしたらそういう性癖を改善できるのかを心理学的に一緒に考えて、トレーニングしてもらうのです。守秘性の高い問題ですので、校内のスクールカウンセラーではなく、外部の人の方が安心して相談できるでしょう。一人で治すのは難しいですが、その人自身が対峙しなければ何にもならないので、早く気づいてもらい、相談行動に出るよう促していただきたいと思います。

諸富先生からの一言

ショックで気持ちが悪いと思うご相談の先生の気持ちはよく分かります。ただ、残念ながら少人数であってもそういった志向性を持った教員が存在しているのは事実でしょう。一人で悩まず、まず管理職に相談し、その同僚にはしかるべき治療なり指導を受けるように促してもらうのはいかがでしょうか。まずは本人自身が問題意識を持つことが大切で、そこからしか何も始まりません。

――『教育音楽』2020年3月号 連載「教師の悩み相談室」より/諸富祥彦(明治大学教授)

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諸富祥彦
諸富祥彦 明治大学教授

1963年福岡県生まれ。1986年筑波大学人間学類、1992年同大学院博士課程修了。「確かな理論 楽しい語り」で定評がある。日本トランスパーソナル学会会長、教師を支え...

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